鏡像関係は、絶対的孤独な人間の寂しさと孤立感を癒す
人は誰でも生きてきた中で、逆境に遭遇したことは何度かあるのではないでしょうか。逆境に立たつと二進も三進もいかず途方にくれてしまったり、または、なにくそと奮起を促し自分では考えられない力を発揮する場合もあります。
先日、北京オリンピックで正に平野歩夢選手は逆境に立たされました。スノーボード男子ハーフパイプ競技で、2本目完璧な演技をしたにも拘わらず、全くそれは何を見て評価したのかと不思議に思うほど最悪の採点で、不当な評価でしたが、3本目のパフォーマンスでもっと完璧な演技をし、見事逆境をばねにして金メダルを獲得しました。
逆境に直面したとき、自分の弱さと向き合い、どのように乗り越えればいいのか。逆境に打ち勝つための心の向き換え方を、平野歩夢選手を例に挙げて、精神科学の視点から考えてみました。
平野歩夢選手がピンチをチャンスに変えた魔法のテクニック
2本目の不当な採点に対して審判を愚かだと責めることなく、彼は怒りをハングリー精神でもっと完璧な演技をする、と書き換えました。一般的には、不本意な採点に怒りで自分の心を乱し、力み過ぎて3本目は失敗してしまうことが多いのが通例です。
ところが彼は怒って却って冷静になり、怒ることではなく、もっと素晴らしい演技をすると書き換えました。逆境をチャンスに変えました。これを精神科学では去勢と言います。
審判が文句のつけようがない演技をすればいい! と審判を責めなかった。それを誤審だというのは簡単ですが、審判を批難しても何も変わりません。彼はそれを知っていました。
敵は我の裡にあり。私が私を尊べばいいと、不当な採点への怒りを自分のヤル気のパワーに換えました。あの怒りこそが全て。普通は怒りで自滅しますが、彼はそれ以上の、却って彼の更なるスピリットを刺激して、自分でも信じられないようなパワーを出しました。あの構造こそ、精神分析でいうΦの去勢に当たります。
不当な審判の採点を完璧な演技に換えたプロセス
彼は不本意な審判の採点に対する「怒り」を換喩によって、怒りの主体からベクトルを審判に換えました。審判とは採点のマシーン+人間です。人間という想像(主観と錯覚)と現実を外すと象徴的言語の採点が残ります。言語のみにすることを「意味を抜く」と言います。意味を抜くと「怒り」から感情が無くなります。
一番のポイントは、不当な採点をした審判を「採点」に換喩できるかどうかです。この換喩機能=Φ(ファルス)の機能があることが彼の能力です。
採点の対象は、今度は自分自身になりました。それはパフォーマンス、演技を更に完璧にすればいいと考え、「怒り」から想像界の感情や現実界の人間を取り除き、象徴界の言語のみにしました。そして最終的に象徴界の言語を「もっと完璧な演技」と書き換えました。これは全て言語の操作です。
今の自分を否定し新しい理想へ書き換える
去勢とは歴史的真理も踏まえながら、猶且つジャック・ラカンは、いつどんな時でも起こり得ると言っています。チャンスはあると言っています。自分の思い通りにならない時、逆境に立ったときこそ去勢を被れるチャンスです。そして書き換えると設計図が根本から変わり、コンセプトが変わります。何が自分の理想か、それを平野歩夢選手は見事に「怒り」でやってのけました。
逆境をいかに主体の言語に書き換えるか。正に逆境こそがチャンスです。チャンスと受け取れる精神が、もっと更にと、平野選手のようにハングリー精神で挑み、更に高みへと、自分が描く理想の自分に近づいていきます。その理想のイメージが逆境を突破するのです。
もし、平野歩夢選手が2回目のパフォーマンスを自分の最高の演技だと、審判の不当な採点を受け容れず、可能性を諦めてやる気を失い、ネガティブに捉えていたらどうだったでしょう。3回目のもっと完璧な演技はありません。
しかし、平野歩夢選手は現実と向き合い、不当な審判の採点を受容し、2回目の完璧な演技を否定したからこそ乗り越えられたのです。
まとめ:逆境の乗り越え方
■現実と直面し、そのまま受容する。
■努力をする。努力は自信になる。
努力は報われないことがあると言われますが、報われない努力はあるでしょうか。必ずいつか花開く時が訪れます。実現されてない時は、まだ熟成の途中と考えられます。一つ一つの努力は自信となり自分の支えとなります。自分を信頼する限り、逆境はチャンスに切り換えられるのです。
■自分の理想は何か見つめ直し、言語を書き換える。そして勇気をもって方向性を変える。
■ピンチはチャンス! 最悪は最良! 未来は決めつけない!
逆境は、新しく生まれ変われる時が来たと喜び、未来は決めつけないこと。諦めずに逆境を乗り越えるたび、新しい自分となり視野が広がります。そのため今の自分では未来は予想できないのです。決めつけることは、自分の未来を閉ざすことになります。最悪は最良と思考すると、最良になります。それが言語の力です。
人生の中で逆境を迎えたとき嘆き絶望しますが、実はそれは自らの成長の好機なのです。
セラピストの格言
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