定年後起業するために準備すべき必要なもの
社会保険労務士(以下、社労士)は企業経営を「人」の面から支える人事のスペシャリストです。その業務は「労働社会保険手続き業務」「労務管理の相談指導業務」「年金相談業務」「個別労働関係紛争解決をサポートするADR代理業務」「補佐人としての業務」などで実に多彩です。
社労士は働き方改革が進展するなか、注目を集めています。この記事では、社労士の業務のほか、成功している社労士に必要なことを解説します。
定年後、社労士と名乗るために必要なこと
定年後、社労士として独立開業する人が増えています。社労士とは、社会保険労務士法に基づいた国家資格です。企業経営には情報やモノなど、さまざまな要素が必要ですが、社労士は企業経営を「人」の面から支える人事のスペシャリストです。
社労士になるためには、年に1回行われる社会保険労務士試験に合格しなければなりません。合格率は近年5~10%で推移しており、難化傾向にあります。また、試験科目は労働基準法や労働安全衛生法、労働者災害保険法、健康保険法、国民年金法、厚生年金法などと幅広く、相応の学習時間をかけないとクリアできないと言われています。
社労士試験に合格しただけでは「社労士」と名乗ることができません。名乗るためには一定の実務経験または実務講習を受け、都道府県にそれぞれある社会保険労務士会の名簿に登録する必要があります。登録して初めて「社労士」になれるのです。
難しい試験ではありますが、合格して定年後に独立開業する際には強い武器になります。近年、労働力人口が減少し、働き方改革が進展するなか、企業経営において「人」の取り扱いがクローズアップされており、相談業務が増加すると見られているからです。
今後、外国人労働者が増えることも見込まれており、労働環境が激変するなかにあって、社労士の活躍のフィールドはますます広がっていくと予想されます。
社労士の業務は多種多様
社労士の業務は多岐にわたりますが、大別すると5つあります。
1つ目は「労働社会保険手続き業務」です。労働社会保険の適用や年度更新、算定基礎届の提出のほか、各種助成金の申請、労働者名簿および賃金台帳の調製、就業規則の作成などを行います。
2つ目は「労務管理の相談指導業務」です。雇用管理や人材育成、人事、賃金、労務監査などを行い、企業における良好な職場関係を構築するための解決策を提案します。
3つ目は「年金相談業務」です。年金の加入期間や受給資格の確認のほか、裁定請求書の作成および提出を行います。
そして、4つ目は「個別労働関係紛争解決をサポートするADR代理業務」です(ADRとは、当事者同士の合意に基づき、裁判によらない方法で解決を目指すことです。あっせんや調停、仲裁などの方法があります)。
近年目立っているセクハラやパワハラをはじめ、さまざまな個別労働関係紛争の解決を、依頼を受けて行います。ただし、特定社会保険労務士でなければ受託できないので覚えておきましょう。
最後5つ目は「補佐人としての業務」です。弁護士とともに労働社会保険に関する行政訴訟や個別労働関係紛争に関する民事訴訟の解決にあたります。
いかがでしょうか。社労士は手続きや相談、裁判など業務の幅が広いことがわかると思います。
自分の得意分野を打ち出して差別化を図る
社労士と独立開業して成功するためには、どんな要素が必要でしょうか。
やはり、人事の経験があると有利でしょう。とはいえ、人事と一口に言っても、採用や教育・研修、規則など多岐にわたります。大企業の場合、一般的に採用担当、教育担当などと担当が細かく分けられているケースが多く、人事にかかわる業務をすべて経験したことがある人は少ない印象です。もし、あなたが採用担当として長くやってきたのなら「採用に強い社労士」として売り出すことも一案でしょう。
人事は企業経営に重要であるものの、経営者にとって馴染みの薄い分野です。思い浮かべてみるとよくわかりますが、人事を専門としている経営者などほとんどいないのです。経営者の多くはたいてい営業や開発の出身者であって、人事のことはよくわからないことが多いのです。
だからこそ、社労士の専門性が強く求められていると言えます。売れている社労士は、経営者の課題に寄り添ったアドバイスを必ず行っています。
社労士は手続き関係を行う“事務屋”として見られがちですが、社労士間の競争が厳しくなるなか、それだけでは生き残ることは難しいでしょう。
独立開業する際には、人事コンサルタントとして何かしらの強みを打ち出すと成功しやすいと思います。上述したように、人事分野のなかで自分の得意な領域を打ち出し、特化した形で営業するのもよいでしょう。
中小企業において「人」で悩んでいない企業は皆無と言っても過言ではありません。労働力人口が減少する時代になって「人」の問題はさらにクローズアップされていくでしょう。自分のキャリアを棚卸しして、どの領域を打ち出して、社労士として独立開業するか定年前から考えておくとよいでしょう。