定年後に中小企業診断士として開業するときのポイント
シニア起業家が会社を設立する場合、資本金をいくらにするのが適当でしょうか。資本金は許認可や融資を得るために必要なものですが、1000万円未満にするかどうかで税負担がかなり変わります。
この記事では、会社を設立する際に考慮する5つのポイントに触れながら、適切な資本金額について解説します。
定年後、シニア起業家を悩ませる資本金の額
定年後に法人を設立する際に、シニア起業家からよく相談を受けるのが「資本金をいくらいにするべきか」という話です。ご存知の通り、法改正によって、資本金1円から会社を設立することができるようになりました。
とはいえ、実際のところ、資本金を1円としている会社は思いのほか少ないのが実態です。なぜでしょうか?
それは「資本金は会社にとって意味のあるお金」だからです。
最適な資本金の額を解説する前に、そもそも資本金とはいったい何かということを説明しておきましょう。
資本金とは「出資者が企業に拠出した資金」のことであり、「事業を行うための元手」でもあります。資本金が意味することから類推すると、資本金の大小は企業の規模や体力を表わしているといえるでしょう。
起業して会社を設立する際に必要な資本金の額とは?
資本金の意味を理解したところで、資本金をいくらにするべきか考えていきましょう。資本金を決めるポイントは次の5つです。
ひとつめは「運転資金」です。一般的に、会社設立後、利益を出して自走するまでには相応の時間がかかります。
その期間は業種やビジネスモデルにもよりますが、3~6か月程度と言われています。
例えば、毎月の運転資金が100万円必要な場合、利益ゼロでも運営が可能なように、資本金を300万円用意しておくとスムーズに事業に取り組めるでしょう。
ふたつめは「信用獲得」です。ある程度の資金力がないと、取引先から「この会社は大丈夫だろうか」と思われてしまう可能性があります。
特に、初めて取り引きを行う場合はその傾向が顕著です。大企業を中心に、資本金の額を重視する傾向があります。そのため、会社を設立する前に、取引先に必要な資本金の額について問い合わせておくのも一案です。
三つめは「融資獲得」です。銀行から融資を受けてビジネスを行う場合、手元資金の有無が必ず問われます。資本金が豊富であれば、多くの融資を受けられる可能性があります。
一般的に資本金の3倍くらいまで融資する金融機関が多いでしょう。例えば、3000万円の融資が必要であれば、資本金は1000万円以上あるとベターです。
四つ目は「許認可取得」です。業種によっては一定の資本金がないと、許認可を取得できないケースがあります。
例えば、旅行業は3000万円以上、人材紹介業は1000万円以上、有料職業紹介事業および建設業は500万円以上などとなっています。これらの業種で起業することを想定しているなら、定年前から貯蓄に励むなど計画的に動くのがよいでしょう。
特段事情がなければ資本金は1000万円未満にするべき
五つ目は「税金」です。実は、資本金の額が1000万円未満であれば、会社設立時の1期目および2期目に限りますが、消費税の納税義務がなくなります。
また、法人地方税の均等割りにおいては資本金が1000万円以下の場合、一定額のみ負担すれば済みます。では消費税と法人地方税について詳しく見ていきましょう。
最初に消費税についてです。例えば、1000円の雑貨を販売したとしましょう。このとき、販売額は1080円(うち80円が消費税)とし、仕入れ540円(うち40円が消費税)、利益540円(うち40円が消費税)とします。
このケースでは、資本金を1000万円未満とした場合、利益に含まれる40円を負担する必要はありません。
一方、資本金1000万円以上の場合、利益に含まれる40円を負担しなければなりません。一般的に1期目および2期目は少しでも手元現金がほしい時期。消費税額を少なくしたいならば、資本金は1000万円未満にしておくとよいでしょう。
次に法人地方税についてです。法人地方税はたとえ赤字であっても負担しなければならない税金です。法人地方税において、資本金1000万円以下であるかどうかは長期的な税負担にかかわってくるだけに慎重に決めたいものです。
資本金1000万円以下の場合は、法人地方税は約7万円負担するのみで済みますが、資本金1000万円以上では、約18万円納付しなければなりません。
税額は10万円以上違うので、特段必要がなければ、法人を設立する際の資本金は1000万円以下をおすすめします。
これまで説明してきたように、資本金は税負担のみならず、企業の信用や許認可などにもかかわる重要なものです。それだけに知識をきちんと備えて資本金の額を検討するようにしましょう。
資本金は会社を始めた後に必要に応じて増額することも可能ですが、面倒な手続きがあります。そう考えると、プロの視点が必要でしょう。必要に応じて、税務や経営の専門家に相談することをおすすめします。