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やさしい為替デリバティブの話(2)

東野修次

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前回に引き続き、為替デリバティブのお話しをします。
為替デリバティブは、円安リスクをヘッジできるにもかかわらず、ゼロコスト、すなわち、費用がかからないものです。
しかし、どうして費用がかからないのでしょうか。

それは、為替デリバティブでは、
①「3ヶ月後に1ドルを120円で買うことができる権利」を銀行から買う
だけでなく、
②「3ヶ月後に1ドルを120円で売る権利」を銀行に売る
という取引を併せて行っているからなのです。
①は、権利を買っているわけですから、売買代金を支払う義務を負うものです。
しかし、②は権利を売っているので、銀行から売買代金をもらうことができるものです。
そして、①と②の代金を相殺すると、結果としては、代金は払わなくてよい、すなわち、ゼロコストになるというわけです。

ところで、②の「1ドルを120円で売る権利」を売る、とは、どういうことでしょうか?
頭がこんがらがりそうなので、平易に言ってしまうと、「売る権利」を売ると、「買う義務」を負うことになります。銀行に対して「買う義務」を負う代わりに、料金をもらえるというわけです。
ちなみに、「買う権利」はコールオプションと言いますが、「売る権利」はプットオプションと言います。

為替デリバティブの話に戻ります。
為替デリバティブの契約をした中小企業は、
「3ヶ月後に1ドルを120円で買う権利」を手に入れるとともに、
「3ヶ月後に1ドルを120円で買う義務」を負うことになります。

もし、3ヶ月後の為替レートが、1ドル=130円になっていたとすると、企業は、「買う権利」を行使して、1ドルを120円で買います。
他方、「買う義務」の方は、銀行が権利を放棄しますので、何も起きません。
企業は、ゼロコストでドル安リスクをヘッジできたことになり、儲けものです。

ところが、もし、3ヶ月後の為替レートが、1ドル=110円の円高になっていたら、どうなるでしょう?
まず、「買う権利」の方は、市場で1ドル110円で買えるわけですから、わざわざ120円で買う必要はなく、企業としては、権利を放棄することになります。
他方、「買う義務」の方は残ります。すなわち、企業は、銀行から、1ドルを120円で買わなければなりません。しかし、市場では1ドル=110円で取引されているわけですから、120-110=10円の損になります。

昨今、1ドル=80円を超える円高になることがあり、企業の損失は、更に拡大しました。
一ヶ月あたり数百万円の損失を抱えることとなった企業も少なくなく、本体事業の業績は良いのに、為替デリバティブの損失のせいで倒産する企業すら現れました。

皆さんの中には、「為替デリバティブで損が出るなら、解約してしまえばよいのではないか」と思われた方もあるかも知れません。
しかし、為替デリバティブ契約は、数年間の契約期間が定められ、その間、解約はできず、解約できたとしても極めて多額の解約金を支払わなければならないのです。
この、契約期間の縛りこそ、為替デリバティブ問題を拡大させた決定的要因といえます。
オプションを買ってリスクヘッジするにしても、長期にわたる為替レートの予測は実際上不可能ですから、オプションの対象期間は、だいたい3~6ヶ月先までが普通です。
ところが、為替デリバティブでは、5~10年という極めて長期間の契約期間が定められているのです。

為替デリバティブには、他にも、「ギャップレート」とか「ノックアウト条項」といった、企業に不利な特約が定められていることが多く、損失が一層拡大する要因となっていますが、詳細は割愛します。
次回は、為替デリバティブの損が出ているときに、企業がどうすればよいのかをお話しします。

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東野修次
専門家

東野修次(弁護士)

東野&松原&中山法律事務所

長年蓄積してきた法律のノウハウに経営、財務の知識を加え、中小企業の事業再生、大阪の活性化への貢献に力を注いでいます。

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