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西村隆志

中小企業の立場にたった債権回収の専門家

西村隆志(にしむらたかし) / 弁護士

西村隆志法律事務所

コラム

強制的回収

2013年11月19日 公開 / 2020年1月21日更新

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 退職 手続き退職金制度 導入

 話し合いによる方法や督促などでも回収が難しい場合は、裁判所の手続きを通して、
強制的に債権を回収していくことになります。

 (1)担保権がある場合
 抵当権などの担保権がある場合には、その担保権を実行していきま
す。

 (2)担保権がない場合
 担保権がない場合で、任意の支払いを期待できないものの、債権の存在自体に争いがない
ケースは、「支払督促」という方法が有効です。
 また、少額(60 万円以下)の債権については1日で解決できる「少額訴訟」という
手続きを取ることもできます。
 これに対して、任意の支払いを期待できず、さらに債権の存在が争われる可能性がある場合は、
「訴訟提起」をおこなう必要があります。
 裁判は判決が下されるまで、かなり時間がかかることもあります。そこで、財産の処分や
隠匿のおそれがあるような場合は、「仮差押さえ」を訴訟前に申し立てることができます。
 判決で勝訴した場合、判決の内容に基づいて強制執行をします。ここで、担保がない場合の
強制的な債権回収の流れを確認してみましょう。

STEP1:仮差押さえ

 仮差押さえとは、強制執行する準備として、訴訟などをおこなう前に債務者の財産を
仮に差し押さえて、財産の処分をできない状態にしておくことです。その後、債務名義を取得し、
その財産を確実に取得することができます。
 仮差押さえをせずに裁判をおこなうと、裁判の間に債務者が自己の財産を隠したり、
処分したりといった可能性が生じます。
 その結果、たとえ勝訴して債務名義を取得しても、債務者には資力がなく、差し押さえる
財産もない状態になって、債権回収できなくなることもあり得ます。
 そこで債務者の財産について先に処分権を奪っておき、債務者の財産の処分や隠匿を防いで、
後の強制執行の実効性を確保することが仮差押さえの目的です。
 また、仮差押さえを受けた債務者が、任意に支払いをしてくることもあり、事実上、
任意弁済を促す効果もあります。

◆仮差押さえの要件
 仮差押さえの申立書には、被保全権利である自己の債権(金銭債権)を特定して記載する
必要があり、さらに「強制執行ができないおそれがあるとき、または強制執行に著しい困難が
生じるおそれがあるとき(保全の必要性)」という要件を満たす必要があります。
 この被保全権利の存在と保全の必要性については、すぐに取り調べられる証拠に基づいて
「事実だろう」と裁判官に思わせる程度の立証(疎明)で足ります。

◆手続き
 裁判所の管轄は、仮に差し押さえるものの所在場所、または本案の管轄裁判所になります。
 本案とは、被保全権利についての訴訟のことで、たとえば売買代金を回収するために
仮差押命令申立てをおこなう場合は、売買代金の請求訴訟が本案となります。
 仮差押さえするためには、申立人は担保金を納付する必要があります。この担保金の額は
事案によって異なりますが、多くの場合、被保全権利の額の1~3割程度の間で決定されます。
担保金の額は、立証の程度が低い場合は高めに設定される傾向にあります。
 この担保金は、仮差押さえによって債務者に損害が生じなければ、すべての手続きが終わった
後に取り戻しの手続きを経て返還されます。
 仮差押さえの手続きは、「不動産執行」「債権執行」「動産執行」の規定が必要に応じて
変更されておこなわれます。

STEP2:訴訟

◆訴訟手続きの概要
 まず、原告は管轄の裁判所に訴状を提出します。訴状は被告に送達されて、口頭弁論期日
という裁判の日にちが指定されます。
 訴状に記載された原告の主張に対して、被告は答弁書によって主張・反論をおこない、以降、
双方が交互に主張・反論を重ねていき、最終的に裁判所が証拠に基づいて判断します。
 裁判期日は、通常1ヶ月に1回ほどのペースで開かれます。判決に不服があれば、
14 日以内に控訴でき、控訴審でさらに審理をおこないます。
 訴状が送達されたにもかかわらず、被告が何の反論もせず、出廷もしない場合は、
原告の主張をすべて認めたものとして扱われます。
 訴訟の途中で裁判官により和解の提案がなされ、両者が合意できれば「和解調書」が作成され、
判決はおこなわれずに訴訟は終了します。

◆和解による解決
 裁判になっても必ず判決が出されるわけではありません。裁判の途中で、原告・被告それぞれが
納得のできる解決策がある場合は、和解によって訴訟が終了することもあります。
 たとえば100 万円の支払いを求める訴えにおいて、判決であれば「被告は原告に対して
金100 万円を支払え」というように、ただちに一括での支払いを求められます。通常では、
支払い期限を猶予したり、分割払いを命じたりすることはありません。
 しかし、和解であれば「支払い時期を半年後とする」「毎月10 万円の10 回払いとする」、
「90 万円を支払えば残り10 万円の支払いは免除する」といった当事者の間で合意内容を
柔軟に決定できます。
 さらに原告・被告の訴訟当事者だけでなく、利害関係人を和解の内容に含めることも可能です。
 また、和解調書は債務名義となるので、判決と同じように強制執行をすることもできます。

STEP3:強制執行

 強制執行については、「不動産執行」「債権執行」「動産執行」の順番に、その手続きや
種類について確認していきましょう。

◆不動産執行

○強制執行に必要な書類
 不動産は一般的に高額なので、抵当権や差押さえなどが付いていなければ、とても大きな
金額の回収を見込めます。そこで、相手が不動産を所有していないかをまず調査することが重要です。
 少なくとも相手が居住している場所、相手が会社であれば、本店所在地や事業所など、
住所が判明している場所の不動産登記を法務局で確認すると良いでしょう。
 強制執行をおこなうためには、勝訴(確定)判決、あるいは和解や請求の認諾、調停調書や
支払督促、執行証書などの債務名義が必要となります。
 この債務名義は強制執行を受ける債務者に送達する必要があり、送達した際の送達証明書も
申立てに必要です。
 また、強制執行には執行文の付与を受けなければいけません。判決の場合に執行文の付与を
受けるためには、判決の確定証明書も必要です。
 執行文は通常、債務名義の末尾に添付される形で付与されます。

○不動産執行の手続き
 不動産の強制執行では、強制競売の申立てにより、強制競売の開始が決定されます。
 これにより不動産の差押さえがおこなわれ、その後、競売の公告、競売(売却)、配当が
おこなわれます。
 不動産の強制執行で注意が必要なのは、対象の不動産に抵当権が付いていないか、付いている場合は
担保額がいくらかを訴えなどの前にできれば確認しておくことです。
 不動産の評価額を抵当権の額が上回る場合は、仮に競売をしたとしても、その売却代金全額は
抵当権者に支払われ、強制競売を申し立てた債権者に配当はないことになります。
 この場合は、原則として強制競売手続きは取り消されます。
 また、抵当権が付いていなくても、競売をおこなうためには、申立費用(請求債権1個につき
4,000 円)のほか、予納金を納める必要があります。予納金は裁判所や不動産評価額によって
異なります。
 たとえば、東京地裁であれば、2,000 万円までは60 万円、5,000万円未満が100 万円、
1 億円未満が150 万円と、かなり高額な予納金が必要です。
 この予納金は後に返却されるものですが、一度は納付する必要のある金銭なので、予納金を
準備することができるかも、不動産競売を申し立てるうえで重要な要素になります。
 競売に必要となる費用としては、ほかに登録免許税があります。これは請求債権額の0.4%に
相当します。

◆債権執行
 債権執行でも、不動産執行と同じ債務名義、送達証明書、執行文といった書類が必要になります。
債権執行では、債務者の第三債務者に対する預貯金債権、売掛債権などが主な対象になります。

○債権執行の手続き
 債権の差押命令申立書を裁判所に提出すると、差押さえ命令が債務者と第三債務者に送達されます。
この命令の効力は、第三債務者に差押さえ命令が送達されたときに生じ、第三債務者は、債務者への
弁済が禁止されます。
 そして、債務者に差押さえ命令が送達されてから1週間が経過すれば、債権者は第三債務者から
債権の取り立てをおこなうことができます。

○債権執行の種類
 債権執行には、主なものとして、1)「預貯金債権」、2)「売掛債権」、3)「賃料債権」、
4)「給与債権」の4種類があります。

1)預貯金債権
 預貯金債権については、第三債務者の口座が銀行や信用金庫の場合、支店まで特定して差押さえを
する必要があります。ゆうちょ銀行の場合は、支店の特定までは必要ありません。
 銀行預金以外に債務者に財産がないにもかかわらず、債務者の利用している銀行などがわからない
場合は、とりあえず債務者の住所地や本店所在地、主たる営業所の近くの複数の銀行などに債権額を
振り分け差押さえをおこないます。
 もしすべて空振り、または少額しか回収できなかった場合は、再度、残りの債権額に対して
差押命令申立をおこない、ほかの銀行などの支店に対して、差押さえをしていく方法を取らざるを
得ません。
 ただし、一度目の差押さえ時に差押さえが成功し、その額が少額だった場合は、債権者が債務者の
預金を差し押さえようとしていることが判明してしまいます。
 その結果、ほかの預貯金を出金されてしまうことも考えられるため、一度目の差押さえで、
できるだけ多くの債権を差し押さえる必要があります。

2)売掛債権
 相手が取引先に有している売掛金や工事代金などを差し押さえることもできます。この場合、
ある程度どのような債権であるかを特定する必要があります。
 たとえば、売掛金だとおよその契約日、売買した商品、売却代金などを特定する必要があります。
また、工事代金の場合は、およその契約日、工事内容、工事現場、工期などの特定が必要です。

3)賃料債権
 相手が不動産を所有していて誰かに貸している場合は、その賃料を差し押さえることができます。
回収する金額によっては、不動産を強制競売する場合と比べて、速やかに回収できるメリットがあります。
 反対に、相手が不動産を借りている場合に敷金を家主に差し入れていた場合は、敷金返還請求権を
差し押さえることができます。
 ただし、この場合は、家主も未払い賃料などの回収を敷金からおこなうことになるので、
差し押さえられる可能性は少ないといえます。
 敷金については、家主に対する未払賃料などがあった場合には、敷金返還請求権の差押さえをしても、
家主が優先的に支払いを受けることになるので、未払賃料などが多いような場合では、効果的では
ないこともあります。

4)給与債権
 債権執行では、給与の差押さえをすることもできます。
 しかし、給与のすべてを差し押さえてしまうと、債務者が生存にとって最低限の生活さえできなく
なるおそれがあります。
 そのため差押さえは、給与の額の4分の1までに限定されています。同様に退職金の差押さえを
することもできます。
 少し変わったものとして、病院が持っている診療報酬債権や、刑事事件になったときに保釈する
際に納める保釈保証金の返還請求権、税還付請求権なども差押さえの対象になります。
 債権執行において第三債務者が任意に支払わない場合は、結局、取立訴訟を提起する必要があります。

◆動産執行
 動産執行の場合も、債務名義、送達証明書、執行文が必要となります。高価な動産などは差押さえの
対象となります。
 ただし、動産のなかには生活必需品などとして、差押さえが禁止されているものもあるので注意が
必要です。
 たとえば、高価な絵画や宝石などの貴金属であれば差し押さえて回収することも可能です。
 また、機械や自動車も差し押さえることができます。機械や自動車など登録が必要とされるものに
ついては、誰の名義で登録されているかを事前に確認しておく必要があります。
 株式やゴルフ会員権も差押さえの対象になります。
 動産の差押さえとして変わったところでは、牛や馬などの動物、りんごや桃などの植物も差押さえの
対象となります。

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