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学校に行きたいのに行けない

野口由美

野口由美

テーマ:症例紹介

中学2年生の男の子が、ご両親と来院されました。
春先でまだ肌寒い季節ですが、半袖Tシャツに半ズボン姿です。

袖やズボンからのぞいた手足は異様に細く、折れそうなほど。
すらっと伸びた背と、手足の細さもあって、頭の大きさが目立ちます。

一目見て、栄養状態がどうなのか心配になる体型です。

「学校に行けるように元気になる催眠をかけてください」

「2年前から学校に行けなくなりました。
学校に行きたいけど、行けないんです。

いままで、病院もいくつも受診し、いろいろな検査もしてきました。
発達障害傾向はあると言われたのですが、確定ではなく、治療は必要ないということなんです。
カウンセリングもうけましたし、漢方治療もしました。
そのほかいろんな自由診療も受けてみました。
それでもやっぱり学校に行けないんです。

今日は、学校に行けるような、元気になる催眠をかけてもらおうと思って来ました」
元気よく、お父様が話されます。

「催眠は他でもやってもらったことがあって。
その時は、学校に行けそうな感じがあったのですが、翌日の朝になったら、やっぱり朝起きられない。やっぱり学校行けないんです」

「学校の成績はわりと良くて、勉強は好きな方なんだと思います。
どんくさいところがあるんで、ちょっとしたいじめはありますが、それでも学校には行きたいんですよ」

「学校でいやなのは、給食なんです。
食が細いので、少ししか食べられないんです。
すると、担任の先生に、早く食べろと言われるんですよ。
みんなで応援しようということになって、教室内でみんなから、『がんばれ、がんばれ』と言われたこともあって、学校給食はトラウマになっています。
そうなんやな?」

男の子はうんとうなずきます。
「あれは、いややった」

学校に行けないのは、朝起きられないから

朝起きられない、と言われました。
具体的にはどんな状態ですか。

「布団から出られないんです。
布団から起き上がれない。

小さいときから、朝は苦手で、布団からひきずって起こしてました。
起きてもずっとぼーっとしています。
学校に着いたころになって、ようやく眼が覚めるらしくて、
どうやって学校にいったのか覚えていないっていうんですよ」

「朝だけでなくだいたい一日中体調がよくないです。
吐き気や下痢が起こることもあるし、頭が痛いって言うことも結構あります。
風邪もよくひきますしね」

「ご飯も食べられない。
朝は特にご飯が食べられないですね。

すごく痩せてきたので、プロテインをのませたら、下痢してかえって体調が悪くなったので、やめました」

催眠療法をご希望とのことですが、お話しをお聞きしながら、催眠療法の前に、必要なことがあるかもしれないなぁと思いながらお話を聞いていました。

今日は催眠療法を希望されて来院されましたので、意にそわない話かもしれないのですが、催眠療法以外の治療法について、説明させていただいてもよろしいでしょうか。

「あっそうなんですね、なにかいい方法があればなんでも試したいと思っていますので、ぜひぜひ話を聞かせてください」

成長期はさまざまな栄養素がたくさん必要

まずね、一番気になったのは、すごく痩せていらっしゃるなってことです。
足も手もガリガリで、とっても細いです。

背は高いから、今、成長期まっただなかかなと思います。
でも食が細いので、栄養がとにかく足りていないというような印象です。

低血糖

持ってきていただいた血液検査をみますと、中性脂肪が49でとても低いです。
これは、低血糖に陥っていることを示しています。

中性脂肪がこんなに低いということは、低血糖状態の時間が結構あるということですから、かなりしんどいと思いますよ。
採血した時は、しんどくなかったですか。

「体調悪かったときで、採血の後、気持ち悪くなって、ベッドに横になりました」

低血糖だとエネルギーを作れないので、疲れやすいんです。

特に、夜間は食べたり飲んだりできないので、低血糖になっている可能性が高いんですね。
そうすると、朝起きたとき、エネルギーがぜんぜんなくて、起きたくても起き上がることができませんよね。

低血糖が改善して、エネルギーが作れるようになると、朝起きられるようになって、学校に行けるようになるんじゃないかなって思いました。

「なるほど!
食事だったのか!
今まで、栄養からの指摘は受けたことがなかったのですが、たしかに言われる通りです。
すごく納得します。
そうやなぁ?」

隣に座っている奥様もうんうんとうなずいておられます。

たんぱく質

また、血液検査結果からは、タンパク異化と代謝低下も示しています。

低血糖に陥ると、これは危機的状況ですから、筋肉を壊して、血糖を保とうとするのです。
これをたんぱく異化と言い、筋肉がどんどんやせ落ちて細くなりますから、ますます瘦せて見えますね。

たんぱく代謝が低下しているので、たしかにタンパク質は必要なのですが、プロテインとしてとると、消化されにくく、未消化なものが腸管壁から体内に入り込んで、悪影響を及ぼします。

アミノ酸のかたちでとるとよいでしょう。

食が細いということもあるので、スープや味噌汁などで、アミノ酸のかたちでとっていただくといいと思います。
スープや味噌汁なら食が細いひとでも食べやすいんですね。
また、食事に限らず、補食としてもとっていただけるので、おすすめです。

小麦製品を控える

いつも、どのようなお食事だったのですか?

「朝は食べないことが多くて、食べるとしたら菓子パンくらいでしょうか。
昼はうどんやパスタ、夕はみんなと普通の食事です」

低血糖だとエネルギー不足なので、食も細くなりがちですから、たんぱく質をがっつり食べようという気持ちになかなかなれません。

どちらかというと、パンとか、うどんなど、やわらかくて飲み込みやすくて、すぐエネルギーになりやすいものを無意識のうちに選びがちです。

でも、小麦粉製品はやめたほうがいいんです。
とくに菓子パンはよくないですね。
小麦粉製品は未消化となりやすく、腸管壁を傷つけ、からだの内部に入り込み炎症を起こします。

消化吸収できるよう、腸管を整える

低血糖のときは、腸管壁をも壊して、血糖を保つのに使われます。
そのため、腸管壁も傷ついています。
これでは、栄養も消化吸収できません。

まず、消化吸収できるよう、腸管を整えましょう。
腸管粘膜を作り直すときに最もつかわれるのは、アミノ酸の一種であるグルタミンです。

食べると下痢するというは、腸管が弱っている症状でもあります。
腸管壁を作り直す際、たくさん必要なグルタミンを取っていただくことをお勧めします。

亜鉛、マグネシウム

成長期ですと、ALPはかなり高値を取りますが、おとなの正常値くらいしかありません。
亜鉛、マグネシウムが低下しています。

ミネラルだけでなく、たんぱく質の消化吸収も低下していますので、消化を助ける消化酵素もとっていただくとよいでしょう。

また、マグネシウムは「まごはやさしい」食材に多く含まれます。
豆、ごま、わかめ、野菜、しいたけなどを心がけてとっていただくといいと思います。

「食事がそんなに重要とは知らなかった」

食が細くて、栄養不足の状態であったところに、成長期に入り、さらに、学校のストレスが重なって、高度な栄養不足となったと考えられます。

高度な栄養不足で体調不良なため、朝起きられなくて、学校に行けない、となっていたのではないでしょうか。

催眠療法もいいですが、その前に、栄養状態を改善すると、体調が変化して、学校に行けるようになると思いますよ。

「いやー、ほんとうに、納得できる話ばかりでした。
たしかに、これは、催眠療法どころではないですな。
食事やサプリメントなどぜひ試したいと思います」

「今まで、いろいろやってきてちっともよくならなかったのですが、今回は、なんだか、光が見えた気がします」

男の子も表情がだんだん柔らかく明るくなりました。

「なんか、話聞いて納得した。
正直、食事がそんなに大事って思ってなかったし、
食べんでもいいって思ってたくらい。
でも、そんなに重要なんだったら、食べようと思う。
学校にも行きたいし」

学校に行けるようになったので、塾にも行き始めた!?

初診から1か月後です。

「朝すっきり起きられるようになりました。
毎日、学校に行けています。
みんなで、よかったなぁって言っています。

すごくやる気が出てきたのか、塾に行きたいっていいだして、塾にも通い始めました。
毎日、すごく勉強しています。

遅れを取り戻さなあかんと言って、毎日遅くまで勉強しています」

学校に行けるようになって本当によかったです。
朝すっきり起きられるようになったのもよかった。
安心しました。

ただ、体調よくなってすぐにフルスピードで頑張り始めると、そこで栄養を消耗してしまいますし、さらに疲労が重なって、倒れてしまったり、また朝起きられなくなるかもしれません。
どうか、少しずつ、ゆっくりしたスピードで始めてくださいね。

体調回復後もしばらくは、ゆっくりやっていこう

このような低血糖、副腎疲労に陥る方は、もともと頑張り屋さんです。
すこしでも体調が戻ると、また、全力で仕事に、勉強にあたります。
すると、また、体調を崩して、来院されるということが少なくありません。

ゆっくり休むことも治療のひとつなのです。
体調が戻ったからと言って、全速力で、力いっぱい仕事や勉強に取り組んだりしないように、気を付けていただくようにお願いしています。

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野口由美
専門家

野口由美(医師)

クリニック千里の森

患者一人ひとりの個性を重視した「患者ファースト」の治療方針のもと、薬に頼らない医療を提供。近代西洋医学の最前線で培った豊富な知識、自身の体験を裏付けに、幅広い選択肢の中から最適な治療法を提案します。

野口由美プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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