相続放棄しても空き家の管理責任は残る?2023年民法改正後の新ルールと法的リスク

山田泰平

山田泰平

テーマ:相続関係

皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。

「親が遺した財産は、借金と、価値のない田舎の実家だけ。相続放棄すれば、もう安心だ」

相続放棄は、故人の借金や不要な不動産(負動産)の負担から逃れるための、確かに有効な法的手段です。

しかし、「相続放棄=すべての責任からの完全な解放」ではない、という厳しい現実を、あなたはご存知でしょうか。

今回は、この見過ごされがちな「相続放棄後の空き家の管理責任」をテーマに、

  • なぜ、相続放棄をしても“責任”だけが残るのか
  • 2023年民法改正で、責任のルールはどう変わったか
  • 管理を怠った者に待ち受ける、損害賠償リスク
  • 責任から完全に解放されるための、唯一の法的手続き


などを、最新の法律情報に基づき、徹底的に分かりやすく解説していきましょう。

【結論】相続放棄後も、占有者には管理責任が残る。放置は損害賠償リスクも

まず、相続人全員が相続放棄をしたとしても、故人が遺した不動産(空き家など)の管理責任が、完全に消滅するわけではありません。

2023年4月1日に施行された改正民法では、その責任を負う人がより限定的になりましたが、依然として、

「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間…その財産を保存しなければならない」

と定められています。

簡単に言えば、最後に相続放棄をした相続人の中で、かつ、その空き家を事実上管理・占有していた人は、次の正式な管理者(相続財産清算人)に引き継ぐまで、最低限の管理を続けなければならない可能性がある、ということです。

「相続放棄したから、あとは知らない」と完全に放置し、その空き家が原因で第三者に損害を与えた場合、損害賠償責任を問われるリスクが、依然として残るのですね。

この管理責任から完全に解放されるための唯一の確実な方法は、家庭裁判所に「相続財産清算人」の選任を申し立て、その清算人に財産の管理を引き継ぐこと。
これには高額な費用がかかります。

相続放棄を検討する段階で、この「放棄後の責任」までを見据えた、専門家との相談が不可欠と言えるでしょう。

1. なぜ責任が残る? 相続放棄と“社会の安全”のバランス

なぜ、権利を放棄したはずの人に、このような責任が残されるのでしょうか。


■ 社会的な利益の保護

もし、相続放棄によって、危険な空き家などが誰にも管理されないまま放置されてしまうと、どうなるでしょうか。

建物の倒壊、放火、不法投棄、景観の悪化など、地域の安全を脅かし、社会全体にとって大きな不利益となります。

このような事態を防ぐため、次の管理者が決まるまでは、誰かが最低限の管理をする必要がある、という考え方が、法律の根底にあるのです。


■ 2023年民法改正による変更点

この管理責任は、以前から存在しましたが、誰が責任を負うのかが曖昧でした。

  1. 改正前:最後に相続人となった者(相続順位が最後の人)が、広く管理義務を負うと解釈されていました。
  2. 改正後:義務を負うのが「その放棄の時に相続財産を現に占有していた者」に限定され、責任の範囲が明確化・軽減されました。

しかし、責任が完全になくなったわけではない、という点が極めて重要です。

2. あなたは大丈夫?管理責任を負う「現に占有」とは

では、改正後の民法で管理責任を負う可能性がある「現に占有していた者」とは、具体的にどのような人を指すのでしょうか。


■ 具体的なケース
故人と同居していた相続人:
これは、最も典型的なケースです。

故人とは別居だったが、実家の鍵を持っていて、定期的に管理(換気、庭の手入れ、郵便物の確認など)をしていた相続人。

相続財産であるアパートの家賃を、相続放棄前に受け取ってしまっていた相続人。

最後に相続放棄をした人が、これらのいずれかに該当する場合、管理責任を負う可能性が非常に高いと言えるでしょう。


■ 「占有」の解釈の難しさ

どこまでが「現に占有」にあたるかは、個別の状況によって判断されるため、明確な線引きは困難です。

ご自身が管理責任を負う可能性があるかどうか、少しでも不安な場合は、必ず弁護士に相談し、法的な見解を確認する必要があります。

3. 残された不動産は、最終的にどうなる?「相続財産清算人」の役割

相続人全員が相続放棄をし、他に財産を管理する人がいない場合、その不動産は最終的にどうなるのでしょうか。


STEP①:相続財産清算人の選任申立て

故人の債権者(お金を貸していた人など)や、前述の管理責任を負う相続人などが、利害関係人として、家庭裁判所に「相続財産清算人の選任」を申し立てます。


STEP②:相続財産清算人の選任

家庭裁判所が、申立てに基づき、地域の弁護士などを「相続財産清算人」として選任します。


STEP③:清算手続きと国庫への帰属

選任された清算人は、故人の財産を調査・管理し、不動産を売却するなどして現金化し、債権者への支払いなど、必要な清算手続きを行います。

全ての清算手続きが終わった後、それでもなお残った財産があれば、最終的に国庫(国の財産)に帰属することになります。

相続財産清算人が選任され、その人に財産の管理を正式に引き継いだ時点で、相続放棄した人の管理責任は、ようやく完全に終了するのです。

4. 管理責任から“完全に”解放されるための、唯一の方法とそのコスト

では、ご自身が管理責任から解放されるためには、どうすれば良いのでしょうか。


■ 自ら「相続財産清算人の選任」を申し立てる

この申立てには、裁判所に「予納金」を納める必要があります。

この予納金は、清算人の報酬や、財産管理にかかる実費に充てられるもので、金額は事案によりますが、数十万円から100万円程度と、高額になるのが一般的です。

つまり、相続放棄で借金からは逃れられても、空き家の後始末のために、多額の持ち出し費用が発生する可能性がある、ということです。


■ 放置した場合の、最大のリスク

もし、この申立てを行わずに、空き家を完全に放置した場合、

  1. 空き家が倒壊して隣家や通行人に損害を与えれば、管理責任者として損害賠-償を請求される。
  2. 「空き家対策特別措置法」に基づき、自治体から行政代執行(強制的な解体とその費用の請求)を受ける。

といった、予納金以上の、さらに深刻な事態を招く危険性があります。

【まとめ】相続放棄は“終わり”ではない。放棄後のリスクまで見据えた判断を

「相続放棄をすれば、全ての負担から解放される」というのは、残念ながら、必ずしも正しくありません。

特に、管理が必要な不動産が残される場合は、「放棄した後の責任」という、新たな問題に直面する可能性があるのです。

では、本日のポイントをまとめます。

  • 相続人全員が相続放棄をしても、最後に放棄した「占有者」には、残された不動産の一定の管理責任が残る可能性がある。
  • 管理責任を放置すると、損害賠-償責任や、行政による強制解体といった、深刻なリスクに発展しかねない。
  • 管理責任から完全に解放されるためには、「相続財産清算人の選任」を家庭裁判所に申し立てる必要があるが、高額な予納金が必要。
  • 相続放棄を決断する前に、この「放棄後の管理問題」と「予納金の負担」までを考慮に入れ、本当に放棄が最善の策なのかを、専門家と慎重に検討すべき。
  • このような複雑な状況では、必ず弁護士や司法書士に相談し、法的なリスクと対処法について、正確なアドバイスを受けることが不可欠。


故人が遺した負の遺産から逃れるための、相続放棄。

しかし、その選択が、予期せぬ新たな責任を生む可能性があるという現実。

ご葬儀の後、ご遺族がこうした法的な迷宮に迷い込むことのないよう、私たちも、生前のうちから正しい知識を持つことの重要性を、強くお伝えしていきたいと考えています。

故人のため、そしてご自身の未来のために、専門家の助けを借りながら、最後まで責任ある対応を心がけていただきたいと願っております。

株式会社大阪セレモニー

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山田泰平
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当社は家族葬を専門に、これまで1000件以上の葬儀をお手伝いさせて頂きました。少人数だからこそ実現できるきめ細やかなサービスと、ご遺族様の想いに寄り添った丁寧な対応を心がけています。

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