「遺産分割協議がどうしてもまとまらない…調停や審判ってどうなるの?」
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
「認知症の母と同居する兄が、母の預金を管理しているが、どうもお金の流れが不透明だ…」
「『介護費用で使った』と言うけれど、領収書を見せてくれない。本当に、母のために使われているのだろうか?」
ご高齢で判断能力が不十分になった親御様の財産を、特定の相続人が一人で管理している。
その状況に、他のご兄弟が強い不信感や“使い込み”の疑いを抱いてしまう。
これは、相続トラブルの中でも特に根深く、解決が難しい、非常にデリケートな問題です。
「家族だから」と問題を先送りにしてしまうと、気づいた時には親の財産がほとんどなくなっていた…という、取り返しのつかない事態も起こりかねません。
今回は、この判断が難しい「親の財産管理と兄弟間の使い込み問題」をテーマに、
- なぜ、親の財産管理で兄弟トラブルが起こりやすいのか
- 使い込みを疑った時、絶対にやってはいけないこと、やるべきこと
- 財産状況を明らかにするための、具体的な調査方法
- 話し合いで解決しない場合の、最終手段「成年後見制度」
- 将来の争いを防ぐための、最も有効な生前対策
などを、徹底的に分かりやすく解説していきましょう。
【結論】親の財産管理への不信感は放置が危険。証拠を集め、冷静な協議を
認知症などで判断能力が不十分な親御様(例:母)の財産を、特定の兄弟(例:兄)が管理しており、その使途に不信感や使い込みの疑いがある場合、感情的に相手を問い詰めるのは、最悪の選択です。
関係が悪化し、全ての情報が閉ざされてしまうだけでしょう。
まずやるべきは、客観的な証拠を集め、冷静に状況を把握することです。
具体的な対応ステップは、以下の通りです。
- まず、財産を管理している兄弟に対し、収支報告や通帳の開示を、丁寧に、しかし明確に求める。
- 開示に応じない、あるいは内容に不自然な点が多い場合は、弁護士に依頼し、「弁護士会照会」などで金融機関の取引履歴を取り寄せる。
- その上で、問題が解決しない場合、家庭裁判所に「成年後見制度」の利用を申し立てることが、最も根本的で法的な解決策となる。
- 悪質な使い込みが明らかになった場合は、「不当利得返還請求」などの法的措置も視野に入れる。
これらの対応は、いずれも高度な法的知識が必要となります。
「おかしいな?」と感じた、できるだけ早い段階で、相続問題や成年後見制度に詳しい弁護士に相談し、今後の対応についてアドバイスを受けること。
それが、問題をこじらせず、親御様の大切な財産を守るための、最も賢明な方法なのです。
1. なぜ揉める? 親の財産管理で、兄弟の絆に亀裂が入る理由
なぜ、親の財産管理は、これほどまでに兄弟間のトラブルを引き起こしやすいのでしょうか。
① 管理の不透明性(ブラックボックス化)
財産を管理している一人が、他の兄弟に収支を一切報告せず、「自分がやっているから大丈夫」と、全てを秘密にしてしまう。
これが、不信感を生む最大の原因です。
② 「お世話代」という、危険な自己判断
管理している側は、「毎日、親の面倒を見ているのだから、これくらいは親のお金を使っても当然の“お世話代”だろう」と、安易に考えてしまいがちです。しかし、他の兄弟からすれば、それは単なる「親のお金の私的流用」にしか見えません。
この認識のズレが、対立を深刻化させます。
③ コミュニケーション不足と、過去への不満
普段から兄弟間のコミュニケーションが不足していると、些細なことでも疑心暗鬼に陥りやすくなります。
「兄さんだけ、昔から親に甘やかされていたから」といった、過去への不満や嫉妬心が、お金の問題と結びついて噴出するのです。
④ 親自身の判断能力の低下
そして何より、親自身が、自分のお金がどう使われているかを正確に把握・判断できなくなっているため、不正が起こりやすく、そして発覚しにくい、という土壌が生まれてしまいます。
2. 使い込みを疑った時、絶対にやってはいけないこと、やるべきこと
感情的になって、いきなり「お前、使い込んでるだろ!」と問い詰めるのは、百害あって一利なしです。
相手は心を閉ざし、話し合いのテーブルにすら着いてくれなくなるでしょう。
■ まず、やるべきこと
①具体的な疑問点を、時系列で整理する:「〇年〇月頃から、毎月〇万円の不自然な出金がある」「〇年〇月に、〇〇という高額な支払いがあるが、これは何か」といったように、客観的な事実を基に、疑問点をリストアップします。
②丁寧な情報開示を、書面で求める:口頭ではなく、内容証明郵便などを利用し、「母の今後の介護計画を立てるためにも、財産の状況を兄弟全員で共有する必要があるので、過去〇年分の通帳のコピーと、収支報告書を、〇月〇日までに開示してください」と、冷静に、しかし法的な意思として明確に要求します。
③他の兄弟と連携する:もし他の兄弟も同じように不安を感じているのであれば、一人で対応せず、連名で情報開示を求める方が、相手へのプレッシャーも高まり、効果的です。
3. 個人では限界が…財産状況を明らかにする、法的な調査方法
もし、兄弟が情報開示に協力してくれない場合、個人で調査できる範囲には限界があります。
■ 弁護士による「弁護士会照会制度」
他の相続人が協力しない場合、個人で金融機関などに照会しても、プライバシーを理由に取引履歴の開示を拒まれるのが通常です。
しかし、弁護士に依頼すれば、「弁護士会照会制度」という法的な制度を利用して、金融機関に対し、過去の取引履歴の開示を求めることができます。
これにより、不透明だったお金の流れが、客観的な証拠として明らかになります。これが、その後の交渉や、法的手続きにおいて、極めて強力な武器となるのです。
4. 話し合いでの解決が不可能な場合の“最終手段”
調査の結果、深刻な使い込みが疑われる、あるいは、相手が全く話し合いに応じない。
そうなった場合の、法的な解決策です。
■ 親の財産を守るための「成年後見制度」
認知症などにより、親御様の判断能力が不十分である場合、その財産を法的に保護し、透明性の高い管理を実現するための最も有効な制度が、「成年後見制度」です。
子などの親族が、家庭裁判所に申し立て、本人のための援助者(成年後見人)を選任してもらいます。兄弟間で対立がある場合は、中立な第三者である弁護士や司法書士が選任されることが多いでしょう。
選任された後見人は、本人の財産を全て預かり、家庭裁判所の監督のもとで管理します。これにより、それ以上の使い込みを、完全に防ぐことができます。
さらに、後見人は、過去の不自然な出金についても調査し、必要であれば、使い込んだとされる兄弟に対して、返還請求を行う権限も持っています。
■ 使い込まれた財産を取り戻すための「不当利得返還請求」
悪質な使い込みが証拠によって明らかになった場合、その使い込まれた財産の返還を、法的に求めることができます。
まずは弁護士を通じて内容証明郵便で返還を請求し、応じなければ訴訟を提起することになります。
5. 悲しい争いを避けるために、親が“元気なうちに”できること
このような、子供たちの間の悲しい争いを避けるために、最も有効なのは、親御様自身が、元気なうちに、将来の財産管理について対策を講じておくことです。
- 家族信託(民事信託)の活用:判断能力があるうちに、信頼できる子供や専門家に財産を信託し、契約内容に従って、自分のために管理・運用してもらう制度です。成年後見制度よりも柔軟な設計が可能です。
- 任意後見契約の締結:将来、判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめご自身で後見人を選び、その人に任せたい事務の内容を契約で決めておく制度です。
- 財産管理に関する家族会議:これが最もシンプルで、重要かもしれません。元気なうちに、子供たち全員の前で、財産の内容や、将来の管理についての希望をオープンに伝えておき、情報を共有しておく。それだけで、無用な疑心暗鬼は、大きく減らすことができるでしょう。
【まとめ】不信感は“放置”が最悪の選択。勇気ある行動が、家族を守る
親の介護や財産管理を特定の兄弟に任せきりにした結果、生じてしまった不信感や亀裂。
一度こじれてしまうと、親の財産を守れないばかりか、かけがえのない兄弟の絆まで、永久に失ってしまうことになりかねません。
では、本日のポイントをまとめます。
- 親の財産管理に疑問を感じたら、感情的にならず、まずは客観的な証拠を集め、書面で冷静に情報開示を求める。
- 個人での調査には限界があるため、弁護士に依頼し「弁護士会照会」で取引履歴を取り寄せることが、極めて有効な手段。
- 親の判断能力に不安がある場合、これ以上の使い込みを防ぎ、財産を法的に保護するための最終手段として「成年後見制度」の申立てを検討する。
- 最も重要なのは、問題を認識したら「家族だから」と放置せず、できるだけ早い段階で、相続問題や成年後見に詳しい弁護士に相談すること。
- 最大の予防策は、親が元気なうちに「家族信託」や「任意後見契約」を検討し、財産管理の方法を家族でオープンに話し合っておくこと。
家族だからこそ、お金の話はしにくい。相手を疑いたくない。そのお気持ちは、痛いほど分かります。
しかし、大切な親御様の財産を守り、ご自身の正当な権利を守るためには、時には、見て見ぬふりをせず、勇気を持って、法的な手続きに則った行動を起こすことが必要なのです。
その冷静な行動こそが、結果的に、家族の崩壊を防ぐ、唯一の道となるのではないでしょうか。
株式会社大阪セレモニー



