「故人が貸したお金、返してもらえない…この『貸金』も相続財産?」
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
ご家族がお亡くなりになり、遺産相続の話を進める中で、故人様が遺した財産が、現金や価値のある不動産ではなく、買い手のつかない地方の山林や、耕作する人もいない農地ばかりだった、というケースがあります。
これらは、資産価値が低い、あるいは維持管理費や税金の負担を考えると実質的にマイナスとなる、いわゆる「負動産(ふどうさん)」と呼ばれるものです。
このような状況では、相続人の誰もが、
「こんな山林、相続しても固定資産税がかかるだけじゃないか…」
「誰も農業なんてしないのに、この田畑をどうすればいいんだ?」
「売ろうにも買い手がつかないし、寄付も断られた…」
「兄弟の誰もが押し付け合って、遺産分割協議が全く進まない!」
と、”誰も欲しがらない財産”の扱いに頭を抱え、深刻な相続トラブルに発展してしまうことが少なくありません。
負動産の相続は、まさに「貰い手のないババ抜き」のような状況に陥りがちです。
放置すれば、管理責任や税金の負担が子や孫の代まで続いてしまう可能性もあります。
そこで今回は、この非常に困難な「誰も欲しがらない『負動産』の相続と分割」について、
なぜ「負動産」が相続で問題になるのか、その理由を分かりやすく解説していきます。
【結論】誰も欲しがらない負動産相続は相続放棄が有力。全員放棄なら管理責任も考慮、国庫帰属制度も選択肢だがハードルは高い。
相続財産が価値の低い山林や農地といった、いわゆる「負動産」である場合、その遺産分割は極めて困難を伴います。
このような状況での最も現実的で、かつ多くの場合に検討されるべき選択肢は、家庭裁判所での「相続放棄」の手続きです。
特定の相続人が無理に引き取るのではなく、相続人全員が相続放棄をすることで、固定資産税や管理責任といった将来にわたる負担から解放される可能性があります。
ただし、相続放棄をする場合は、
- 預貯金など他のプラスの財産も全て放棄することになる。
- 「相続開始を知った時から3ヶ月以内」という厳格な期限がある。
- 相続人全員が放棄した場合でも、最後に放棄した者に一定の財産管理責任が残る可能性がある。
といった点に十分注意が必要です。
その他の選択肢としては、特定の相続人が他の財産を多めにもらうなどの条件で引き取る(遺産分割協議)、あるいは一定の要件を満たす場合に土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」の利用などが考えられますが、いずれもハードルが高いのが実情です。
負動産の相続問題に直面したら、まずは財産の正確な価値と管理負担を調査し、早期に弁護士や司法書士などの専門家に相談することが、最も賢明な判断と言えるでしょう。
1. なぜ「負動産」が相続で深刻な問題になるのか?
経済的な負担:
資産価値がほとんどない、あるいはゼロであるにも関わらず、所有している限り毎年「固定資産税」がかかり続けます。
管理の負担と責任:
山林であれば、不法投棄の監視や、土砂災害防止のための最低限の管理責任。
農地であれば、耕作放棄による荒廃や、病害虫発生の原因とならないような管理が求められる場合があります。
管理を怠り、近隣に損害を与えた場合は、所有者として損害賠償責任を問われるリスクもあります。
処分・換金の困難さ:
買い手が見つからず、売却が非常に困難です。
また、自治体や近隣住民への寄付も、利用価値が低く管理負担が大きい土地は、ほとんどの場合断られます。
遺産分割協議の停滞:
誰もが引き取りたがらないため、「押し付け合い」の状態になり、遺産分割協議が完全に暗礁に乗り上げてしまう原因となります。
2. 誰も欲しがらない不動産の主な分割方法(検討ステップ)
【STEP1】現状と価値の正確な把握
まずは、その不動産の正確な所在地、面積、そして資産価値(固定資産税評価額、近隣の取引事例など)と、年間にかかる費用(固定資産税、管理費など)を徹底的に調査し、本当に「負動産」なのかを客観的に評価します。
【STEP2】遺産分割協議での検討
その上で、相続人全員で、誰かが引き取る可能性はないか、協議します。
現物分割:
もし、他の相続財産(預貯金など)が十分にあれば、「預貯金は全て他の兄弟がもらう代わりに、私が負動産を引き取る」といった形で、不公平感をなくすような分割案を検討します。
代償分割:
これは現実的ではありませんが、理論上は、負動産を引き取った人が他の相続人から代償金をもらう、という形も考えられます。
多くの場合、この協議は「誰も引き取りたくない」という結論に至り、難航します。
【STEP3】相続放棄の検討
相続人全員が引き取りを望まない場合、最も現実的な選択肢として「相続放棄」を検討します。
3. 選択肢①:相続放棄
メリット:
相続放棄をすれば、その負動産に関する所有権や、固定資産税の支払い義務、管理責任など、一切の権利義務から解放されます。
手続き:
相続開始を知った時から”3ヶ月以内”に、家庭裁判所に申述します。
注意点:
①他の財産も全て放棄:
預貯金や価値のある不動産など、他のプラスの財産も全て放棄することになります。負動産だけを選んで放棄することはできません。
②相続人全員で行う必要性:
第一順位の相続人(子など)が全員放棄すると、次に第二順位(親など)、第三順位(兄弟姉妹)へと相続権が移っていきます。最終的に全ての相続人が放棄しなければ、誰かが負担を負うことになります。
③管理責任が残る可能性:
相続人全員が放棄した場合でも、民法の規定により、最後に放棄した相続人に、相続財産清算人が選任されて財産の管理を始めるまで、一定の管理責任が残るとされています。
放置して損害が発生した場合、責任を問われるリスクはゼロではありません。
4. 選択肢②:寄付や売却の可能性を再度探る
相続放棄が難しい場合(他に価値のある財産があるなど)、改めて寄付や売却の可能性を探ります。
隣地の所有者への打診:
隣地の所有者にとっては、土地が広がるというメリットがあるため、無償または非常に安い価格で引き取ってくれる可能性があります。
地域で活動する法人などへの寄付:
地域のNPO法人や企業などで、その土地の活用法を見出してくれるところが稀にあるかもしれません。
格安での売却:
不動産会社に相談し、通常の価格では売れなくても、「訳あり物件」として、非常に安い価格であれば買い手が見つかる可能性はないか、探ります。
ただし、これらの方法で引き取り手が見つかる可能性は、一般的に低いのが現実です。
5. 新しい選択肢?「相続土地国庫帰属制度」とは
2023年4月27日から始まった新しい制度で、相続した土地の所有権を国に引き渡す(国庫に帰属させる)ことができるようになりました。
メリット:
承認されれば、土地の所有権を手放し、管理責任や固定資産税の負担から解放されます。
主な要件(ハードル):
- 建物がない”更地”であること(建物の解体費用が別途必要)。
- 担保権や使用収益権が設定されていないこと。
- 境界が明らかであること。
- 土壌汚染や、管理・処分を妨げるような物が地下にないこと。
- 通常の管理または処分をするにあたって、過分の費用・労力を要しないこと。
費用:
審査手数料(1筆あたり14,000円)と、承認された場合に、土地の管理にかかる10年分の標準的な費用として「負担金」を納付する必要があります。
負担金は、土地の種類や面積によりますが、原則として20万円から(市街地の宅地などは面積に応じて高額になる)とされています。
現状:
要件が厳しく、負担金も必要なため、誰でも簡単に利用できる制度ではありません。
しかし、相続放棄もできず、売却も寄付もできない場合の、新たな選択肢として知っておくと良いでしょう。
【まとめ】負動産相続は先送りが最大のリスク。早期判断と専門家への相談を
価値の低い山林や農地といった「負動産」の相続は、残されたご家族にとって、金銭的にも精神的にも大きな重荷となります。
その重荷を、次の世代にまで引き継がせてしまうことだけは、避けたいものですよね。故人様も、きっとそれを望んではいないはずです。
では、本日のポイントをまとめます。
- 誰も欲しがらない「負動産」は、所有しているだけで税金や管理の負担がかかり続ける。
- 最も現実的な解決策の一つが「相続放棄」。ただし、他の財産も放棄することになり、期限は3ヶ月。
- 相続放棄をしても、一定の管理責任が残る可能性があることを理解しておく。
- 売却や寄付の可能性も探るが、引き取り手を見つけるのは困難な場合が多い。
- 新しい「相続土地国庫帰属制度」も選択肢だが、要件が厳しく、負担金も必要。
- どの選択肢を取るにしても、弁護士や司法書士などの専門家に早期に相談し、法的な手続きを適切に行うことが不可欠。
問題を先送りにせず、相続が発生したら速やかに財産の状況を把握し、相続人全員で話し合い、専門家の助けを借りながら、最適な解決策を見つける努力をすることが大切です。
株式会社大阪セレモニー



