第1回「やっていません」から始まった厳しい朝

中坊崇嗣

中坊崇嗣

テーマ:スーパー店長育成コーチング実践録



「前回教えたこと、やってみた?」
私の問いかけに、店長は視線を落とし、小さく「やっていません」と答えた。
スーパーマーケットの店長を対象としたパーソナルコーチング。その初日のミーティングは、穏やかな朝の光とは裏腹に、極めて厳しい空気の中で始まった。

朝7:00。静まり返った店内の事務所で、オンラインミーティングの画面が繋がる。
今回のクライアントは、ある地域密着型スーパーの責任者だ。彼は真面目だが、どこか「現場の忙しさ」を言い訳に、自らの成長や変革から目を背けている節があった。
先月の実績と取り組みを振り返る冒頭。私はあえて、単刀直入に切り込んだ。
「なぜ、やらなかったのか? 内容は覚えていたか? これからどうするつもりか?」
矢継ぎ早の質問に、彼は言葉を詰まらせる。
「忙しくて…」「忘れていたわけではないのですが…」
よく聞く言葉だ。しかし、店舗経営を担うリーダーがその言葉を口にした瞬間、組織の成長は止まる。私は彼に、責任者としての「責任感」の欠如を、愛を持って力説した。
さらに、新商品の全国コンテストでの不手際についても触れた。
「自分たちでやり切ろうとする意欲がない。それは結局、他力本願で店舗を良くしようと思っているからではないか?」
厳しい言葉かもしれない。しかし、事実を突きつけられた彼は、初めて自分の「現状」を直視したようだった。
振り返りの中で、彼から一つの気づきが出た。
「自分一人ですべてをやろうとするのではなく、スタッフができることは任せ、自分にしかできない役割に集中する。役割を区別することが必要だ」と。
この気づきこそが、変革の第一歩だ。
ミーティングの終盤、嬉しい変化もあった。別の責任者から、こんなLINEが届いたのだ。
「お話しを聞いてもらって、自分の中で気持ちの整理がつきました。ありがとうございました!」
厳しい指摘の裏側には、常に「信頼関係」というベースが必要だ。
私は彼に伝えた。
「私たちは、通じ合っている。本音が出せるのは、あなたが私を信頼してくれているから。その信頼をベースに、一緒に高みを目指そう」

店長として、一人のリーダーとして。長い長いキャリアアップの旅が、ここから始まった。

【コーチの視点】
コーチングは「教える」ことではない。相手の「責任」を呼び覚ますことだ。 まず自分自身の現状に絶望し、そこから這い上がる意志を持ってもらうこと。それが、最強のチームを作るための最短ルートである。


次回の第2回は、「他力本願では店舗は救えない 新商品開発の不手際から見る「責任感」です。

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中坊崇嗣
専門家

中坊崇嗣(経営コンサルタント)

株式会社NMR流通総研

経営者の「右腕」的立場で、組織活性化・経営支援・マーケティングの3本柱でコンサルティングを提供。小売経営や事業承継など実体験をもとに、現場を深く理解して施策を提案。企業の強みを生かし、成果を導きます。

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