会社にとって売上よりも大切なこと
第4次産業革命のなか、I、IoTなどのデジタル産業が各業界に大きな影響を及ぼしている。それは新しい産業だけではなく、伝統的な産業にも及んでいる。売り方やマーケティングを考えるとき、自社の市場だけではなく広く市場や社会の変化を知っておきたい。
テーマ①「アマゾンがGAFAで一人勝ち?」
GAFAの直近(2019.3.11)の時価総額は
Google 8170.65億ドル(NSDAQ)
Apple 8435.64億ドル(NSDAQ)
Facebook 4910.86億ドル(NSDAQ)
Amazon 8206.14億ドル(NSDAQ)
ちなみに
Microsoft 8656.56億ドル(NSDAQ)
TOYOTA 21.60兆円(TYO)・・・1939.09億ドル
とてつもなく大きな金額で、どれくらい高いのか想像もつかないが、
今後、この中でもAmazonが一人勝ちするという声も高い。
その理由は
1.顧客との関係性が高いこと
2.広告収益に対する伸びシロが大きいこと
にある。
ユーザーによるコメントや不自然でない推奨によって顧客が安心感を持っていると考えられる。顧客との関係性が高いことは、AIスピーカーの利用にも影響を与えるだろう。そういう点では、Facebookは個人情報流出で13兆円の時価総額を1日で失ったことのダメージは大きい。2018年、Amazonは営業利益でも過去最高を記録しており好調さを見せている。GoogleもTwitterやInstagramでの検索(ハッシュタグなど)に押されていることもあり、スマホファーストの中で優位性に揺らぎがある。Appleにおいても脱iphoneを掲げるも先が見えているわけではない。
時代の変化が加速しつづけていて、Amazonが一人勝ちし続けることは容易いことではない。
Googleでは失敗するなら早くせよと言われている。超零細企業、スピードだけでも世界の超大手よりも勝りたい。
テーマ②「業界に走るAIの激震。保険・旅行・コンビニ」
各業界で人工知能を利用した販売システムが増えている。
保険、旅行、アパレル、コンビニなどである。
保険業界では、従来の方法では提供できなかった新たな保険商品やサービスの提案が可能となり、提案内容の変化と同時に、業務の効率化と高度化を図っていく動きが加速している。保険と技術を掛け合わせた造語でインシュアテックやインステックと呼ばれている。
旅行業界では、ネット旅行代理店とホテルチェーンなどが共同して、ネットで希望に応じた旅行提案をするだけでなく、現地ガイドもしてくれる。ツアーの良さとしては旅行先のことを詳しく知ることができる、一方で、個人旅行の良さはなんと言っても自由に好きなときに好きな場所に訪れることができる。こうしたツアーと個人旅行のよさを両方兼ね備えた旅行をAIによって実現している。店舗や観光地に近づいただけで人工知能が音声ガイドをはじめるしくみだ。
アパレルでは、人工知能が好きな洋服をコーディネートしてくれる。自分の好みに合った服をクリックしていくことでAIに嗜好を学習させていく。学習した嗜好を元にトレンド情報や商品データベースから服装の提案をしてくれるのだ。気に入らなかった場合は、そのことも学習する。こうした情報は、購買前の情報であってもメーカーにとってはとても重要な顧客ニーズとなる。取り組みが早かったこともあり、利益率改善の事例も出始めている。
コンビニでは、無人のAIコンビニが話題となっている。駅構内に設置された無人コンビニでは、カメラが顧客の手にした飲料品や食品などの商品を把握して、自動で購入金額を計算して決済してくれる。実証実験段階ではあるが、実現に向けた動きに注目したい。
数年前までは人工知能に何ができるのか、見えていないことも多かったが、具体的になり成果も出始めている。展開するスピードが早く、強い競争力を持つ競合として自社のビジネスモデルを見直す必要を迫らている業界もある。
どのビジネスにおいても、できる限り早く情報をキャッチして備えたり、対応していく必要がある。
テーマ③「引越業界:価格高騰で引越し難民がうまれる」
2018年に続いて、2019年3月も引っ越し価格は高騰している。
2019年は引越し大手各社の働き方改革などの取り組み効果で繁忙期の過熱が改善されることが期待されていた。
引っ越し大手では、前年より人員を強化して受注件数を増やすとともに、主要得意先には引っ越し日程の分散をお願いするなどによって、18年春に社会問題になった引っ越し難民問題の解消を図っている。
この問題のため、引越し待ちのために転勤が数ヶ月できないなどのケースも起きた。
原因は、①生産年齢の人口減少に伴う人で不足、②ネット購買の増加に伴う物流需要の増加、③新生活・人事異動などの転勤者が3~4月に集中すること、④引越しの労働条件の厳しさ、にある。
このため、2013年の通常時期に比べると2018年の繁忙期の引越し平均価格は約2倍になるなど高騰している。
単身者の県外引越しでは、45000円(2013年通常期)が90000円(2018年繁忙期)。
家族の引越しではさらに高い。遠方の引越しとなると家族の引越しで100万円の法外な見積もでているという。
キーワード検索回数からも3~4月にピークがきていることがはっきりわかる。
引越し業界側だけでの努力も限界があり、発注・顧客側の工夫が求められている。
引越し業界以外にも同様の課題を抱えている業界も多いだろう。
テーマ④「着物業界のマーケティング」
ライフスタイルが変化するとともに、日常生活で和装をする機会は減っている。呉服の小売金額は、この10年数で半分に、30年では5分の1までになっている。
これほど急速に市場が縮小している産業は多くない。
着物の市場がここまで急速な変化をしているのは、和装離れが進んでいることもあるが、それ以外にもう一つの理由がある。着物業界のピークは昭和60年代(1985年ごろ)である。
景気がピークを迎えたころであり、贅沢品の購買が一気に増え、着物業者も高額商品を次々に作り売った。現在でも当時に作られた反物や呉服生地は手間暇が掛る高級品となっているほどである。その結果、昭和30年代に比べ、客単価は5~10倍に膨れ上がり、市場は急拡大した。このころ、西陣織の生産量が大幅に減ったことが価格も高騰している。
こうした市場の急拡大の影響もあり、その反動も受けて急速にシュリンクしていった。
ここ10年では減少幅は10%程度となり、それまでに比較すると減少幅は小さくなっており、前年に比べて微増する年もある。このような厳しい市場においても、ポリエステルなどの低価格素材の商品の拡大、着物レンタルや着物イベントによる和装機会の提供といった多くの工夫をしている。
最近は、インバウンド効果で、舞妓パパラッチが起こるほど和文化に対する意識は変化している。
様々な機会をビジネスチャンスを捉えて売上につなげていくのは、数百年続く市場の強さを感じる。
テーマ⑤「病院のマーケティング」
病院の経営については意外に関心が薄い。
それは、患者も医師もである。
これは日本の皆保険制度の数少ないデメリットのひとつかもしれない。
患者側では
「病院は自分の町にあって、当たり前」
「病院が簡単に潰れるとは思わない」
「もし、ひとつの病院が潰れても他の病院があるから大丈夫」
と思っている人も多いだろう。
医師も
「いい診察や治療をしていれば患者さんは来る」
「高齢者が増えているので、病気になる人は増える」
「現代人は生活習慣に課題があり、病気は絶えない」
と考えており、病気に対峙することに力がはいる。
その結果、病院の経営やマーケティングへの関心は薄い。
むしろ、経営やマーケティングに関心を高めることへの抵抗感があるかもしれない。
しかし、地域社会は変化しており、少子高齢化、地方経済の縮小、限界集落の増加という現状を見れば、皆保険制度、社会保障制度も万全ではない。そうした地方のなかで病院がなくなる事例も多い。1年間で300件ペースで廃業しているとのデータもある。
患者の減少、看護師の減少、医師の減少などが原因だ。
全国で見ればバランスは取れるのであろうが、それぞれの地域で見ていくと事情は複雑である。ひとつの病院が廃業することによって、その余波が近隣の他の病院に負荷となり、過重な労働によって維持が困難になるといったケースもある。都心部では、逆に、患者数が増え続けることで医師不足が深刻化していくが、次の担い手がなかなか見つからない。こうした局所的に起こるアンバランスが社会制度の維持をより難しくしている。
このように考えると、マーケティング視点でのサービス提供のあり方や、経営視点での資源の配分方法の検討は非常に重要であることがわかる。しかし、残念ながら、医療に対する妄信的な意識が実態に関わることをタブー視しているようにも感じる。もちろん、日本の医療の水準は非常に高く、現時点で強く憂えるものではない。医療は大きな社会システムの上になりたっており、一朝一夕での変革が容易ではない。
だからこそ、経営やマーケティングの視点からも見直していきたい。