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【一住職が見る】墓じまい報道の真相

若松慶隆

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1.墓じまい報道のほとんどは東京目線であり、岡山では当てはまらない。
2.そもそも檀家とは何か、離檀料とは何か。
3.墓じまいや新しい祭祀方法のメリットは報じられるが、デメリットはあまり報じられない。
4.親子間の意思疎通は絶対に必要だと思う件。

1.毎年お盆やお彼岸が近づくと『墓じまい報道』がワイドショーや情報番組に出ます。
しかし、私には疑問符だらけの報道が目立つと感じております。
内容はこう言ったものです。
A.お墓を管理出来ない人が増えている。
B.お墓を移転または撤去するには菩提寺の許可が必要である。
C.そこで『高額な離檀料』を要求されるケースがある。
D.散骨や永代供養、納骨堂、樹木葬等が人気である。
これらはあくまで在京メディアが東京目線で論じているものであり、岡山のような地方とは全く事情の異なる事項が多く含まれております。2以下で詳しく見解を述べます。

2.まずAについてですが、これは人口が減っているということはそれだけ絶える家が出て来ているわけで、お墓の管理が困難な人が増えている(今後も増え続ける)のは事実です。ただし、その一方で先祖代々のお墓を誇りに思っている人々がまだまだ沢山いらっしゃるにも関わらず、『お墓=負担』というネガティブな印象を与え続けるのは如何なものかとは思います。

次にBです。
『菩提寺の境内墓地にお墓を持っている家=檀家』という認識は岡山では当てはまりません。それが当てはまるのは、東京・大阪など極一部の都会の話であり、その他多くの地方ではいわゆる『村墓地』や『一般の霊園』にお墓を持ちつつ、どこかのお寺のお世話になっている(檀家さんになっている)ケースがほとんどです。
檀家とは『一定の寺に属して諸仏事を依頼し、布施などによってその寺を援助する家。また、その家の人。』(広辞苑)とのことです。何を以て檀家と見なされるのかはかなりあいまいで、お寺さんによっても定義付けは様々です。
(明確に入檀申し込み書があって檀家名簿が作成されているお寺も一部には存在しますが、お寺と檀家さんの信頼関係で結ばれている場合がほとんどです。拙寺も信頼関係で繋がる伝統的な寺院です。)
なので、お墓を移転または撤去する際に、菩提寺の許可が必要であるか否か。それは寺院墓地の場合は100%菩提寺の許可を得る必要があります。その他の墓地の場合、お世話になっているお寺さんがあるのであればそのお寺さんに『抜魂供養』をしてもらうのが筋ではあると思います。菩提寺と疎遠になっている場合はケースバイケースではありますが、きっちり筋は通しておいた方がご丁寧ではあると思います。

次に問題なのがC。
『離檀料』とは『あるお寺の檀家を抜けるに当たって、これまでお世話になりました、という御礼』(これは広辞苑に出てなかったので私個人の認識)のことを指します。全く法的な根拠があるわけでもなく、任意のものであり『お気持ち』です。高額な離檀料を要求してくるお寺は本当に極まれなケースであり、極めて悪質なレアケースです。岡山ではほとんどのお寺さんは離檀料を求めず黙認、中には総代会の規約で(法外な額ではない)離檀料の額を決めているお寺さんもありますが。
ただお寺としては一軒でも檀家さんが減るのは痛手なのが事実でありますので、檀家を抜けるにあたっては決して喧嘩別れにはならないよう、ある程度は住職さんの気分を損ねないような慎重且つ丁寧な行動・言動が求められるとは思います。その一つが『離檀料』です。(その相場は地域や宗派、各お寺の事情にもよりますので、この場では具体的な金額は伏せさせて頂きます。)
そもそも離檀料とは何たるものか、正しい知識を持っている方は極僅かです。
そういうもともと離檀料を知らない人達に、メディアは『離檀=離檀料=檀家であることは面倒で厄介なもの』というレアケースを意識付けているのです。
もう少し深く言及させて頂くと、離檀を申し出るご当家にも少し問題があるケースは往々にしてあると思っております。上述の『お寺さんと檀家さんの信頼関係』を自ら壊している場合。例えばお寺で決められている年会費を何年も滞納していたとか、菩提寺の知らない所でお葬式を済ませていたとか。こういう方にいきなり離檀を申し出られると、それは住職さんのご機嫌がよろしくなくなります。

3.Dに移ります。
こんな話があります。「自分が死んだら散骨してもらいたい。子や孫に負担を掛けたくない。」と仰られた方。実際に没後、散骨が行なわれました。
しかし残された家族が取った行動は、『命日には船をチャーターして散骨した場所に行き、好きだったお酒を撒いたり花を手向けたりした』というものです。
これは故人を弔いたい気持ちを抱いている遺族と、残された者に迷惑を掛けたくないという故人の気持ちに大きなギャップがあった好例だと思います。
子供の知らない所で親が永代供養を申し込んでおり、葬儀の段になってそれが子らに発覚したケース。子供達は怒りました。自分たちにはちゃんと孫まで揃っており、みんなでお墓参りするものだと思っていた。なのに両親は永代供養のチラシに踊らされていつの間にか契約していた。
永代供養系は費用面でも管理面でも負担が小さく、人気を博していますが、やってしまえばそれまでです。不可逆的です。こういった情報はほとんど出て来ません。

4.子供たちに負担を掛けたくないという親のお気持ちに対して、当の子供たちはそれを本当に負担だと思っているのか、そのコミュニケーションが決定的に足りないと思います。
私は「子に迷惑を掛けたくないので永代供養にしてほしい」旨の相談を受けたら、
私「○○さんはご先祖の供養を迷惑だと思ってこられましたか?」
○○さん「いいえ。大切にしてきました。」
私「では実際にお子さんはなぜ迷惑に思うと思いますか?」
○○さん「それは長男たちに聞かないと…やっぱり子供への負担が…」
私「それは実際にご長男さんがどう思ってらっしゃるのか、よく話をしてみて下さい。また、今長男さんが思っていることと、親を実際に亡くしてからではまたその気持ちも変わってきたりするので、○○さんの思いは踏まえつつ長男さんに任せてみては如何でしょうか!?」
のようなやり取りをした経験は一度や二度ではありません。

私はテレビなどのメディアがセンセーショナルに報じている程、若い人たちの先祖を思う気持ちは消えていないと思っております。(了)

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若松慶隆(住職)

朝日寺

元銀行員という異色の経歴を持つ住職。多様な価値観でそれぞれの家庭事情に真摯に向き合い葬式や法事などを執り行う。寺の歴史や伝統行事などをHPやSNSで情報発信し、檀家外の人も集う開かれた寺を目指す。

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