腕時計に込められた想いを丁寧な仕事に反映させる時計修理士（3/3）

「直す価値」を見出すか見出さないかが修理の判断基準

　精巧につくられた腕時計の内部には、米粒の半分もないサイズの部品等も組み込まれているため、福井さんの工房ではメーカーや部位ごとに仕分けされた部品が引き出しやケースの中にきれいに分類され収納。これらの部品を使い細かく修理していくには相当な集中力が必要とされますが、そういった作業を長年続けてきた福井さんいわく、アンティーク時計の中には職人としての目線から感動を覚える逸品があるのだそうです。

　「修行時代に1950年代のLONGINES（ロンジン）の時計を買ったんですが、内部の仕上がりが、同時代の普及メーカーと比べてもズバ抜けて美しく、その手間や作り込みに感動しました。特に歯車の面取りまで行うのは高級時計では当たり前ですが、それを一部の高所得者向け商品ではなく、大衆向けにやっていたところにメーカーとしてのプライドを感じました。そういう点では、値段の高い安いにかかわらず、ずっと変わらないもの、大事にされているものは素敵だなと思います。だから元々の値段どうこうよりも、お客さまの大切な思い出や愛着、また直す価値をお客さまが見出されているのであれば、修理させていただきます」と福井さん。

　時計の外枠を作り直すほか、今の規格に合わせた電池のスペーサー（型）などを作って修理できるようにと3Dデータの技術も修得し、店内には3Dプリンターも設置。顧客のなかには「亡くなった父の時計を動かしたい」等、持ち主の想いが詰まった時計が持ち込まれる事も多いという福井さんの工房。“モノ”だけでなく“心”まで動かすような職人としての時間もこの工房には流れているのです。

（取材年月：2020年6月）

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⇒国産時計～舶来アンティーク時計まで修理修繕できるのが強み