情報大洪水の時代(その16)
「塾長っ!」
「ん?」
「Rくんが ●●でしたっ!」
「何いぃ~!?」
Rくんは中学2年生。
某中学校の生徒だ。
まあまあ遠いところから塾にくる。
もう1年間は通塾している。
勉強は好きではない。
好きなのはスマホのゲーム。
先月も私に見つかった。
塾の時間中にスマホのゲームをしていて、
私が目の前にいても気がつかなかった。
ビクッとして慌ててスマホを机の下に。
これで3回目だった。
毎回勉強では見せない恐るべき集中力を、
スマホのゲーム中には発揮する。
私が目の前に立っていてもスマホの画面に、
全集中!
1回目のとき。
「そんなにそのゲームおもしろいの?」
「うわぁっ!」
2回目。
「塾の時間中はダメだよ」
「うわぁっ!」
3回目。
「だからそういうのは自宅でしなよ」
「うわぁっ!」
毎度同じリアクションのRくん。
課題テストも十分学習ができておらず、
毎度おなじみの準備不足で試験に臨んだ。
で、その結果は?
何と過去最高の番数だった。
これにはビックリ(笑)。
ここ3回の成績(番数)は、
133 → 123 → 108 New!
担当講師との楽しい話がはずむ。
笑顔満開&得意顔のRくん。
塾の帰り際のこと。
「ちょっとこっちへ(おいで)」
私から呼ばれたRくん。
ちょっと緊張した様子でやってきた。
彼に私が指導することはふだん一切ない。
いつもあいさつを交わす程度だ。
「おい、すごいじゃないか!」
「あっ、はいっ!」
「この感じだと次回は…」
「はい」
「100番内に入っちゃうんじゃあないの?」
「はい、入りたいです!」
「ねぇ…、すごいよね、ずっと成績が…」
「はい」
「上がりっぱなしだね」
「はい、あと40点なんですよ!」
「え、何が?」
「100番内に入るのにあと40点です」
驚いた。
今までそんなことを言う生徒ではなかった。
あと40点…、誰に聞いたのだろうか。
「そうなんだ、あと40点か…」
「はい、絶対次に取って100番内に…」
「お~、うんうん」
「絶対に入りたいですっ!」
「うんうん、その意気だよ、やれるよ!」
「はい、ありがとうございます!」
「(え、『ありがとうございます』?)」
「さよならっ!」
「あ、あぁ、さようなら」
足取り軽やかに帰っていった。
正直、こんなRくんは初めて見た。
成績が上がればこんなにも変わるのか。
30年間以上もの間、
何千回も生徒の成績アップを見てきたが、
Rくんの様子やセリフには少々驚いた。
あらためて思い知らされた。
できない子ほどできたときには、
本当にうれしそうな顔をするのだと。
「あの足取り…ああなるのか…」
後で知ったのだが担当講師には、
「次回は今回よりも100点以上UP!」
と話していたようだった。
(私にはそんなことは言わなかったが)
ちなみにお父さんには、
褒められると期待していたのだが、
「好成績を取るまでスマホ没収!」
という目にあったそうだ。
(続く)