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なぜ大手企業で働く社員の給料は高いのか?(市場分析の番外編)

2022年10月4日 公開 / 2022年10月8日更新

コラムカテゴリ:ビジネス

コラムキーワード: 経営戦略ロジカルシンキング 研修

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読みやすくなるよう、所々の言い回しを修正、一部内容を追加してみました。


皆さま、こんにちは

今回は、以前のコラム『経営戦略コンサルティングサービスの市場規模とは?需給分析による試算と洞察』での市場規模試算の過程で、個人的に面白いと思ったトピックについて番外編として、深堀してみたいと思います。

そのトピックとは、「なぜ大手企業で働く社員の給料は、中小企業で働く社員の給料よりずっと高いのか?」という事です。

昔、大手で働く社員の方とお会いした際、たまたま給料のお話をする機会があったので、試しに聞いてみた事があります。当時中小企業で働いていた私の給料より何倍も多くて、びっくりいたしました。これは、前回行った市場分析の結果(分析対象が一般企業ではなく、大手・中小戦略ファームという違いはありますが)とも一致しています。

普通に考えますと、大企業が提供する商品やサービスは一般的に需要が多く、売上もその分多くなるので、結果としてそこで働いている社員の給料も多くなるのは当然とも言えます。

答えは一見シンプルに感じますが、よく考えてみると奥深い質問ですので、プロとして戦略的に考察し、(前回のコラムでは出来なかった)仮説の検証もしてみたいと思います。

それでは始めます。


1.ツリーによる構造分析

今回は特に込み入った内容ではないため、事前に定義や条件を付けたりする必要もありません。よって、すぐにツリー分析を行います。

ツリー構造-「なぜ大手企業で働く社員の給料は高いのか?」
今回の「なぜ大手企業で働く社員の給料は高いのか?」というキークエスチョンのもと、その理由について考えていきます。

1-1.大手企業の利益が多い

まず、給料が高い理由として、一般的に大手企業の方が中小企業よりも利益を多く生み出していることが考えられます。利益を出しているからこそ、人件費を増やす経営的余裕も生まれます。

そして、なぜ利益を多く生み出しているかと言えば、売上が多く、少ないコスト(変動費・固定費)で事業運営をしているからです。

売上が多くなる理由としては、市場需要や供給量が多くて、商品やサービスの販売量が多いか、または企業のブランド力や商品の高い品質・性能によって、販売単価が高く維持されている可能性があります。

変動費が少なくなる理由としては、大手企業の場合、製品などを生産する際の原材料を一度に大量購入できますので、中小企業よりも安く仕入れることが可能という事が挙げられます。つまり、規模の経済により単位当たりの変動費を低減可能という事です。

一方の固定費が少なくなる理由としては、固定費は生産量に関係なく(理論上は)一定なので、一度に大量の製品を作ることで、製品一つ当たりの生産コストを下げられるからです。つまり、規模の経済により単位当たりの固定費を低減可能となります。

以上の三つの項目が真であれば、一般的に大手企業の利益は中小企業よりもずっと多くなると考えられます。

1-2.人材への投資に積極的

次に、大手企業で働く社員の給料が高い理由として、企業の方針として積極的に人材投資をしている事が考えられます。

なぜ積極的に人材へ投資するかと言いますと、企業のイメージを向上させ、ブランドを構築する事で、高度人材を確保・維持し、競合に対する競争優位性を確立するためでしょう。企業理念など、他にも理由はあるかと思いますが、個別の事由によるものなのでここでは考慮しないことにします。

競争優位性を確立することにより、売上の増加やコスト低減が期待できます。それが市場シェアの確保や利益率向上につながり、ひいては企業のコア・コンピタンスとなる事もあります。

1-3.他(助成金などを活用)

それ以外で給料が高い理由ですと、例えば助成金・補助金などを活用している事が考えられます。

国や県などから事業にかかる費用を助成してもらうことで、自己資本のみでの運営よりも費用の負担を軽減でき、結果として、人件費つまり社員の給料を削らなくて済むようになる場合もあるかもしれません。

補足:
事業の一環として、必要とされる補助金・助成金関連のサポートはもちろん行いますし、実際過去に携わっていずれも採択・交付されています。ただし、税金(国民のお金)を使わせていただく以上、公的支援を前提としたお仕事のご相談・ご依頼は、クライアントとの十分な信頼関係を基に進めさせていただけたらと思います。

2.仮説の構築

構造分析の結果、ここで一つ気づくことがあります。それは、(推計ではありますが)前回行った市場分析での大手戦略ファームと中小戦略ファームの平均売上、各従業員の平均年収、そして売上に対する人件費の割合データが手元にあるという事です。

せっかくなので、ツリー構造の『売上が多い』という部分と『人材への投資に積極的』という部分を、それぞれこの市場分析データを使って検証してみましょう。ちなみに、今回は費用に関しては分析していませんので、(規模の経済による単位当たりの)変動費・固定費が少ないという仮説の検証はできません。それ以外の項目も同様です。

今回検証可能な仮説は、売上と人材への投資項目のみ
前段落1の内容を元に、大企業で働く社員の給料が中小企業よりも高い理由として、仮説を以下のように二つ立ててみます。

2-1.売上についての仮説構築

まずは、大手企業の売上が多いという前提での仮説を構築します。

仮説1:
大手企業は販売量も多く販売単価も高いので、売上が増え、そして利益も多くなる。したがって、大手企業で働く社員の給料は中小企業で働く社員の給料より高くなる


補足として、かかるコスト(変動費や固定費)は変わらないという前提での仮説となります。それと、大手企業の販売量が多いという事は、市場の需要および企業の供給量が(中小企業よりも)多いという事を示唆しています。そして、大手企業の販売単価が高いという事は、ブランド力や商品の品質・性能などが(中小企業よりも)上回っている可能性がある事を示しています。

2-2.人材投資についての仮説構築

次に、大手企業は人材投資に積極的という前提での仮説を構築します。

仮説2:
大手企業は高度人材を確保・維持するために、自社イメージの向上(ブランド力の向上)を人材への積極投資によって図っている。よって、大手企業で働く社員の給料は中小企業で働く社員の給料より高くなる


補足として、大手企業が人材への投資に積極的かどうかを判断する指標ですが、売上に対する人件費の割合が中小企業よりも大きいことで判断することにいたします。企業の理念など、必ずしも金銭だけで評価できるものではありませんが、(定性的なデータが無いので)ここでは定量的に判断できるデータのみで行います。

検証のための準備はこれで整いました。次に移ります。

3.市場分析の結果を再確認

以前行いました、経営戦略コンサルティングサービスにおける市場規模の推計をまとめたチャートおよび試算表を、確認も兼ねてもう一度見直してみましょう。

3-1.推定の年間市場規模と事業者数を示したグラフ

これは経営戦略コンサルティングサービスにおける、事業者カテゴリー別の推定年間市場規模と事業者数を表したグラフです。

2. 経営戦略コンサルティング:推定年間市場規模と事業者数
ここで注目していただきたいのは、1番の大手戦略ファームと2番の中小戦略ファーム(大)のみとなります。

1番の大手戦略ファームの市場規模は1,764億円、そして2番の中小戦略ファーム(大)は478億円となり、市場規模で見ますと、大手と中小では大手の方が約3.7倍大きい事が分かります。事業者数で見ますと、中小戦略ファームは大手戦略ファームの約3.3倍となります。

3-2.1事業者当たりの推定年間平均売上と従業員数を示したグラフ

次に、経営戦略コンサルティングサービスにおける、1事業者当たりの推定年間平均売上と従業員数を表したグラフです。

3. 経営戦略コンサルティング:1事業者当たりの推定年間平均売上と従業員数
ここでも同様に、注目していただきたいのは、1番の大手戦略ファームと2番の中小戦略ファーム(大)のみとなります。

1番の大手戦略ファーム1事業者当たりの年間平均売上は58.8億円、そして2番の中小戦略ファーム(大)は4.78億円となり、1ファーム当たりの平均売上で見ますと、大手と中小では大手の方が約12倍多い事が分かります。

前コラムの繰り返しとなりますが、1ファーム当たりの平均売り上げに12倍の差がついてしまったのは、大企業と中小企業の市場規模と、そこに参加している事業者数がそれぞれ違うからです。大手戦略ファームと中小戦略ファーム(大)の市場規模の差が約3.7倍あり、各市場に参加している事業者数が約3.3倍異なりますので、掛け算をしますと約12倍となります。

3-3.クライアントが大手企業の場合の、大手戦略コンサルティングファームの試算表

そして、大手戦略コンサルティングファームの市場規模を推計した試算表に移ります。

1. クライアントが大手企業の場合の、大手戦略コンサルティングファーム年間市場規模推定
重要な数字のみを抜き出します。

売上の仮説を検証するためのパラメータは、以下の通りとなります。

販売量販売単価一社の売上一社の利益社員の給料
3,528案件5,000万円58.8億円??1,500万円


人材投資の仮説を検証するためのパラメータは、以下の通りとなります。

高度人材の確保・維持ブランド力の向上人材への投資 (割合)社員の給料
????45%1,500万円

3-4.クライアントが中小企業の場合の、中小戦略コンサルティングファームの試算表

次は、中小戦略コンサルティングファームの市場規模を推計した試算表です。

2. クライアントが大規模な中小企業の場合の、中小戦略コンサルティングファーム年間市場規模推定
重要な数字のみを抜き出します。

売上の仮説を検証するためのパラメータは、以下の通りとなります。

販売量販売単価一社の売上一社の利益社員の給料
3,189案件1,500万円4.78億円??800万円


人材投資の仮説を検証するためのパラメータは、以下の通りとなります。

高度人材の確保・維持ブランド力の向上人材への投資 (割合)社員の給料
????50%800万円

4.仮説の検証

必要なデータも一通り揃いましたので、仮説の検証をこれから行っていきます。

4-1.売上についての仮説を検証

仮説1:
大手企業は販売量も多く販売単価も高いので、売上が増え、そして利益も多くなる。したがって、大手企業で働く社員の給料は中小企業で働く社員の給料より高くなる

社員の給料にインパクトを与えていると思われるパラメータを一つ一つ検証していきます。

販売量販売単価一社の売上一社の利益社員の給料
真?

以上の検証結果から、一社当たりの平均利益を除き、全てのパラメータで大手企業の方が多い事が分かりました。

今回実施した分析では、一社当たりの平均利益は導き出していませんので、データ上では真か偽かは判断が付きかねますが、前段落の2でかかるコストは変わらないという仮定をしましたし、そもそも利益を出しているからこそ、企業も沢山の給料を従業員に支払えるわけですから、一社当たりの平均利益も当然大手企業の方が多い、真と判断いたします。

つまり、ここでは何が言いたいかと言いますと、大手企業の方が商品・サービスの販売量が多く(つまり市場需要も供給量も多く)、販売単価も高いので、一社当たりの平均売上・平均利益も多くなり、結果的に社員の給料もずっと多くなったという事です。

ですので、売上の多さが社員の給料の多さに大きくインパクトを与えているのは間違いないようです。『売上の多さ』の代わりに、『市場規模の大きさおよび事業者数の少なさ』と言い換えても成り立つと思います。

4-2.人材投資についての仮説を検証

次に、人材投資についての仮説検証に移ります。

仮説2:
大手企業は高度人材を確保・維持するために、自社イメージの向上(ブランド力の向上)を人材への積極投資によって図っている。よって、大手企業で働く社員の給料は中小企業で働く社員の給料より高くなる

高度人材の確保・維持ブランド力の向上人材への投資 (割合)社員の給料
????

以上の検証から、人材への投資(売上に対する人件費の割合)に関しては、当初想定とは異なり、中小企業の方が大きいと分かりましたので、偽となります。

つまり、大手企業は中小企業と比べ、人材への投資には積極的ではなく(売上に対して人件費の割合は小さく)とも、社員の給料はずっと高いという事が分かりました。

ですので、大手企業と中小企業の間で、人材への投資に積極的(売上に対して人件費の割合が大きい)かどうかと、社員の給料が高いかどうかは、直接的な相関関係が無いと考えられます。

それと他のパラメータ、『高度人材の確保・維持』と、『ブランド力の向上』については、分析データがありませんので考慮には入れませんでした。

ここで、この検証内容について注意・補足いたします。

今回は人件費の割合で(定量的に)判断したため、以上の相関関係が無いという結果となりましたが、これがもし割合ではなく、人件費そのもので検証していますと、大手戦略ファームは26.46億円、そして中小戦略ファームは2.39億円となり、全く逆の結果となっていました。

さらに、定性分析なども交えて総合的に判断しますと、(大手企業が中小企業よりも本当に人材投資に積極的かどうかまでは分かりませんが)、少なくとも『高度人材の確保・維持』、『ブランド力の向上』、『人材への積極投資』などの各パラメータと、『大手企業で働く社員の給料の高さ』との間には、一定の相関関係があるという結論になるはずです。つまり、これら三つのパラメータは、本来社員に高い給料を支払うだけの十分な理由となりえます。

後、今回は考察しませんでしたが、企業理念または経営者の信念(つまり経営哲学)が、社員への給料にも大きく影響を与えている可能性はあります。

したがいまして、ここで得られる洞察とは、人は理屈や損得だけで生きているわけではない以上、あまり論理や思い込みだけで物事を判断しない方が良いという事です。

5.まとめ

以上となります。いかかでしたでしょうか?

今回は以前行った市場分析の内容をヒントに、「なぜ大手企業で働く社員の給料は高いのか?」について戦略コンサルタントの観点から考察してみました。加えて、せっかくなので前回の分析結果を有効活用し、仮説の検証も行ってみました。

普通は給料が高い理由として、「需要が多いから」または「売上が多いから」、という答えになると思います。それで正しいのですが、他にも可能性があるという事が分かりました。私が戦略ファームの面接官でしたら、応募者の方にぜひ聞いてみたい質問です。

文章量は少ないながらも、かなり内容の濃いコラムになったのでは?と思います。もし誤りを発見されましたら、ご連絡いただけますと幸いです。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

ホームページでは本コラムの小話もご紹介していますので、よろしければそちらもご覧ください。

この記事を書いたプロ

味水隆廣

財務分析を経営戦略につなげる国際ビジネスのプロ

味水隆廣(漸コンサルティング)

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