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コラム

既存の事件の枠組みにはめる

2019年3月26日

コラムカテゴリ:法律関連

 裁判官の判決をもらって、見通しがはずれることがある。
 私も弁護士を20年以上やっているので見通しを誤ることはほぼなくなったのだが、それでも外れることはある。
 そういう事件は、判決の筋が通常書かれるべき判決とは違っているのである。
 そうした判決が書かれる理由は、裁判官が当該事件を見ないで、既存の事件の枠組みにはめて、それから外れる証拠や主張を無視するというところにある。いわばマニュアル化した判決である。
 しかし、事件は個別であるので、マニュアルではダメで、他の事件の規範に当てはめれば個々の事件の判決が導き出されるものではないはずなのである。マニュアル化された判決は、裁判官の思考停止判決である。
 交通事故の分野でいえば、損保会社の主張のほぼそのままという判決もある。交通事故専門部の裁判官からは、損保会社が被害者側の主張を激しく争っていても、被害者側のこちらの主張立証を踏まえて妥当な和解案を出してくれることの方が多いという認識であるが、そうでない経験のない裁判官が交通事故を担当すると、損保会社の主張そのままではないかという和解案を出してくることもある(私は損保の顧問ではないが、被害者側として、交通事故はそれなりの件数をしているので、経験の少ない裁判官よりも件数をこなしていることがままある。)。
 岡口基一裁判官の「裁判官は劣化しているのか」という書籍を先日読んだのだが、相変わらず素晴らしい裁判官はいるものの、劣化している裁判官はやはりいるというのが現実であろう。岡口基一裁判官の書籍では、その原因について触れているが、ネタバレになるのでここでは触れない。
 裁判官の制度改革も進まないので、既存の枠組みの中で、いかに裁判官の質を維持するか、は重要であり、裁判の当事者の人生すら左右する判決を書くことのできる裁判官が、マニュアル化した判決を書かないようにどう教育するかも問われている時代であろうと思う今日この頃である。

この記事を書いたプロ

中隆志

被害者救済に取り組む法律のプロ

中隆志(中隆志法律事務所)

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