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任意後見契約について

三上隆

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テーマ:終活~任意後見契約~

 終活などに関するご相談をお伺いしておりますと、後見人についてのお問い合わせをいただくことが増えてきた様に感じます。
 後見人とはどういう存在なのか、どの様なことをしてもらえるのか、費用はどれくらい必要なのか、後見人を頼めそうな親族がいない場合はどうすればいいのか、という具合です。
 
 総務省統計局の令和3年の報告では、⽇本の65歳以上の⾼齢者⼈⼝は約3,600万⼈を超え、総⼈⼝の約30%になっておりまして、2060年には40%に達するとも⾔われております。
  
 高齢者を支える役割の一人である後見人には、公的な制度として「成年後見制度」があり、その中には「法定後見」「任意後見」の2つがあります。
 ただ、現在の成年後見制度の利用者数は、認知症患者の数%程度でしかなく、諸外国と比較しても少ない割合となっております。

 また、新たに法定後見を申立した件数(36,497件・最高裁判所事務総局家庭局/令和2年)と、任意後見の契約数(11,717件・e-Stat/令和2年)との比較では、任意後見は法定後見の3分の1程度の数となっております。

 

法定後見と任意後見の違い

 一般的には、後見人を依頼する本人の判断能力が、低下し始めてから、あるいは、低下してから後見人を選ぶという場合、「法定後見(法定後見には、判断能力の程度により、後見・保佐・補助の3種類があります)」を用い、まだ元気なうちに将来の後見人を決めておく、という場合に「任意後見」を用いるという制度設計になっております。
 
 それぞれに違いはありますが、‟後見人を誰が決めるか”ということは、大きな違いの一つです。
 法定後見は、本人の判断能力が低下してからの申立によって、家庭裁判所が後見人を選任し、後見人の約70%は、第三者の専門職が選ばれております。
 一方で、任意後見はその字のごとく、本人が「任意」に「後見」人を選ぶことが出来ます。

 任意後見制度の利用につきましては、令和4年3月に閣議決定された「第二期成年後見制度利用促進基本方針」でも、優先して取り組むべき事項の筆頭に、任意後見制度が定められております。
 本人にとって後見人は、‟その後の人生の伴走者の一人”ともなる立場の方ですので、‟誰に後見人になってもらうのか”という部分はとても重要です。
 将来的に、財産管理や様々なことを任せる本人にとっては、「知らない誰かよりも、自分のことをよく知っている人に」と、お考えになるお気持ちはごく自然なことだと思いますし、初見の方よりも安心感をもったサポートが期待出来ます。

※法務省民事局・任意後見制度のパンフレット
任意後見制度①
任意後見制度②

後見人に求められるもの

 現在の成年後見制度は、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」の第3条にて、次の3つの理念が掲げられております。

  • ノーマライゼーション
  • 自己決定権の尊重
  • 残存能力の活用

 ノーマライゼーションとは、元々は障がいのある方とない方が特別に区別されることなく、共存した社会生活を送ることが正常、という北欧から始まった社会理念で、条文では「~成年被後見人等が、成年被後見人等でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ~」と記されております。
 
 自己決定権の尊重・残存能力の活用、という部分につきましては、当たり前のことですが、判断能力が低下した方であっても、ご自身の意思があります。
 本人が、ご自身の意思表示をうまく出来ない場合であっても、後見人だけではなく、本人の援助者となる介護支援者や親族などといった方々も、それを汲み取る努力が求められ、言葉で上手く伝えられないからと言って、安易に意思決定の代行が許されてはならないとされます。

 後見人といいますと、“財産管理をしたり、本人の手続き代理をしたりするだけの役割”というイメージがあるかもしれませんが、判断能力が低下してきた本人を他の援助者と連携して支え、出来るだけこれまで通りの日常生活が送れる様、その手助けをする役割も求められます。
 人と人とのつながりは、お会いして顔を見て話しをしてこそ、つくられていくものだと思いますので、いかにしてコミュニケーションをとり、信頼関係を築いていくか、ということが重要だと考えます。
 
 私の場合ですと、実際に後見人としてサポートをする前の段階の方とは、見守り契約を結ばせていただいたり、近くを通った折には訪問をするなど、出来るだけお会いする機会を設ける様にしておりまして、その他の方法では、メールやFAXなどで連絡をする様な方もおられますし、季節のご連絡のお手紙することもあります。
 

任意後見の費用について

 後見人の話題については、「もし認知症になったら?」というご相談の中で、出てくることが多いのですが、任意後見の制度についてご説明を致しますと、「今はまだ元気なので、後見人に毎月費用をお支払いするのはちょっと・・」というお答えが返ってくることがあり、後見人の契約をすると、それからは毎月費用が発生する、と思われている方は多い様に思われます。

 法定後見の場合、本人の判断能力が低下している状態で後見人が就きますので、すぐに後見人としてのサポートを開始し、それに伴って報酬も発生致します。
 任意後見の場合、契約をした段階では本人がまだお元気で判断能力に問題ないことが一般的ですので、すぐに後見人としてのサポートを行う訳ではありません。

 任意後見契約をした時点では、「将来の後見人を予約している」様な状態となり、定期的な費用が発生する訳ではありません。
 その後、認知症などの原因で判断能力が低下した場合に、家庭裁判所に申立をすることで、後見人を監督する立場の「任意後見監督人」が別途選任され、そこから初めて後見人としてのサポートが開始されることになります。

 また、後見人への報酬につきましては、後見人となる方との間で自由に決めることが出来ます。
 親族に後見人になってもらう場合、無報酬にすることも出来ますが、後見人として正式にサポートを開始した場合、本人の為に行った業務や金銭の管理状況などについて、定期的に任意後見監督人に報告する義務があり、報告書や後見日誌などの作成が求められますので、後見人となる方にはその心づもりが必要となります。
 
 なお、後見人に対する報酬を無報酬にした場合でも、任意後見監督人に対する報酬が別途必要となります。
 東京家庭裁判所が平成25年に発表した、「成年後見人等の報酬額のめやす」によりますと、管理する本人の財産額や内容によって決まり、管理財産額が5,000万円以下の場合は、月額1万円~2万円とされております。

任意後見契約を結ぶには

 任意後見契約を結ぶには、当事者同士で合意した委任内容を公正証書にすることが、「任意後見契約に関する法律」第3条で定められております。
 具体的には、任意後見を依頼する本人とその後見人となる方で、どの様な事項を委任するのかを決め、その為に必要となる代理権を定めて、公正証書を作成致します。
 その後、公証人の嘱託によって、任意後見契約がなされていることについて法務局で登記され、後見人に就任する前の段階である、「任意後見受任者」となります。

 任意後見契約公正証書を作成する為、他に必要となる書類は、次の通りとなります。
・本人
 印鑑登録証明書(又は運転免許証等、顔写真付身分証明書)、住民票、戸籍謄本
・任意後見を受任する方
 印鑑登録証明書(又は運転免許証等、顔写真付身分証明書)、住民票
 ※印鑑登録証明書、住民票、戸籍謄本は、発行後3か月以内のもの

 また、公正証書の作成時には、公証人費用としておよそ2万円前後(証書の枚数による)が別途必要となります。

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三上隆(行政書士)

相続まちの相談室/行政書士 三上隆事務所

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