「死後事務委任契約」について②
少子化・核家族化がすすむ現代では、子供のおられない“おひとりさま”、“おふたりさま”と呼ばれる方々が増加しつつありますが、それは同時に「自身の死後、様々な手続きや後始末はどうなるのだろうか」と、ご心配をされる方も増加している、ということでもあります。
また、「終活」という言葉が一般化してきたこともあり、「子供や親族に負担を掛けたくない」という理由から、生前に様々な準備をする方も増えてきております。
「死後事務委任」契約とは、そんなご自身の死後にまつわる様々な事務について、生前の契約によって、委任者の意思を実現させる為の契約です。
一般的な認知度はまだ高いとは言えませんが、先の様な事情からも、これからその需要はますます増えてくるものと思われます。
遺言との違い
死後事務委任契約は、自分が亡くなった後に生じる様々な事務を委任する為の契約ですが、同じく死後のことを定めた遺言とは、どう違うのでしょうか。
遺言は、相続や財産の処分など、民法に規定された事項や、法的な解釈によってなし得るとされた事項についてのみ、法的な効力をもちます。
その為、それ以外の事項に関しては法的な効力がありませんので、もし遺言に記載されていたとしても、あくまで本人の希望という範囲に収まり、それを行う権限も生じないことになります。
遺言では規定することが出来ない、その他の大切なことを委任する為の契約が、死後事務委任契約となりますので、遺言を補完する役割があるとも言えます。
「死後事務委任」契約が導かれる根拠
この契約は法律に直接の規定がなく、過去の判例などの積み重ねによって成立が認められる様になりました。
次の2つ問題に対する判例が、死後事務委任契約を有効とするものとして知られています。
①死後事務委任契約は、委任者の死亡によって終了するのか
民法は、第653条第1号で委任契約につきまして、「委任者又は受任者の死亡」によって終了する、と規定しております。
死後事務委任契約は、この民法第653条1号との関係では、どうなるのでしょうか。
平成4年・最高裁判決では、次の様に判示して死後事務委任契約が委任者の死後も成立することを認めております。
「自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約が~成立したとの原審の認定は、当然に、委任者の死亡によっても右契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものというべく、民法第653条の法意がかかる合意を否定するものではないことは疑いを容れないところである。」
なお、この裁判では次の事務委任が認められております。
・病院費用の精算
・葬儀、法要の施行と費用の支払い
・お世話になった方への謝礼金の支払い
②委任者の相続人による解除は可能なのか
契約の当事者ではない委任者の相続人により、死後事務委任契約を解除することが認められるのか、という問題です。
この点につきまして、平成21年・東京高裁判決は以下の通りに判示して、委任者の相続人による委任契約の解除を否定しております。
「委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては、委任者は、自己の死亡後に契約に従って事務が履行されることを想定して契約を締結しているのであるから、~契約を履行させることが不条理と認められる特段の事情がない限り、~委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含する趣旨と解することが相当である。」
死後事務委任契約で定められること
死後事務委任契約で定められる一般的な事項は、主に次のものがあります。
・医療費や入院費、福祉施設などへの支払い
・家賃や公共料金、税金などの支払い
・行政官庁等への諸手続きや届出
・各種契約などの解除、解約手続き
・賃貸建物の明け渡しや日用品などの処分
・葬儀や通夜、埋葬、納骨、以後の法要などに関する事項
・相続人がいない場合の相続財産管理人選任の申立手続き
・・など
なお、行政官庁等に対する諸手続きや届出につきまして、「死亡届」の届出は含まれません。
死亡届の届出義務者は、親族や任意後見人など(戸籍法第87条)となっており、死後事務委任契約の受任者という立場では行うこと出来ませんので、注意が必要です。
遺言や任意後見契約との関係
ご自身がどの様な“これから”を望まれるかによって、必要となる種類や内容は異なってくるかと思われますが、死後事務委任契約は、遺言(財産の引継ぎ方法の指定)や任意後見契約(認知症などへの備え)と併せて締結されることも増えております。
これらは、“おひとりさまの3点セット”とも言われますが、それぞれに適用される範囲が異なりますので、将来家族の構成や関係性などに変化があった場合でも、不備が生じない様にという理由からです。
私が「遺言執行者」にご指定いただいている方の中にも、死後事務委任契約を併せて締結している方が何名かおられますし、私の所属する、NPO法人・京都府成年後見支援センターにおきましても、死後事務委任の受任者を法人として締結する為の準備がすすめられているところです。
万一の備えとして、遺言はすでに一般的なところとなってきておりますが、少子化に加えて「人生100年時代」と言われる現代は、後見契約や死後事務委任契約などにつきましても、併せて考えることが重要な時代となってきているのかもしれません。