公正証書遺言は自宅でもつくれます
今回のテーマは公正証書遺言です。
遺言書のご相談をお伺いするなかで、「自筆証書遺言」との違いや、どちらの方がよいのか、というお問い合わせをいただくことがあります。
公正証書遺言を一言であらわしますと、遺言者さまが決められた遺言内容を、公証役場にいる「公証人」という方が正式な遺言書としてつくるもの、ということになります。
この過程におきましては、”遺言者さまの本人であることの確認”、”認知症などによって遺言能力が低下していないか”などにつきましても、公証人が直接遺言者さま本人に確認した上で、遺言書がつくられます。
それぞれの違い一覧にしますと、下記の通りとなります。
※民法の改正により、財産目録の部分は印字して添付する事も可能になりました。
どちらにも、メリットとデメリットはありますので、一概にどちらがよいとは言えませんが、それぞれの違いを確認された上で、どちらがご自身にとってよいのか、選択していただければよいかと思います。
次の項目で、もう少し詳しくお伝えさせて頂こうと思います。
公正証書遺言の特徴について
◆公正証書遺言書のメリット
①遺言書の安全性を確保できる
自筆証書遺言書におきましては、その遺言書が「本当に本人が書いたものか」、「正常な判断によって書いたものか(誘導されたり、認知症などになっていなかったか)」などが、しばしば争われております。
特に、ご高齢になってから遺言書を遺された場合、そのようなことが問題となるケースがありますが、公正証書遺言書の場合は、公証人が遺言者さまに直接確認をした上で作成されますので、それらの疑いをもたれる可能性が低くなります。
②家庭裁判所の検認手続きが不要
「検認」とは、遺言書を遺された方が亡くなってから、相続人の皆様の立会いのもと、遺言書があった事を確認をする手続きの事です。
自筆証書遺言の場合、この検認手続きを経ていないと、遺言書の内容に従って金融機関での預貯金などの解約や、不動産の相続登記(名義変更)などの手続きをする事は出来ません。
それが公正証書遺言の場合は、事前に公証人によって確認がされておりますので、この検認手続きをすることなく、すぐに相続手続きに移る事が出来ます。
ただ、この検認手続きは、遺言書の有無を確定し、以後の変造などを防止する為のものですので、遺言書の有効性について、裁判所が個別に判断をするものではありません。
遺言書の保管者またはそれを発見した相続人が、家庭裁判所に請求をするという規定になっております。
③遺言書の原本が公証役場で保管される
公正証書遺言は、公証役場におきましてその原本が保管され、遺言者さまには正本(場合によっては謄本も)がお手元に渡されることになります。
公正証書遺言の原本は、20年保管するという一般規定になっておりますが、但し書きとして必要がある場合は継続して保管をしなければならない、という規定もあります。
遺言者さまが亡くなった時に、保管期間切れで破棄されていては、遺言書の意味がありませんので、この規定によりまして、公証役場で若干異なりますが、最低でも遺言者さまが100歳になられるまでは保管されております。
遺言書は、場合によっては何年も先に初めてその存在が陽の目をみる場合もあります。
その間の保管方法や、誰にそれを発見してもらうのか、という懸念もなくなることになります。
◆公正証書遺言のデメリット
①費用が発生する
公正証書遺言は、先にもお伝えしました通り、公証人が遺言者さまの意思を確認をした上で、法律上も間違いがない遺言書が完成しますが、公証人に対する手数料が必要となります。
公証人手数料は、遺言書に記載する財産額や、財産の引き継ぎをされる方の数によって変動します。
※「1,000万円の財産を1人の方に遺す」という内容の場合
証書の手数料は17,000円で、これに遺言手数料11,000円を加えて、合計28,000円になります。
※「1,000万円の財産を2人の方に500万円ずつ遺す」という内容の場合
証書の手数料は11,000円×2で22,000円となり、これに遺言手数料11,000円を加えて、合計33,000円となります。
②証人が2名必要になる
公正証書遺言は、遺言者さまの口述や書面で示された遺言内容をもとに、公証人が作成しますが、その内容に誤りなどが無いか、証人2名が確認をして、実際の遺言書にも署名を行います。
この証人には、未成年者、相続人及び遺贈を受ける方、それらの配偶者、公証人関係者以外は、誰でもなる事が出来ます。
こちらに関しまして、相談会などで証人のご説明をした場合に、「親戚の〇〇さんは証人になれますか?」というお問い合わせをいただくことがあります。
結論的には、親戚の方が未成年ではなく、相続人や遺言書によって遺贈を受ける方、その配偶者でなければ、証人になっていただくことができます。
ただ、証人は遺言書の内容をすべて知る事になりますし、公正証書遺言の証人自体には「守秘義務」はありませんので、お知り合いの方に証人を依頼する場合、そのあたりもふまえた上で、検討をされる必要があります。
公正証書遺言をつくるには
公正証書遺言をつくるには、遺言者さまと証人になられる方が、公証役場の出向いてつくられるのが、一般的な流れになります。(別途費用がかかりますが、病院などに公証人に来てもらう事も出来ます)
公証人は、遺言者さまの口述した内容を遺言書にしていくのですが、相続人が誰なのか、名前や生年月日は間違いないのか、などというところを確認する為、遺言者さまや相続人となる方の戸籍を提出して、遺言者さまとの関係性を示す必要があります。
実務上は、実際に遺言書をつくる日よりも以前に、公証人と下打ち合わせを行って、遺言書の原稿となるものを作成して、それが本当にご自身の意図した遺言内容で間違いないか、という事を当日に確認して作成する事になります。
また、相続財産の確認方法につきましては、不動産の場合は「登記簿謄本」で不動産を特定し、「評価証明書」で価額を確認することになり、預貯金に関しては残高などの記載したメモを渡すのが一般的です。
通帳のコピーなどがあれば間違いありませんが、必ずそれを提出しなければならない訳ではありません。
その他、印鑑証明書+実印、または運転免許証、住民基本台帳登録カード+認印などで本人確認を行います。
公証役場につきましては、京都に4か所、滋賀は3か所あります。
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遺言内容を実現する為に
遺言者さまがお亡くなりになった場合、その遺言内容を実現する為には、各所に手続きをする必要があります。
これを「遺言執行」といいます。
ご自宅などの不動産におきましては、遺言でそれを引き継ぐとした方が、”相続人かどうか”によりまして、必要となる書類に違いがあります。
①引き継がれる方が相続人の場合
公正証書遺言書と、添付資料としまして、遺言者さまが亡くなったことの記載のある戸籍謄本(または除籍謄本)、相続人であることがわかる戸籍謄本、住民票の写し
⇒引き継がれる相続人の方が、単独で手続きを行うことが出来ます。
②引き継がれる方が相続人以外の方の場合
公正証書遺言と、添付資料としまして、遺言者さまが亡くなったことの記載のある戸籍謄本(または除籍謄本)、引き継がれる方の住民票の写し、登記識別情報(権利証)、全ての相続人または遺言執行者の印鑑証明書
⇒引き継がれる方と全ての相続人の方とで、共同で手続きを行うことになります。
(遺言執行者がいる場合は遺言執行者との共同になります)
また、不動産の登記簿上の氏名・住所と、遺言者さまの最後の氏名・住所地が異なる場合、住民票の除票や戸籍の附票などで、亡くなった方と登記簿上の名義人が同一人物であることを示す必要があります。
この他、金融機関などにおきましては、金融機関ごとに手続き方法が若干異なりますが、一般的には、預貯金などを引き継がれる方に加えて、代表の方あるいは全ての相続人の方の実印と印鑑証明書が求められます。
遺言執行者を指定しておきましょう
「遺言執行者」とは、遺言者さまがご自身の遺言内容を確実に実現する為に、遺言の中でその役割を指定された方の事です。
例えば、不動産を相続人以外の方(例えば、孫)に遺すという遺言の場合、遺言執行者を指定していませんと、その方と全ての相続人の方が共同で手続きをする事になります。
この為、相続人の方々との関係性によっては、その協力が得られずに、遺言内容の実現が困難になる場合があります。
ご自身の遺言内容を託す方を決められ、事前にその方から就任の承諾を得ておけば、遺言内容が間違いなく実現されますので、円満な相続を希望されて遺言書をつくられた遺言者さまにとって、安心につながることにもなります。