まどろみの塾ジイ1016 ー今日の一問、一瞬に向き合うー

カラン……
「いらっしゃいませ」
「こんばんは、マスター」
「おや、お父さん。今日はどうしたんじゃな。いつもより浮かない顔をしておるぞ」
「実は、娘のことで相談がありまして……。先日、模擬試験の結果が返ってきたんですが、偏差値が前回より下がってしまったんです」
「ほう、それはお嬢さんもショックじゃったろうな」
「ええ。本人もかなり落ち込んでいるようです。ただ、これから受験本番に向かうというのに、このままで大丈夫なのかと心配で……。つい『もっとヤル気を出せ!』と言ってしまったんです」
「なるほどな。それで、お嬢さんは何と?」
「黙り込んでしまいました。確かに、頑張らなければいけない時期なのは分かっているんですが……」
「お父さん。ちょっと考えてみてほしいんじゃ。偏差値が下がって落ち込んでいる子どもが、すぐにヤル気満々になると思うかのう?」
「それは……難しいかもしれませんね」
「そうじゃろう。結果が悪かった。頑張ったつもりなのに、数字が下がった。そんなときに『もっとヤル気を出せ!』と言われても、本人は困ってしまうことがあるんじゃ」
「では、どう声をかければよいのでしょう?」
ヤル気が出るのを待っていてはいかん
「まず、ヤル気について考えてみようかの。ヤル気は大切じゃ。じゃが、いつでも思いどおりに出せるものではない。特に、結果が思わしくなかったときにはな」
「確かに、落ち込んでいるときに気持ちを切り替えるのは難しそうです」
「そうなんじゃ。ここで気をつけたいのは、『ヤル気が出たら勉強する』という考え方じゃ。ヤル気が出るまで待っていたら、勉強を始めること自体が難しくなってしまう。ヤル気を受験勉強の条件にしてしまうと、それが勉強を妨げる要因になることもあるんじゃ」
「ヤル気がないから勉強できない、ということですね」
「そうじゃな。じゃが、まず机に向かって一問解いてみる。間違えた問題を一つ見直す。そんな小さな行動から始めることもできるんじゃ」
「なるほど。でも、ヤル気がないのに始めても、なかなか続かないのではありませんか?」
「最初から長時間頑張ろうとせんでもええんじゃ。大切なのは、小さくても一歩を踏み出すことじゃよ」
「一歩、ですか?」
「そうじゃ。わしは、以前から『ヤル気は足あと』と考えておるんじゃ」
「ヤル気は足あと……ですか?」
「そうじゃ。足あとは、歩いたあとに残るものじゃろう。歩く前から足あとがついておるわけではない。ヤル気も、それと似ておるんじゃよ」
「なるほど。まず行動して、そのあとにヤル気がついてくることもあるんですね」
「その通りじゃ。英単語を五つ覚えた。数学の問題を一問解いた。昨日できんかった問題が、今日は解けた。そんな小さな一歩も、立派な足あとなんじゃ」
「確かに、それなら始められそうですね」
「そしてな、お父さん。ここで大人にできることがあるんじゃよ」
「といいますと?」
「子どもが踏み出した小さな一歩を、見逃さんことじゃ。できていないことばかりを指摘するのではなく、できたことにも目を向ける。『今日は一問、見直せたんじゃな』『昨日より、ここが分かるようになったな』と、その足あとを一緒に確かめてやるんじゃ」
「なるほど。結果だけでなく、そこに至る行動にも目を向けるわけですね」
「そうじゃ。自分が踏み出した一歩を実感できれば、それが次の一歩につながることもある。小さな足あとを積み重ねるうちに、少しずつ自信が生まれ、ヤル気が育っていくんじゃよ」
「ヤル気が出るのを待つのではなく、まず一歩。そして、その一歩を認めるんですね」
「うむ。ヤル気を無理やり引き出そうとするより、踏み出した一歩を一緒に喜ぶ。その積み重ねが大切なんじゃ」
「なるほど……。私も、できていないことばかり見ていたのかもしれません」
「気づけただけでも、大きな一歩じゃよ。親もまた、子どもの足あとを見ながら、一緒に歩んでいけばええんじゃ」
https://mbp-japan.com/kyoto/kyoshin/column/5119313/
「塾ジイの部屋」6 ー模擬テスト活用法 その3ー
「責める」より「攻め方」を一緒に考える
「それでは、偏差値が下がったとき、親として何をすればよいのでしょう?」
「まずは、なぜ下がったのかを一緒に考えることじゃ。原因を確かめずに、本人の努力不足と決めつけてはいかん」
「原因ですか?」
「うむ。例えば、時間配分がうまくいかず、解けるはずの問題を残してしまったのかもしれん。苦手な単元が出題されて、得点できなかったのかもしれん。それとも、得点そのものはいつもと同じくらいでも、受験生全体の平均点が上がったために偏差値が下がったのかもしれん」
「なるほど。偏差値が下がった理由は、一つとは限らないんですね」
「そうじゃ。じゃから、答案用紙と成績表を一緒に見てほしいんじゃ。どこで間違えたのか。時間を使いすぎた問題はなかったか。苦手な分野はどこなのか。そうやって原因を探せば、次に何をすればよいかが見えてくる」
「結果だけを見て叱るのではなく、次の対策を考えるわけですね」
「そういうことじゃ。『何でこんな偏差値になったんだ!』と責めるより、『ここから、どう攻めようか?』と一緒に考える。これが大切なんじゃよ」
「確かに、責められるだけでは、子どもも次に何をすればよいのか分かりませんね」
「その通りじゃ。模試の結果は、子どもを責めるための材料ではない。次の一手を考えるための材料なんじゃ」
https://mbp-japan.com/kyoto/kyoshin/column/5233078/
「9月の模試で偏差値が下がる理由|そこから伸びる子の特徴とは?」
塾の先生のせいにする前に…
「実はもう一つ、気になっていることがありまして……。塾の先生の指導にも問題があるのではないかと、つい考えてしまうんです」
「お父さん。その気持ちも分からんでもない。大切なお子さんを預けておるんじゃから、成績が下がれば、塾の指導はどうなっているんじゃと思うのも無理はない」
「そうなんです。塾に任せているのに、どうして成績が下がるんだろうと……」
「じゃがな、ここでも、いきなり先生のせいにするのは待ってほしいんじゃ。偏差値の数字だけでは、普段の授業で何ができていて、どこにつまずいているのか、すべては分からんからな」
「では、塾の先生には、どう相談すればよいのでしょう?」
「答案用紙と成績表を持って、率直に相談してみるんじゃ。『今回、偏差値が下がったのですが、原因をどう考えればよいでしょうか』『これから、どの単元を優先して勉強すればよいでしょうか』とな」
「なるほど。先生を責めるのではなく、具体的な相談をするわけですね」
「そうじゃ。塾の先生は、授業中の様子や普段の学習状況を見ておる。家庭では見えないこともあるじゃろう。保護者が見ている姿と、先生が見ている姿を持ち寄れば、原因が見つかることもあるんじゃ」
「塾の先生を信頼して、相談することが大切なんですね」
「うむ。ただし、信頼するというのは、何でも黙って任せるということではないぞ。疑問があれば尋ねる。不安があれば相談する。お互いの見立てを確かめながら、次の作戦を一緒に考えていくんじゃ」
https://mbp-japan.com/kyoto/kyoshin/column/5237668/
今週のJR(塾ジイレビュー)〖保護者編〗―「その“2”を次の一歩につなげる―
受験は、親子と先生で攻めるんじゃ
「マスター、今日のお話で、少し考え方が変わりました。私も焦っていたのかもしれません」
「受験が近づけば、親も焦る。心配するのは、それだけお子さんのことを大切に思っておるからじゃろう。じゃが、その心配をそのまま子どもにぶつけてしまうと、かえって追い詰めてしまうこともある」
「では、これからは、まず娘の話を聞いてみます。そして、答案用紙と成績表を一緒に見て、塾の先生にも相談してみようと思います」
「それがええ。偏差値が下がったからといって、すぐに諦める必要はない。原因を見つけ、対策を考え、一つずつ取り組んでいけばよいんじゃ」
「分かりました。まずは、娘と一緒に次の作戦を考えてみます」
「そうじゃ。『もっとヤル気を出せ!』と子どもを責めるより、『次はどう攻めようか?』と一緒に考える。親ができる大切な応援じゃよ」
「マスター、ありがとうございました。さっそく家に帰って話してみます」
「いつでも相談に来ておくれ。受験は本人が問題を解くものじゃが、本人だけで戦うものではないからな」
カラン……
「ありがとうございました」
お父さんが帰ったあと、わしはグラスを拭きながら考えた。
偏差値が下がれば、本人も親も苦しい。そんなときこそ、責める相手を探すのではなく、次に何をすればよいかを考えるんじゃ。
ヤル気が出るまで待つ必要はない。まず小さな一歩を踏み出す。そして、その足あとを確かめ、次の一歩につなげていく。
子どもが踏み出した一歩に気づき、認め、応援する。それは親にも、先生にもできることじゃ。
責めるより、攻め方を一緒に考える。
受験は本人が歩む道じゃが、その足あとを見守り、ときに一緒に作戦を考える人がおる。そのことが、子どもにとって大きな支えになるんじゃろうな。
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