「鉄」は熱いうちに打て
お子さんが小学生のころ、中学受験の算数問題の間違いを直すことや教えることは簡単なことです。
しかし、そのことでお子さんの算数の学力が向上しているかというと、そうナカナカうまくはいきません。
直され教えられれば、そのときはわかったような気になります。しかし、指導できたのは、水面に出た氷山の一部です。
だから、懇切丁寧にせっかく直したり教えたりしてあげても、1週間もたつと、またできません。思考力に働きかける良問ほど、この傾向が強いようです。
したがって、もう一度教えることになります。同じ問題を2回目に説明するとき、私は同じ切り口・レベルで教えることを心がけます。
なぜなら、そのレベルで理解できないなら、それ以前の部分に問題点があり、その部分を改善しなければならないからです。
しかし、ほとんどの講師や保護者の方は、同じ切り口・レベルではありません。
よりわかってもらえるようにと、もっと切り込んだり、もっと詳しくなったりしていくことがほとんどです。
すると、同じ切り口・レベルではないので、お子さんは前回の理解の再確認にならず、かえってわからなくなります。
しかし、悲しいかな、わからなくても聞いているときはわかったような気がしています。
その結果、幾日か過ぎ、ちょっと数字が変わると同パターンの問題でもできないことになります。
このようなことを繰り返していると、教える側はだんだん気持ちが高揚し、指導はより厳しさが増していきます。
一方、お子さんはだんだん学習意欲が減退し、暗い気持ちで取り組むことになります。
だから、安易に教えたり直したりすることは、短期的には効果があるように見えますが、長い目で見ると、学習の本質に迫ることができず、かえって苦手意識を植え付ける要因となるのです。
「木を見て森を見ず」ではありませんが、目の前の「わからない」に引きずられると、内なる不理解の改善が図られないことになります。
算数という学習は、非常に広範囲の領域の理解の上に成り立っています。極論すれば、構成領域のどれ1つが欠けても成立し得るものではありません。
四則演算力、作図の力、分数と小数の理解、比と割合、度量衡の換算、概数の考え方、図形の求積、並べ方や組み合わせの定理、速さの本質などの問題ごとの基本概念、等々。さらには、読解力や論理力も必要です。
たとえば、売買算が苦手な子に売買算を集中的に取り組ませても、一定以上の対応力のない子にとってはあまり意味がなく、それほど理解が深まるわけではありません。
売買算には、原価、定価、売価、利益、損失、もとになる数と比べられる数を含めた比の規定という基本概念が存在します。
つまり、売買算の理解には、少数・分数の演算力は必須ですし、作図力や歩合・百分率の活用、利益や損失の概念の理解も要します。加えて、問題文に引きずられない論理力、読解力までも求められています。
あなたのお子様はいずれの領域の理解が足りず、売買算でお困りですか。この対応が、売買算を完全に克服するための条件です。ここをクリアせずして、完全な理解はありえません。
中学受験の算数において、この指向性は全ての問題に当てはまります。これが、中学生や高校生になると、構成領域が中学受験ほど多くありませんし、自分自身で補うこともできるようになります。
小学校高学年では、保護者の方でもうまく処理できない問題が出てきます。
そのときは一旦立ち止まり、この問題はどのような領域によって構成されているのか、お子さんはどの領域の理解が不足しているのか、検証してみてください。必ず改善点が見つかるはずです。
特に、低学年時、「木を見て森を見ず」の学習、つまり、直す学習や教える学習を続けていると、学年が上がるにつれて、受験勉強に対応することが難しくなります。
まだ簡単に直したり教えたりできる低学年の時期から、できるだけ直さず教えず理解の本質に切り込む指導を、すすめていただきたいものです。