区分所有法の主な改正内容(5)
今回は第4回目で、新しく創設された「管理不全専有部分管理制度」と「管理不全共用部分管理制度」について説明させていただきます。太字箇所が改正(追加)箇所です。
まず「管理不全専有部分管理制度」は、専有部分の所有者が自身の専有部分の管理を適切に行っていないことによって、他人の権利や法律上保護される利益が侵害されるおそれがある場合に、現行法では、他の区分所有者や近隣住民も関与して管理をすることはできないのですが、裁判所が管理できる者(管理不全専有部分管理人)を選任して専有部分を管理させる制度です。ただし、管理不全専有部分管理制度においては、区分所有者の所在が判明しており、区分所有者自身が集会の決議で議決権を行使することが基本的に可能ですので、管理不全専有部分管理人には議決権行使を認められていません。また処分する場合には、必ずその専有部分の区分所有者の同意を得なければなりません。
もう1つの「管理不全共用部分管理制度」は、外壁が剥落するおそれがあるケースや、廊下やテラスに危険物、大量の悪臭を放つごみが放置されているケースのように、共有者(区分所有者全員)の共用部分の管理が不適当であることによって、近隣住民の権利・利益が侵害されるおそれがある事態が生ずることがある場合に、裁判所が管理できる者(管理不全共用部分管理人)を選任して専有部分を管理させる制度です。こちらの制度も、管理不全共用部分管理人には議決権行使を認められていませんし、処分をする場合には、区分所有者全員の合意が必要となります。
理事会又は管理者が適切に機能していれば共用部分が管理不全状態になることはほとんどありませんから、この「管理不全共用部分管理制度」はとても稀有な場合で導入されるものと思われます。一方、「管理不全専有部分管理制度」は、区分所有者の高齢化とともにゴミ屋敷状態の部屋が増えるため、導入が増えるものと思います。
(管理不全専有部分管理命令)
第四十六条の八 裁判所は、区分所有者による専有部分の管理が不適当であることによつて他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該専有部分を対象として、第三項に規定する管理不全専有部分管理人による管理を命ずる処分(以下「管理不全専有部分管理命令」という。)をすることができる。
2 管理不全専有部分管理命令の効力は、当該管理不全専有部分管理命令の対象とされた専有部分又は共用部分、附属施設若しくは建物の敷地にある動産(当該管理不全専有部分管理命令の対象とされた専有部分の区分所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)並びに共用部分及び附属施設に関する権利並びに敷地利用権(いずれも当該管理不全専有部分管理命令の対象とされた専有部分の区分所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。
3 裁判所は、管理不全専有部分管理命令をする場合には、当該管理不全専有部分管理命令において、管理不全専有部分管理人を選任しなければならない。
(管理不全専有部分管理人の権限)
第四十六条の九 管理不全専有部分管理人は、管理不全専有部分管理命令の対象とされた専有部分並びに管理不全専有部分管理命令の効力が及ぶ動産並びに共用部分及び附属施設に関する権利並びに敷地利用権並びにこれらの管理、処分その他の事由により管理不全専有部分管理人が得た財産(以下「管理不全専有部分等」という。)の管理及び処分をする権限を有する。
2 前項の規定にかかわらず、管理不全専有部分管理人は、集会において議決権を行使することができない。
3 管理不全専有部分管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもつて善意でかつ過失がない第三者に対抗することはできない。
一 保存行為
二 管理不全専有部分等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
4 管理不全専有部分管理命令の対象とされた専有部分の処分につ いての前項の許可をするには、その区分所有者の同意がなければならない。
(管理不全専有部分管理人の義務)
第四十六条の十 管理不全専有部分管理人は、管理不全専有部分等の所有者のために、善良な管理者の注意をもつて、その権限を行使しなければならない。
2 管理不全専有部分等が数人の共有に属する場合には、管理不全専有部分管理人は、その共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
(管理不全専有部分管理人の解任及び辞任)
第四十六条の十一 管理不全専有部分管理人がその任務に違反して管理不全専有部分等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、管理不全専有部分管理人を解任することができる。
2 管理不全専有部分管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
(管理不全専有部分管理人の報酬等)
第四十六条の十二
管理不全専有部分管理人は、管理不全専有部分等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
2 管理不全専有部分管理人による管理不全専有部分等の管理に必要な費用及び報酬は、管理不全専有部分等の所有者の負担とする 。
(管理不全共用部分管理命令)
第四十六条の十三 裁判所は、区分所有者による共用部分の管理が不適当であることによつて他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該共用部分を対象として、第三項に規定する管理不全共用部分管理人による管理を命ずる処分(以下「管理不全共用部分管理命令」という。)をすることができる。
2 管理不全共用部分管理命令の効力は、当該管理不全共用部分管理命令の対象とされた共用部分にある動産(当該管理不全共用部分管理命令の対象とされた共用部分の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。
3 裁判所は、管理不全共用部分管理命令をする場合には、当該管理不全共用部分管理命令において、管理不全共用部分管理人を選任しなければならない。
(管理不全共用部分管理人の権限等)
第四十六条の十四 第四十六条の九から第四十六条の十二までの規定は、管理不全共用部分管理命令及び管理不全共用部分管理人について準用する。この場合において、これらの規定中「管理不全 専有部分等」とあるのは「管理不全共用部分等」と、第四十六条の九第一項中「専有部分並びに」とあるのは「共用部分及び」と 、「動産並びに共用部分及び附属施設に関する権利並びに敷地利 用権」とあるのは「動産」と、同条第四項中「専有部分の」とあるのは「共用部分の」と、「区分所有者」とあるのは「所有者」と、第四十六条の十二第二項中「の所有者の負担とする」とあるのは「を共有する者が連帯して負担する」と読み替えるものとする。