土地家屋調査士の合格者を輩出、事務所の成長を感じる瞬間
GoogleのGeminiとAnthropicのClaude、二つのAIに同じテーマで議論をさせてみたら、結果は、予想を超えるよいものでした。
長年のもやもや
土地家屋調査士の仕事には、条文には書かれていないが現場では常に顔を出す論点があります。その一つが、昭和52年以前の古い地積測量図の「公差」の扱いです。
当時は精度規定そのものが存在しなかったことや、測量技術の進化等により、現在の基準で測り直すと公差オーバーになるケースに直面することがあります。特に、分筆当時は畑だった土地がその後宅地化されたケースでは、「現況宅地だから甲2で判定せよ」と法務局に言われがち。これが長年私を悩ませていた問題でした。
現地には四者境で、ブロック塀も築かれ、当時の境界標が今も残っています。それでも「公差オーバーなので地積更正を認めることはできない」と言われることがあります。それでは本末転倒ではないか――そう思いながら、明確な反論の根拠を持てずにいました。
一つのAIでは届かなかった
最初に助けてくれたのはNotebookLMでした。実務書数十冊をNotebookLMに読み込ませていたので、該当する実務書とその頁まで指示してくれました。そこには、「昭和52年改正前の図面は作製当時の地目で公差を判定する」という記載がありました。まあでもこれは、私もその記述の存在を認識していました。
そこで、これを根拠にClaudeに相談し、次にGeminiにも聞いみることとしました。どちらも悪くはない。しかし、どこか物足りない回答しかえらません。
AIに聞くとき、私たちは無意識に「生徒」になっている。AIは「もっともらしい一つの答え」を差し出し、そこに批判的検討を入れる余地がないことにもどかしさを感じました。
AI同士を議論させてみた
そこで、GeminiとClaudeを直接議論させてみました。私が仲介役となり、Claudeの主張をGeminiに見せ、Geminiの反論をClaudeに戻す。両者に「相手は別のAIだ」と認識させたうえで、批判をぶつけ合わせる。すると、驚くべきことが起こりました。まずその議論が心地よいのです。ひろゆき氏みたいにマウントを取ろうとするのではなく、相手をリスペクトし、相手の意見を尊重しながら互い回答を練り上げていく。自然と思考が整理されていきます。
→Claudeの主張
「昭和52年以前の図面は作製当時の地目で評価すべき。本件は当時畑なので乙1で判定し、公差内として現地杭を尊重すべきです。根拠は96ページです。」
→Geminiの切り返し
「それは正論だが、現場の登記官は『裁量』という殻に閉じこもる。数学的な公差は証拠の一つにすぎないという、より根本的な視点が必要だ。」
→Claudeの応答
「証拠には序列があります。第1順位が物理的表徴、第2順位が文書資料、第3順位が数学的検証。第1順位の証拠を第3順位のツールで否定するのは、証拠法則上の倒錯です。」
→Geminiの追撃
「理論は完璧だが、伝え方に注意が必要だ。登記官を脅すと意固地になる。『あなたを責めているのではない、一緒に法務局を守りたいのだ』という"共犯関係"のトーンが効く。」
こんな感じで、一人のAIでは出てこなかった論理が次々と形になっていきました。「証拠の序列」という理論。「却下ではなく更正登記の理由」という決定打。「共犯関係トーン」という説得術。そして登記官が裁量を振りかざしてきた場合のエスカレーション戦略まで、整理してくれて、唖然。いやいや、そこまでしなくていいんですけど・・・
一つのAIは、もっともらしい答えをくれる。
二つのAIは、本質を掘り起こしてくれる。
議論が生んだ枠組み
議論の最大の収穫は、「証拠には序列がある」という視点です。筆界の認定において、物理的な境界標や構造物は最も強い証拠であり、次に図面などの文書資料、そして最後に公差などの数学的検証が位置づけられる。まあ、いつもやっている登記相談もそうだなあと思います。
- 第1順位:物理的表徴(境界標・構造物・長年の占有)
- 第2順位:文書資料(地積測量図・公図・登記記録)
- 第3順位:数学的検証(公差・面積計算)
本件現場は、第1順位の証拠が「境界標」「ブロック塀」「四者境の合意」と三重に固定されている。これを第3順位の公差という道具で否定するのは倒錯である――この視点こそ、議論から得た最大の収穫だったというか、まあ、結局私の交渉力の問題なんだと。反省しきり。
AIとの付き合い方が変わった
これまでは「一つのAIに質問して答えを受け取る」という受動的な使い方でした。しかし今は、複数のAIに議論させ、その編集者として最良の答えを引き出すという、その流れを確認することで、自分の考えを整理できる。これがとてもよかった。
この手法は、土地家屋調査士の世界だけでなく、明文の答えがないようなケースで有効だと思いました。AIの対話を通じて思考を深めていくのです。
AIは万能の答えをくれる存在ではない。
しかし複数のAIに議論させれば、答えの輪郭は確実に鮮明になります。
おわりに
長年もやもやしていた論点が、一日で整理された。まあ、結局私の法務局へのプレゼン力次第だということに気づいたわけですが、とはいえ、法務局との協議の具体的なイメージが固まり、大変良かったです。
手元の実務書をAIに読ませる。AI同士に議論させる。人間がその議論を編集する。――そんな単純な手順が、長年のモヤモヤを解消してくれたのでした。


