手書き?色分け?未経験者でも大丈夫。あなたに合った日繰り表の“かたち”(家族経営の経理コーチング⑩)

「社長が倒れました。明日から、あなたが代表として動いてください」
そんな言葉を突然告げられたら、どうすればよいのか。頭が真っ白になるのは当然です。先代社長の背中しか見てこなかった、経営のことは父(母)に任せていた——そういったご子息・ご息女からご相談をいただくことが少なくありません。
家族経営において、経営者の急な離脱は会社の存続を左右する危機です。後継者として会社を引き継いだものの、「何から手をつければいいかわからない」「お金が足りなくなりそうで怖い」「従業員にどう接すればいいか」と一人で抱えてしまう方が多い。今回はそんな状況から一年足らずで資金繰りを安定させ、来期黒字化の見通しまでつかんだ事例をご紹介します。
ある日突然、経営者になった
ご相談をいただいたのは、家族経営の中小企業で事業の実務を担っていたご子息でした。先代社長(お父様)が体調を崩し、急遽、代表取締役に就任することになったのです。
最初のヒアリングで印象的だったのは、「何をすればいいか、本当に何もわからないんです」という言葉でした。先代社長が一人でほぼすべての経営判断を行っていたため、財務状況や取引先との関係、資金繰りの実態が後継者にはまったく見えていない状態だったのです。
こうした状況は、実は家族経営ではよくあること。先代が「俺が全部やるから」と抱え込んでしまうケースです。経営の見える化が進んでいないまま代替わりを迎えると、後継者は文字通り暗闇の中からのスタートになります。
最初にしたこと:事業監査で現状を把握する
私が最初に取り組んだのは「事業監査」です。事業監査とは、財務情報だけでなく現場の業務実態・お金の流れ・在庫・売掛金などを横断的に点検し、会社の現在地を客観的に把握することです。
数字を整理してみると、いくつかの問題が浮かび上がりました。売掛金の回収遅れが資金繰りを圧迫していたこと、在庫の水準が実態より過大に見えていたこと、毎月の収益構造が先代の勘と経験に依存しており、数値として整理されていなかったこと——これらが重なって、資金不足が迫っている状況でした。
「なぜお金が足りなくなるのか」を数字で示すと、後継者はそれまでの漠然とした不安から解放され、「なるほど、ここが問題なのか」という理解に変わっていきました。問題が見えれば打ち手を考えることができます。
代行・補佐・助言:習熟度に合わせた三段階支援
後継者への支援で私が大切にしているのが「代行・補佐・助言」という三段階の関わり方です。これは、後継者の習熟度に合わせて支援の形を変えていく仕組みです。
最初は「代行」です。経営管理の仕組みが何もない状態から始まるため、日繰り表(毎日の入出金を把握するキャッシュフロー管理ツール)の作成や、売上・利益・在庫・売掛金の管理体制づくりを、私が実際に手を動かして整えます。
次に「補佐」です。後継者自身が少しずつ動けるようになってきたら、隣に並んで「こういう見方をするといい」「この数字はこう読む」と声をかけながら進めます。会計ソフト(自計化)の導入もこの段階で行い、後継者自身が試算表を読めるようにトレーニングしていきます。
そして「助言」。後継者が自走できるようになってきたら、月次で数字を確認しながら「ここに課題があります」「こういう手を打ちましょう」と提案する役割に移ります。コーチングスキルも活かしながら、経営者としての判断軸を育てる伴走へとシフトしていくのです。
この三段階をその人の習熟度に合わせて柔軟に使い分けることで、後継者が置き去りにならず、確実に「できる・読める・語れる」経営者へと育っていきます。
一年足らずで出た成果
支援開始から約一年が経過したころ、状況は大きく改善していました。
資金繰りの面では、当初懸念されていた資金不足を無事回避することができました。日繰り表が定着し、毎月の資金の流れが見えるようになったことで、先手を打った資金調達が可能になったのです。売掛金の管理体制を整えたことで回収遅れが解消され、在庫の把握精度が上がったことでムダな仕入れも減りました。
業績面では、売上が落ちていた要因を特定することができました。特定の取引先との採算が悪化していたことが数字から見えてきたため、価格交渉と取引条件の見直しを実施。これが業績改善に大きく貢献し、来期は黒字化の見通しが立つところまできました。
後継者本人の変化が大きかったのも事実。「何もわからない」という状態から、試算表を読み、従業員に数字で語りかけ、税理士・銀行との打ち合わせに自分の言葉で臨めるようになっていました。
同じ立場の方へ:まず「現在地」を把握することから
急に経営者になった方に、私が最初にお伝えすることがあります。「最初から全部できなくていい」ということです。
先代が何十年もかけて積み上げてきたものを、就任初日から全部引き継げる人間はいません。大切なのは、現状の数字と向き合い、何が問題なのかを正確に把握することから始めることです。
資金繰りが不安定なのか、売掛金が膨らんでいるのか、在庫が実態と合っていないのか——それぞれに打ち手は異なります。まず「会社の現在地」を見える化することが、すべての出発点になります。
そして、一人で抱え込まないでほしい。家族経営の経営者は特に孤独を感じやすいです。先代への遠慮、従業員への責任、金融機関への不安……それらをすべて一人で背負う必要はありません。
私の事務所では、後継者として事業を引き継がれた方や、経営管理の仕組みづくりに課題を感じている方のご相談をお受けしています。神奈川・東京・広島を中心に、遠方の方にはオンライン対応も行っています。
平岡商店のサービス詳細はこちらをご覧ください。



