(最終回)経理はチームプレイ。未経験者でも出来る自計化で家族経営の守備力を鍛えるコツ「家族経営の経理コーチング(夏休み特集⑫)」
大手企業出身の三代目が直面した“家業の壁”
創業80年を超える食品製造会社は、かつて県内でも有数の規模を誇り、全国にその名を知られていました。祖父の代には斬新な経営手法で成長を遂げましたが、二代目の時代にはバブル期の過剰な投資や社内の管理不足が重なり、経営は次第に傾いていきました。
三代目として事業を継ぐことになったY氏は、大手企業で優秀なキャリアを積んできた方です。しかし、家族経営の現場に入るのは初めての経験で、これまでの論理的なマネジメントが通じず、現場との意思疎通に苦労されていました。改革のアイデアはあっても、打つ手が定まらず、続かず、気がつけば資金不足が目前に迫っていたのです。
「販路拡大」よりも先に見つめるべき課題
最初の相談は「首都圏への販路拡大」でしたが、話を聞くうちに、実は資金繰りが非常に厳しい状況であることが明らかになりました。売上は落ち込み、支払いの目処も立たない状態でした。販路拡大どころではないことを指摘すると、Y氏も「何から手をつければいいか分からない」と本音を漏らされました。
すでに銀行や税理士、支援機関などのサポート体制は整っていましたが、現場の混乱や社員の不安を本当に理解している人は少なく、Y氏自身も経営の経験が浅いため、社内改革に取り組んでもうまくいかず、社員からの信頼も揺らいでいました。
日繰り表で“お金の動き”を見える化
そこで着手したのが、「現場の見える化」です。まずは、毎日の資金の動きを把握するために「日繰り表」を導入しました。これは、今日・明日・来週といった短いスパンで、入ってくるお金と出ていくお金を一覧で確認できる表です。これにより、現金の残高や支払い予定が一目で分かるようになり、資金繰りの不安が少しずつ減っていきました。
数字が整理されることで、経営者自身も冷静に状況を把握できるようになり、社員との会話にも具体性が生まれました。これまで「伝わらない」と感じていたY氏も、現場の声を受け止めながら、自身の考えを言葉にできるようになっていきました。
現場の声を拾い、仕事の流れを整える
次に、会社の中で何が起きているのかを把握するため、社員への聞き取りや現場の視察を行いました。製造、営業、経理など、各部署でどんな仕事が行われているか、どこに無駄があるかを丁寧に洗い出しました。
たとえば、製造部では在庫が過剰に抱えられていたり、営業部では訪問記録が残っていなかったり。経理では売上と支払いのタイミングがずれていて、資金が足りなくなる月があることも判明しました。こうした問題を一つずつ整理し、部署ごとに「やるべきこと」と「やらなくてもいいこと」を明確にしました。会議の進め方も見直し、社員同士が本音で話し合える場をつくりました。
数字と対話が会社をつなぎ直す
こうした取り組みの結果、1年間で約500万円の現金が改善されました。無駄な仕入れを減らし、在庫を適正に管理し、支払いのタイミングを調整することで、会社の体力が少しずつ回復していったのです。
「数字が見えるようになって、社員とも話せるようになりました。会社を立て直すって、経営だけじゃなく、人との関係を整えることなんですね」
再生は、数字だけでなく、対話と信頼の積み重ねによって進んでいきます。地域の小さな会社にとって、見える化は再生の第一歩となるのです。
家業の再建、業務改善にお悩みの方へ
「何から手をつければいいか分からない」「現場と話がかみ合わない」──
そんな悩みを抱えている方は、ぜひ一度ご相談ください。
平岡商店では、現場に寄り添いながら、数字と対話で経営の再生を支援しています。
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