「どんぶり勘定」は経営のセンサーだった 〜現場の感覚と数字が手を組むとき、経営はしなやかになる(家族経営の経理コーチング⑭)
地域金融機関とともに始まった再生の一歩
今回の事例は、生鮮野菜を中心とした食品加工業を営む家族経営の会社です。現経営者が事業を引き継いだあと、思い切った業態転換を図り、新たな市場に挑戦されました。品質の高さが評価され、公的機関への納入実績も増え、広域の販売網も構築されています。
一方で、大手企業との競争が激しくなる中、生産性の向上や経営管理体制の強化が急務となっていました。そこで、地域金融機関と連携した伴走型支援がスタートし、現場の課題に向き合う取り組みが始まりました。
「どこから手をつけるか」が最大の悩み
この会社が抱えていた最大の課題は、「何から手をつければいいか分からない」ということでした。原価管理、労務管理、資金繰り、販売、物流など、改善すべき点は多岐にわたります。しかし、家族経営の現場では、専任の部署や人材が限られており、すべてに同時に取り組むことは現実的ではありません。
現場の社員や管理職の方々は、日々の業務を通じて市場や顧客の変化を肌で感じておられます。だからこそ、「答えは現場にある」と言われるのです。ただし、限られた人手と時間の中で、どこから着手すれば納得のいく成果が出せるのか──その優先順位を見極めることが、支援の出発点となりました。
優先順位を決めるために必要な視点
優先順位をつけるには、二つの視点が必要です。ひとつは「現場の実態に即した判断」です。日々の業務で手一杯な中小企業では、改善のためのプロジェクトを立ち上げるだけでも大きな負担になります。だからこそ、現場が「これならできる」と思える取り組みから始めることが重要です。
もうひとつは「経営者が感じているリスクの特定」です。家族経営では、社長が会社の財務や人事、取引先との関係まで肌感覚で把握していることが多くあります。その感覚を言語化し、現場と共有することで、経営と現場が同じ方向を向いて動き出すことができます。
現場と経営がつながる瞬間
支援では、会社の概要や人員体制、財務状況、販売の流れなどを整理し、現場の動きを把握することから始めました。原価や販売価格、物流の仕組みなどを一つずつ見直し、経営管理に必要な情報を“見える化”していきました。
その結果、季節ごとの資金需要の予測や調達方法、具体的なアクションプランについても、経営者と現場の双方が納得できる形で整理することができました。現場の管理職やキーパーソンが、経営者の考えを理解し、現場の動きを整える役割を担うことで、会社全体が一つの方向に向かって動き始めたのです。
答えは現場にある──その言葉の意味
コーチングを通じて感じたのは、家族経営の現場力のすばらしさです。経営者、ご家族、管理職、社員の皆さんが、苦しい状況の中でも理想を見失わず、改善に向けて真摯に取り組まれている姿に、何度も心を打たれました。
特に印象的だったのは、経営者が自ら作業着を着て、誰もやりたがらない在庫管理に率先して取り組まれていたことです。その姿を社員はしっかり見ており、現場の空気が変わる瞬間を何度も目にしました。経営者が現場で変化に気づくこと──それこそが、会社の再生の最重要要素であり、「答えは現場にある」と言われる理由なのだと実感しています。
「どこから手をつければいいか分からない」と感じている方
課題は分かっているけれど、優先順位がつけられない──そんな悩みを抱えている方は、ぜひ一度ご相談ください。平岡商店では、現場に寄り添いながら、経営者の感覚と現場の実態をつなぐ支援を行っています。
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