介護報酬の分析は重要です!

猪野由紀夫

猪野由紀夫

テーマ:介護

 介護報酬には国保連請求分と利用者負担分があります。国保連からは請求の2カ月後に入金となりますが、返戻などにより減額されることがあります。

利用者分は口座振替のほか現金回収になることもあります。介護会計ではこうした複雑な報酬の管理を、部門ごとに行う必要があります。

<介護報酬の請求・入金の仕訳ポイント>
特殊な介護基準を持つ介護会計で経理を行う場合には、気をつけるべきポイントがいくつかあります。これまでのコラムで繰り返し取り上げている内容もありますが、特に重要なポイントばかりなので、今回はまとめて解説します。

介護事業の会計の複雑な処理のなかでも、とりわけ特殊で、それだけに慎重に対応したいのが介護報酬の分析と入金の仕訳です。

介護報酬はサービスを提供した月から2カ月遅れで入金されます。
ただしこの際に、請求額通りの額が常に入金されるとは限りません。請求に何かしら不備があると「返戻」として請求が差し戻されるので、入金額は請求額より少なくなる可能性があります。

さらに、返戻の分については再び請求を起こす必要があり、実際にサービスを提供した月とその請求分が入金されるまでに、かなりのズレが生じることになります。さらに、請求の内容などに誤りがあった場合には「審査」によって入金が減額されます。

こうした介護会計の特殊性を踏まえて、介護報酬の請求は入金時ではなく、サービスを提供した月に「売上」として計上します。

介護報酬請求の仕訳は下記の通りです(国保連請求部分)。

借方「介護報酬未収金(売掛金)」国保連請求分
/貸方「介護報酬収益(売上)」国保連請求分

借方「介護報酬未収金(売掛金)」利用者請求分 
/貸方「利用者負担金収益(売上)」利用者負担分

2カ月後の入金の際には次のように処理します。こうすることで、いったん計上した返戻分までを含んだ介護報酬収益が減額となり、正確な売上が計上できます。

借方「普通預金等」入金額           /貸方「介護報酬未収金(売掛金)」
借方「介護報酬収益(売上)」返戻金額

仮に入金額だけを単純に計上すると、返戻金額の分が減額されていないので売上が過大計上になってしまいます。また、介護報酬の未収金として返戻金額が残ってしまい、正確な債権管理ができなくなります。

なお、返戻分を再請求する場合には、次の仕訳で再び再請求分を計上します。

「介護報酬未収金(売掛金)」
「介護報酬収益(売上)」

介護報酬を現金で受け取ったら?
介護報酬には利用者への請求分もあります。通常、利用者分については口座振替により回収しますが、何らかの理由で現金による支払いを希望する利用者も少数ながらいます。

こうした利用者から小口の現金収入があった場合、一般的には現金出納帳に入金日、入金額、利用者名を記録し、後日、預金口座に入金します。

しかし、その都度出納帳に記載して管理するのはなかなか大変です。現金を一定期間手元に置いておくことになるので、あまり好ましくないと考える人も多いでしょう。そこで、現金を受け取ったら、できるだけ早く預金口座に入金する方法をおすすめします。その上で通帳の入金額のところに、報酬の内容、利用者の氏名を書き込んでおけば、預金通帳が現金出納帳の代わりになります。

比較的規模の小さな事業者に限定される方法ですが、出納帳のように記載忘れがなく記録がきちんと残るので、税理士や会計事務所も介護報酬の入金を把握できます。

売掛金の区分管理はどうする?
複数の介護事業を行う事業者が、介護会計に則った経理処理を行うためには、上記で解説した介護報酬の仕訳を、介護サービスの部門ごとに行う必要があります。かなり面倒な作業にはなりますが、介護サービスごとに部門を設定して、請求から入金、再請求までの経理処理を部門ごとに行いましょう。

小規模の介護事業のみを営んでいるという事業者の場合は、細かな部門設定は行わなくても経理処理は可能です。ただし、介護報酬未収金(売掛金)については部門を設定して管理することをおすすめします。部門ごとに分けておかないと、後になって介護報酬未収金の残高分析がわからなくなります。また、間違えた会計帳簿を修正するのも手間がかかるからです。

介護報酬未収金については、規模の大小に関わらず、部門設定、部門ごとの処理を行うことが、結局は経理業務の合理化・省力化につながります。

また、介護報酬の請求には国保連に対するものと、利用者に対するものがあります。そのため、勘定科目に補助科目を設けるなどして、国保連請求分と利用者請求分を分けて処理するようにしてください。万一、入力間違いがあった場合なども、科目を分けていない場合よりミスを発見しやすく、修正も楽になります。

一方、自費のデイサービスなどは介護保険のサービスではないので、これも補助科目などを使って、介護保険のサービス分と会計を分けるようにしてください。

これらのほか、障害福祉サービスを行っている場合も、自費の収入と同様に科目を分けるのが本来です。社会福祉法人の科目に準じて会計を行うためには、食事代などについても科目を分ける必要が生じてきます。

もっとも、規模の小さな事業者の経理担当が、多岐にわたる科目に従って、厳密な区分けを行うのは困難です。何よりもかなり面倒な業務になります。

どこまで厳密に区分けを行うのかについては、事業所の規模やサービスの種類・内容、スタッフの状況などを総合的に判断して、介護会計に強い税理士・会計事務所にも相談しながら、事業者ごとに決定すればよいでしょう。

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猪野由紀夫
専門家

猪野由紀夫(税理士)

DCC株式会社

長年の税理士と人事の経験を基に、障害者福祉事業の起業から指定申請、採用教育まで一貫した経営コンサルティングを提供しています。融資や介護ロボットの導入に関する補助金等の申請代行も積極的に行っています。

猪野由紀夫プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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