家族信託に関わる税金と相続対策
家族信託はその内容を信託契約書に文書化し、契約を結びます。信託契約書は公正証書にし、信託財産用の銀行口座を開設するなどの所定の手続きが必要です。また専門家に依頼する場合は、コンサルティング費用などが必要になります。
家族信託手続きに必要な情報
家族信託の内容が決まれば、その内容を信託契約書に文書化し契約を締結します。その手続きにどんな情報が必要かをご説明します。
【家族信託の目的】
なんのために家族信託を行うのかという目的が最も重要な要素といえます。
相続対策の場合なら、判断能力がなくなったときに備えて、信頼できる人に財産の管理・運用を信託するといった内容になります。
【3人の当事者】
財産の所有者を委託者、財産を委託される人を受託者、財産から利益を得る人を受益者と呼びます。家族信託にはこの三者が必ず必要ですが、それぞれが異なる人物でなくても構いません。家族信託の場合、委託者と受益者が同一人物であることが一般的です。
【第二受託者と第二受益者】
一次相続だけでなく、二次相続以降にも財産の承継先を指定できることが遺言書にはない家族信託の特徴です。
孫の代まで財産承継の道筋をつけておきたい場合は、第二受託者と第二受益者にそれを引き継ぐという信託契約を結ぶことになります。
【財産内訳】
家族信託により受託者に管理・運用を任せたい財産の内訳を明らかにします。全財産を信託しなければならないというわけではなく、信託するのは財産の一部でも構いません。「現金1000万円」「空き家になる自宅」といったように信託する財産を明記します。
【信託期間】
信託期間は自由に決めることができますが、家族信託の目的を達成したら信託契約は終了になります。
父親の認知症対策が目的の家族信託の場合、委託者である父親が亡くなれば信託契約は終了します。信託財産は、家族信託契約の終了とともに元の所有者(委託者)の元に戻ります。
家族信託の手続き方法
家族信託の手続きには(1)~(5)のステップがあります。
(1)家族信託の目的と内容を決める
家族全員が納得できるように家族信託の目的と内容を決めます。このプロセスをおろそかにすると、後々トラブルが発生することになります。相続にも関与することなので、家族全員が共通の目的意識を持つことが重要です。
(2)信託契約書を作成する
家族信託の内容を元に信託契約書を作成します。必要な内容が網羅されているだけでなく、その家族信託で実現しようとする目的や受益者の権利内容を、まわりが理解できる内容になっていることが求められます。
(3)信託契約書を公正証書にする
契約書は当事者が記名捺印すれば有効となりますが、公正証書にしておくことをおすすめします。
その理由は「①公証人が確認するので誤字や表記間違いがない」「②公証人が本人の意思確認をするので、後日の紛争になりにくい」「③信託契約書を紛失しても再発行してくれる」。
また信託口口座について後述しますが、金融機関での信託口口座の作成がスムーズになるという利点もあります。
(4)信託財産を受託者に名義変更(信託登記)
法務局で名義変更の登記手続きを行います。委託者から受託者の名義に「登記」することによって受託者に「所有権」が移転したことが第三者にわかるようになります。そして「信託目録」欄には「①委託者」「②受託者」「③受益者」「④信託条項」が記録されます。
(5)金銭を信託するための銀行口座を開設する
受託者は信託された現金と自分の財産を分けて管理する必要があるので、金融機関で「信託口口座」をつくります。
これで手続きは完了です。
家族信託にかかる費用
家族信託の手続きで必要となる経費の一覧です。専門家に依頼するとコンサルティング費用などがかかりますが、自分で手続きをしても必要となる費用もあります。
【1:信託の設計及びコンサルティング報酬】
司法書士や弁護士などの専門家に信託契約の内容を設計してもらう費用。目安は50~100万円程度。
【2:信託契約書の作成、公正証書化のサポート報酬】
信託契約の内容を文書化し、公正証書にするためのサポート費用(上記【1】に含まれている場合もあります)。目安は10~20万円程度。
【3:公正証書化の費用】
信託契約書を、公正人役場で公正証書にしてもらう際に公証人役場に支払う費用。目安として3万円程度から。
【4:司法書士への登記報酬】
信託財産に不動産が含まれていた場合に、不動産の名義変更手続きを司法書士に依頼する費用。目安は10万円程度。
【5:登録免許税】
信託財産に不動産が含まれていた場合に、不動産の名義変更などを法務局に申請する際に必要な費用。金額は、土地が固定資産税評価額に対して0.3%、建物は同じく0.4%。
自分でもできるが専門家への依頼を
契約書の作成は専門家でなくても構いません。誰でも作成しようと思えば、作ることはできます。しかし、信託法や税務を十分理解していない人が作成した契約書には不備がある可能性があります。
例えば父親が80歳、長男が50歳とすると、長男が先に亡くなることは考えにくいかもしれませんが、可能性としてゼロではありません。家族信託の契約書は、そのような未来の状況をふまえて設計する必要があるため、専門知識がない人が本来の目的を達成する信託契約書を作成するにはかなりハードルは高くなります。
家族信託契約書はほかの人の契約書を参考して作成できるようなものではなく、オーダーメイドである必要があります。家族信託が本来の目的を果たすためにも、実務経験の豊富な専門家に依頼されることをおすすめします。