小児の歯列矯正は6歳に始め12歳に終えます
機能的不正咬合(オーバーバイト/オーバージェット)を検討します
機能的不正咬合を治療する意味
矯正治療に限らず、歯科治療を行う際は機能面に対する検討が重要です。歯は見た目だけの存在ではなく、食物を噛んだり、おしゃべりをしたり、スポーツや運動時に力を込めたりするときに機能しています。こういった機能面で問題がある咬合状態を、機能的不正咬合といいます。機能的不正咬合を無視した状態での歯科治療は予後に影響が出てしまいます。仮に、すごく調子の悪い奥歯があったとして、その歯科治療を行う前に機能的不正咬合については十分検討したかどうかの確認が必要です。特に、機能的不正咬合に対する検討を怠ることはむし歯治療後の詰め物や被せものといった修復治療後や欠損に対するブリッジ治療やインプラント治療といった補綴治療後の予後(長持ちする度合)に関係してきます。
オーバーバイト/オーバージェットについて
機能的不正咬合のうち、オーバーバイト/オーバージェットについて取り上げてみたいと思います。オーバーバイト/オーバージェットは、歯のでこぼこや位置の不揃いと違って一目で不正があると気づきにくいという特徴があります。オーバーバイトは前歯の垂直的な位置関係を示します。オーバージェットは前歯の前後的な位置関係を示します。オーバーバイトは前歯が上下的に重なっているとプラスとして、重なっていないときマイナスといいます。オーバージェットは上の前歯が前に出ている状態をプラスとして、その反対をマイナスとしています。
オーバーバイトがプラスの正常値を超えて大きい時を「過蓋咬合(ディープバイト)」、マイナスであれば「開口(オープンバイト)」という名の不正咬合です。オーバージェットがプラスの正常値を超えて大きい時を「前突(出っ歯)」、オーバージェットがマイナスであれば「反対咬合(受け口)」といいます。前突や反対咬合は近年では話題に出てくることも増えたのか不正咬合として認知されてきました。当院ではオーバーバイト/オーバージェットをプラス1~2mmまでを正常値としています。
ここで、注意しなければいけないのはオーバーバイト/オーバージェットはマイナスはもちろん、プラスが大きくてもこれを放置することは大変危険だということです。具体的には、オーバーバイト/オーバージェットの値が正常値を超えているとき、臼歯部が抜歯に至るほどのトラブルを引き起こす可能性が高いです。日常的に暮らす中では、前歯の前後差やかみ合わせの深さは気にしないものです。しかしながら、ひとたび歯科治療が発生すると「なんでいつも奥歯ばかり治療になってしまうのだろう?」と疑問が出てくるはずです。例えば、オーバーバイトがマイナスの状態にあれば、その前歯は咬合や咀嚼、顎の横への運動(食べ物をすりつぶすときの動き)に関与していないためその働きまでも奥歯に任せてしまっている状況です。奥歯に過大な負担がかかっているため、歯科治療のほとんどが奥歯に発生してしまうのです。そのため、オーバーバイトがマイナスの状態、すなわち開口(オープンバイト)だと診断がなされたならば、奥歯のむし歯治療と一緒に開口に対する治療も検討しなければなりません。
まとめ
オーバーバイト/オーバージェットは奥歯を正しく機能させるために大切な役割を果たします。オーバーバイト/オーバージェットを改善しないまま、闇雲に奥歯の治療を続けても上手くいかないことが多いのはそのためです。もちろん、その不正咬合の程度差があるので一概には断じること難しいかもしれません。ただし前歯の不正咬合について無視しても大丈夫なのか、治療対象とすべきかのいずれかを検討することは避けて通れないはずです。例えば、奥歯を抜くことになりそこにインプラント治療をしてもオーバーバイト/オーバージェットの正常値を獲得していない例では行ったインプラント治療が長持ちするかどうか最期まで不安が残ります。なぜ、その歯だけが悪くなってしまったのか?その原因を追求し、じっくりと検討しなければ歯科治療の順序や目標を見誤ってしまいます。その検討項目の1つが機能的不正咬合だと言えるでしょう。