矯正治療は終わったが、もう一度やりなおしてほしい
歯科矯正治療は、近年では装置の進歩と対応症例数の増加によって多くの成人患者さんにとって選択肢のひとつとしてあがるようになっています。利点について、広告や宣伝を繰り返し発信してきたこともその一因でしょう。
本来の歯科矯正治療は、第1に包括的で全顎的な機能面の向上であるべきですが患者さんは歯並びの美しさや見た目の部分に注目して症状を訴えることが多いです。また、一部の患者さんは複雑で長時間にわたる治療や治療費用の増大を避ける傾向にあります。そんな中、妥協的な矯正治療(Limited treatment orthodontics LTO)を歯科医師から提案されることもあります。通常、片顎または両顎の前方6本の前歯のみを対象とした治療計画です。こういった妥協的な矯正治療を部分矯正と呼んだりもします。対象となる歯を少なくすることで、治療期間の短縮と費用の低減が期待できることは大きな魅力です。部分矯正は包括的な矯正治療と比較して咬合に大きな問題が生じえないと判断された場合、適切な治療方法とみなされます。
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部分矯正は患者の希望に応えることを最大の目的としていますが、噛み合わせのすべてを包括的に治療することはしません。噛み合わせに欠陥を残す治療計画が治療の質の低さを意味しませんが、患者さんには以下のような影響・リスクを認識してもらい、同意してもらう必要があります。
部分矯正のリスク
顎関節の不快感がでる場合がある | 歯の摩耗や破損が起こることがある | 歯周病が進行する場合がある |
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むし歯リスクが向上することがある | 後戻り、再矯正治療の可能性がある |
当院における部分矯正が不適切な状態
顎関節の不快感がある | 補綴修復治療を受けられている | 歯に摩耗がみられる |
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歯周病がある | 失活歯がある | 側方歯群に交差咬合がある |
咬合支持域が不足している | 重度の歯列不正・不正咬合がある |
部分矯正治療については、歯科医師間のさまざまな意見が含まれる領域です。各矯正歯科医院ごとに部分矯正の介入基準は異なります。また、部分矯正に関連するリスク、とりわけクラウン、インレーの寿命および追加で発生する可能性のある経済的負担についても明確に取り決めしておくほうがよいでしょう。
部分矯正は治療時間が短く、費用も抑えられますが、長期的な治療結果は包括的かつ全顎的な矯正治療と同じくらい安全であるべきです。患者さんに現実的かつ適切な情報に基づいた期待を抱いてもらい、具体的な治療の目的と目標を患者さん・歯科医師双方で設定することが大切です。部分矯正の介入基準は歯科医師ごとにばらつきが大きいとされています。インフォームド・コンセントを受けるなど部分矯正の限界を複数の歯科医師から提言をうけることがよいでしょう。
(British Orthodontics Society参照)