人的資本経営のポイント
新型コロナウイルスの感染拡大を契機にテレワークが拡大し、社員の働き方も多様化している。ただテレワークは職場で上司と部下が対面でコミュニケーションをとりながら仕事を進める従来の働き方と違い、仕事ぶりが見えにくく、評価がしずらい。
そこで企業は社員に対する新たな物差し(評価制度)として、個々の職務内容を明確にし、責任の大きさと成果で報酬を決める「ジョブ型雇用」に着目した。富士通や日立製作所、資生堂などの大企業を中心に導入が進みつつある。
わが国では、多くの企業でコミュニケーション能力や協調性など個人の属性を重視した新卒一括採用が実施されてきた。職務内容や勤務地を限定せず、ジョブローテーションなどを通じてゼネラリストた多能工を育成する「メンバーシップ型雇用」が主流だった。
しかし、テレワークの拡大など多様な働き方により、社内の公平性を重視した一律的な評価スケールや処遇では社員の納得を得られず、効率的な経営の実現が難しくなっている。ましてや、今後のグローバル競争に必要なデータサイエンスやAI、金融フィンテックなどの高度専門人材を獲得するには、全員一律的なメンバーシップ型雇用は障壁にすらなる。
では流行りつつあるジョブ型雇用は、これらのニーズに応えるができ、万能であるのか。答えは否。ジョブ型雇用の導入・展開には、いくつかの留意点がある。まず1つ目は、ジョブ型雇用の核となる「ジョブディスクリプション」(職務明細書)の作成が難しい点である。あまり細かく分類すると社員の柔軟な働き方を阻害する危険性がある。逆にあまりラフにすると、必要される役割・責任が不明確になり、結果として成果を適正に評価できなくなる。大切なのは、対象とする職務の範囲を明確にするとともに、責任範囲や求められるスキル・能力、さらには給与水準などをベースに職務のグレードづけをすることである。
留意点の2つ目は、新卒採用をジョブ型雇用の対象にするのかどうかである。中途採用に関しては、ジョブ型採用でなんら問題がないが、新卒に関しては大学での専門教育やキャリア教育の実情を見て慎重に判断する必要がある。仮に、ジョブ型採用を新卒に適用した場合、初任給がジョブごとに異なり、同期意識の涵養が難しく、組織としての一体感が失われる危険性があある。新卒にジョブ型採用を適用する場合は、AIエンジニアやデータサイエンティストなどの特定の職種に限定した方がスムーズな運用につながる。
留意点の3つ目は、ジョブ型雇用における給与水準の設定である。職種別横断的な労働市場が形成されていない日本において、市場性を反映した競争力賃金の設定が可能であるのかを十分吟味する必要がある。
留意点の4つ目は、ジョブ型雇用には、仕事や階層によって向き・不向きがあるということである。導入当初は、管理職や中堅社員以上を対象にした限定的なものにした方が運用しやすい。
留意点の最後は、職務が無くなった場合の対応である。解雇が法的に制限された日本では、解雇できるかどうかは疑わしい。労働組合の連合は、解雇が増えかねないとジョブ型雇用には慎重な姿勢を見せている。