不妊治療は産婦人科だけとは限らない|男性不妊「勃起障害(ED)」に対する治療と漢方ケア

笠原友子

笠原友子

テーマ:不妊対策

近年、不妊治療は女性だけではなく男性にも理由があると知られるようになりましたが、不妊治療はまず女性が受けるものと考える人は少なくありません。時間が限られているからこそ、男性も早めに対策を講じることが大切です。
今回は男性不妊の要因の1つである勃起障害(ED)について、原因や対策、漢方ケアをお伝えします。
なお、この方法は、糖尿病患者の勃起障害(ED) にも使えます。

 目次
1.夫婦の5.5組に1組が不妊検査や治療を受けている現実
2.勃起障害(ED)は男性不妊の1つ
 2-1.勃起のメカニズム
  ・陰茎の構造
  ・勃起には動脈が大事
  ・平常時(非勃起時)の状態
  ・性的興奮から勃起すると
  ・陰茎括約筋・坐骨海綿体筋の働きは重要
  ・性的興奮が冷めると勃起は消退
 2-2妊活における勃起障害(ED)は心因性がトップ
 2-3勃起障害(ED)は泌尿器科に相談を
3.勃起障害(ED)の治療法は?
 3-1不妊治療における勃起障害治療薬には保険がつかえます
 3-2インターネットで販売されている勃起治療薬は購入してはいけない
 3-3直接的な治療以外にもできる対策とは
4.漢方からみる勃起障害(ED)
 4-1漢方の考え方
 4-2勃起障害の原因
  4-2-1精力不足
  4-2-2気血の不足
  4-2-3肝の失調
 4-2-4ストレスや生活習慣病による腎気の失調を、陰陽五行で考える
5.勃起障害(ED)につかわれる代表的な漢方薬
  5-1八味地黄丸(はちみじおうがん)
  5-2柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
  5-3補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
  5-4独蔘湯(どくじんとう)・紅蔘(こうじん)
  5-4-1勃起力の改善に
  5-4-2男性の孤立しがちな心を救う
  5-4-3精子数、精子の運動量改善にも
  5-4-4糖尿病の改善に
  5-4-5循環器の改善に
6.今日からできるツボ押しケア
 ・経絡のはたらき
7..症状や体質に応じて適切な対応を


1.夫婦の5.5組に1組が不妊検査や治療を受けている現実

不妊とは「妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないこと」をいいます。公益社団法人日本産科婦人科学会をはじめ、WHO(世界保健機関)など世界的にも一定期間とは「1年」が一般的であるとしています。

2022年現在、日本では夫婦の5.5組に1組が不妊の検査や治療を受けているといわれています。一度は不妊に悩んだことがあるという夫婦は2.9組に1組です。

加齢により妊娠しにくくなることは知られていますが、近年では、不妊症で悩む夫婦の約半数に男性側にも理由があるとして考えられています。しかし、現状は女性側の問題として考えている人が少なくありません。不妊治療専門クリニックに「ウィメンズクリニック」や「レディースクリニック」という名称が多いのも一因でしょう。

また、男性側に理由があったとしても婦人科を受診するには抵抗がある人は多いです。これでは不妊治療がなかなか前に進みません。さらに、治療が進まないことで女性側も不満がつのります。排卵予定日にタイミングだけを図ってもうまくいかない…そんな悪循環におちいる夫婦も出てきます。

2.勃起障害(ED)は男性不妊の1つ


勃起障害(ED:Erectile Dysfunction)とは「満足な性行為を行なうのに十分な勃起が得られないか、または維持できない状態が持続または再発すること」です。勃起が起こらないだけでなく、硬さが不十分あるいは勃起状態を維持できないケースも勃起障害(ED)に該当します。

2-1勃起のメカニズム

勃起は性的興奮をしたときに起こります。性的な興奮をすることで脳から陰茎海綿体に信号を送ります。これにより陰茎海綿体に血液が流入し勃起するのです。性的興奮をしやすくするのが男性ホルモンの働きです。逆に、陰茎にたまった血液を通常状態に戻す働きをする酵素があります。この酵素を減らすことで、勃起しやすい状況を作り上げるのが勃起障害治療薬の役割です。

陰茎の構造


これを模式断面図にすると下の図のようになります。


勃起には動脈が大事

陰茎海綿体に血液が流入し勃起しますが、この際に血液が流入するのは、図中の陰茎深動脈と陰茎背動脈の2種類の動脈からです。
陰茎深動脈は、陰茎海綿体の中心部を螺行(ラセン)動脈を出しながら陰茎の先端に向けて伸びています。また陰茎背動脈は、白膜を貫き陰茎深動脈とつながり、もう一方は亀頭海綿体まで伸びています。
この2種の動脈が動脈硬化を起こすと、血流阻害が起きて勃起しにくくなります。

平常時(非勃起時)の状態

ふだんの状態です。

①陰茎深動脈から伸びた螺行(ラセン)動脈平滑筋は緊張して、動脈血の海綿体への血液流入しにくい状態。
②陰茎背動脈の血液は、ほとんど亀頭に流入し、陰茎深動脈にはあまり血液を供給しない。
③陰茎深動脈の血液も、尿道海綿体の動脈に流出し、陰茎海綿体内の血液量は多くない。
④血液は陰茎海綿体のなかの微小循環を通って、静脈系に流出する。

性的興奮から勃起すると


①性的興奮から勃起すると、骨盤神経が刺激されます。
②副交感神経の働きにより、螺行(ラセン)動脈平滑筋が弛緩し、陰茎深動脈と陰茎背動脈から陰茎海綿体や尿道海綿体に血液が流入します。
③薄膜の圧による緊張と海綿体内部の圧上昇によって、白膜を通過する静脈が圧迫され、海綿体内部からの血液の流出を妨害します。
※完全に静脈血の流出が遮断されるわけではありません。
④すると、海綿体洞内に血液が溜まり、白膜は緊張して硬くなり勃起が成立します。
⑤射精は、交感神経を介して行われます。
自律神経の働きが失調していると、一連の流れがスムースではありません。

陰茎括約筋・坐骨海綿体筋の働きは重要

陰茎硬直期には、陰茎括約筋や坐骨海綿体筋が収縮し、陰茎根部が締め付けられると海綿体内圧がさらに上昇し、硬さの増加につながります。
ここで、貧血やたんぱく摂取不足で筋に必要な栄養が不足していたり、高血糖が続いて筋の糖化が進んでいると、勃起状態の持続や硬化不足につながることが考えられます。

性的興奮が冷めると勃起は消退

①性的興奮が冷めると、海綿体内にアドレナリンやNPYが放出されます。
②螺行(ラセン)動脈平滑筋が収縮し、陰茎海綿体や尿道海綿体に流れ込んでいた血液量が減少
③海綿体内圧が低下すると共に、白膜の緊張は弱まり、流出する静脈血が増加します。
④海綿体は、勃起状態が維持できなくなって、勃起は消退します。
⑤同時に、陰茎括約筋や坐骨海綿体筋も弛緩します。
※稀に、勃起状態が過継続して困る方があります。精神的な緊張が解けずON/OFFがうまく行っていないパターンです。
 漢方の得意分野です。

2-2妊活における勃起障害(ED)は心因性がトップ

勃起障害(ED)には加齢や生活習慣病などからくるものもありますが、妊活や不妊治療における勃起障害(ED)で最も多いのは心理的な要因(心因性)といわれています。

20代や30代で特に病気がないにも関わらず、妻との性行為にのみ勃起しなくなる場合は心因性勃起障害の可能性が高いでしょう。いざというときのプレッシャーや失敗してしまったときの記憶を思い出してしまうことで、いわゆる「妻だけED」「子作りED」と呼ばれる状態になります。

そうなってしまうと、ますますプレッシャーになりその気にならず…を繰り返す可能性があります。さらに、夫婦でケンカしたり殺伐とした雰囲気になったりと、不妊治療どころではなくなってしまう可能性もあるでしょう。

そうならないためにも、早めの受診をおすすめしますが、男性が婦人科を受診するというのは思いのほか難しいものです。しかし勃起障害(ED)が原因の場合、婦人科以外にも泌尿器科を受診するという選択肢があるため、男性でも受診に対するハードルが下がります。

2-3勃起障害(ED)は泌尿器科に相談を

不妊治療では最初に婦人科を受診することが多いですが、男性不妊の場合、とくに勃起障害(ED)が関わってくると泌尿器科で対応します。問題点としては、泌尿器科専門医であり生殖医療専門医でもある医師が非常に少ないことです。

下の表は、現在の特定不妊治療費助成の制度改正、あるいは不妊治療の保険償還に係る検討材料とすることを目的として、全国の体外受精等を実施する医療機関の産科婦人科および泌尿器科を対象として実施された調査結果です。
男性不妊治療実施医療機関における、泌尿器科専門医かつ生殖医療専門医の平均数は0.8人、生殖補助医療胚培養士の平均数は3.1人、臨床心理士の平均数は0.3人であったと言います。

男性不妊も増えている中、不妊治療専門の泌尿器科医がほとんどいない状況です。ホルモンや精液の検査は婦人科でも可能ですが、原因や治療法によっては泌尿器科で治療したり、並行して受診したりすることになるでしょう。

3.勃起障害(ED)の治療法は?

勃起は性的興奮をしたときに起こります。性的な興奮をすることで脳から陰茎海綿体に信号を送ります。性的な興奮を刺激するのが男性ホルモン剤や催淫薬と呼ばれるものです。これにより陰茎海綿体に血液が流入し勃起します。血液が流入するのは動脈からですから、糖尿病や加齢などで動脈硬化があると、流入が悪くなります。逆に、陰茎にたまった血液を通常状態に戻す働きをする酵素があります。この酵素を減らすことで、勃起しやすい状況を作り上げるのが勃起障害治療薬の役割です。

勃起障害(ED)の原因や担当する医師によって選択される治療法はさまざまですが、下記のような治療が行われています。
•勃起障害治療薬
•カウンセリング
•陰圧式勃起補助具
•男性ホルモン補充療法
•陰茎湾曲形成術
•血行再建術
•陰茎プロステーシス手術
•PGE1陰茎海綿体自己注射(日本では治療法としては認められていません)

一般的に行われているのは勃起障害治療薬とカウンセリングです。とくに心因性勃起障害や女性側の心理面のフォローも兼ねて、カウンセリングを受けることもおすすめします。最近はオンラインでのカウンセリングもありますので、よりサポートを受けやすくなりました。

3-1不妊治療における勃起障害治療薬には保険がつかえます

現在、日本の勃起障害治療薬としては「シルデナフィル(商品名:バイアグラ)」「バルデナフィル(商品名:レビトラ)」「タダラフィル(商品名:シアリス)」が承認されています。

ただし、本来の勃起障害治療薬は自費扱いです。令和4年4月より不妊治療の一部が保険適用となりましたが、勃起障害(ED)による男性不妊の保険適用の対象となったのは、バイアグラ錠とバイアグラODフィルム、シアリス錠のみとなっています。その上、下記の細かい条件がありますので、治療を希望される方は主治医に相談しましょう。

●処方を行う医師は、泌尿器科で5年以上の経験。特段の理由がある場合には、一般不妊治療管理料に係る施設の届出を行っている保険医療機関に限り、処方可。
●他の医療機関において不妊症診療が行われている患者に対し、当該保険医療機関から紹介を受けて処方する場合は、紹介元の施設と連携し、必要な情報を共有すること。
●処方できる患者は、EDガイドラインに従い、勃起不全と診断された者。
●処方される患者又はそのパートナーのいずれかが、投与日から遡って6か月以内に、一般不妊治療管理料又は生殖補助医療管理料に係る保険診療を受診していること。
●1回の診療で処方できる数はタイミング法における1周期分に限り、かつ、4錠以下。
●繰り返し処方する場合は、処方の継続期間は6か月間を目安とすること。6か月を超えて投与を継続する場合は、継続の必要性を改めて検討し、原則として初回投与から1年以内。
●保険診療において処方する場合、処方箋の備考欄に、保険診療である旨を記載。

前述の不妊治療専門の泌尿器科医が少ないことから、保険診療で勃起障害治療薬を処方してもらうにはまだまだハードルが高いことがわかります。病院で気軽に処方してもらえるわけではないので、ご注意ください。

3-2インターネットで販売されている勃起治療薬は購入してはいけない

インターネットで勃起治療薬の広告を見かけます。誰にも知られずこっそり購入できるので、利用を考える人もいるでしょう。しかし、インターネットで販売されている勃起治療薬は偽物も多く、有害な物質が含まれている可能性もあるので利用することはやめましょう。
また、媚薬として販売されているものの多くは、男性ホルモン剤を中心としたものですが、【勃起のメカニズム】をご覧いただいても分かる通り、刺激だけを行っても意味がないことがお分かりいただけると思います。

3-3直接的な治療以外にもできる対策とは

生活習慣病も勃起障害(ED)の要因であることから、生活習慣の見直しも並行して行いましょう。20代30代であれば、あまり生活習慣病を意識する機会はないかもしれません。しかし、食生活を含む生活習慣の改善は、将来的な病気の予防にもつながりますし、子育てをするにも健康な体づくりが大切です。

その他にも、間接的な対策として漢方薬という選択肢もあります。

4.漢方からみる勃起障害(ED)


精力剤としてはマムシやスッポン、高麗人参が有名ですが、漢方薬にはどのようなものがあるのでしょうか。

漢方のアプローチは、いわゆる西洋医学のような直接的なアプローチとは少し異なります。その瞬間をサポートするというよりは体の土台を整えるイメージです。そのため、人によっては長期間服用することを勧めることもあります。

4-1漢方の考え方

漢方では、生殖系は腎に属するとされ、腎気(腎のエネルギーのようなもの)が衰えた腎虚の状態が勃起障害(ED)をもたらすと考えられています。

西洋医学では腎の主な働きは尿を作ることですが、漢方では水分代謝全体をコントロールし、体温や気力を作り出すとされています。老化やストレスにより腎の気が足りなくなることで、これらのコントロールがうまくいかなくなった結果、性機能の低下につながり勃起障害(ED)となります。

4-2勃起障害の原因

4-2-1精力不足

精力は腎に蓄えられており、腎精とよばれています。腎精が充実すると体は成長し、腎精が衰えると老化が始まります。以前、CMで「女性は7の倍数、男性は8の倍数」といったフレーズがありましたが、これは腎精のレベルのことを指していました。この数字の年齢のときに節目をむかえ、体に変化が訪れるという考えです。

男性は32歳をピークとし、徐々に衰えはじめます。しかし、生活習慣やストレスなどから気が足りなくなることで腎精も減少した状態が勃起障害(ED)を引き起こします。

4-2-2気血の不足

漢方の世界では脾(消化器系)は重要な臓器として考えられています。脾は食べ物から気血(エネルギーや血液など)を作り出し、全身に分配する働きがあります。この脾の働きが弱ると気血が不足し、全身に栄養もわたらなくなります。エネルギーや栄養が行きわたらなくなった結果、勃起障害(ED)が起こります。
ストレスで消耗していたり、目の下がぴくぴくけいれんしたり、寝ていて夢を見るようなら要注意。

4-2-3肝の失調

漢方の世界における肝の働きは、全身の気のめぐりを管理したり、精神安定、血液の貯蔵などを行なったりします。肝はストレスに弱いと考えられており、このストレス社会下では肝の働きが低下しやすくなりました。肝が失調すると、イライラ怒りっぽい、憂うつ感、ため息が多くなるなど不安定になりやすくなります。

あとにも出てきますが、肝の経絡(体の中のエネルギーの流れ)は男性生殖器を通っており、肝の失調により血液が消耗されると、男性生殖器まで血液をめぐらせることができず勃起障害(ED)が起こります。

4-2-4腎気の失調を、陰陽五行で考える

陰陽五行と言うのは漢方の基本的な考え方で、身体そのものは「気血水」の三要素で構成されていると考えますが、これらを身体の機能に応用したものが「五臓」であり、「五臓」は私たちの身体を五つの「機能系」に分け、一つのつながりとしてみていく考え方です。

木火土金水の5行に対して、それぞれ肝心脾肺腎の五臓があてがわれており、各々木は母となり心を子としてを養い、同様に心は母となり脾を子として養い、脾は母となり肺を子として養い、肺は母となり腎を子として養い、腎は母となり肝を子として養って、ぐるりと一巡します。

ストレスで肝の働きが亢進していると、子が暴れると母が弱ることから腎の働きは弱ってしまいますし、糖尿病など生活習慣病で、脾(胃)を酷使すると、こちらもまた対角線にある腎の働きを弱めます。
そこで、ストレスからくる肝の亢進を治め、腎の母である肺の漢方生薬で補っていく考え方です。


ほかにもさまざまな見方ができるため、まずは自分がどの状態なのかを知ることが大切です。自分を客観的にみることは難しいので、ぜひ一度ご相談ください。

5.勃起障害(ED)につかわれる代表的な漢方薬

漢方薬としては補腎剤と称される腎や肺にはたらく処方が主につかわれます。その他に、心因性であれば肝や心にはたらく処方も選択肢にあげられるでしょう。

5-1八味地黄丸(はちみじおうがん)

代表的な補腎剤です。
効能は、
・腰痛、腰のしびれ
・排尿困難
・疲労倦怠感のある冷え、勃起障害(ED)
・糖尿病、高血圧

食欲不振や下痢がみられるときには適しないこともあります。たいてい服用は長期にわたりますが、注意すべき甘草は含まれていません。

5-2柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

心因性の場合に処方されることがあります。
効能は、
・ストレスによる精神症状(不安、不眠、動悸、多汗症、興奮など)
・高血圧、動脈硬化
・腎疾患、勃起障害(ED)

虚弱体質ではなく、がっちりとしたタイプの方につかわれます。甘草を含まないので、腎が弱い方にも利用されます。ただし大黄が含まれるため、下痢しがちな方には向いていません。

5-3補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

ストレスから疲労してしまった方に処方されることがあります。
効能は、
・疲れやすい、食欲不振
・体力がない人の寝汗や不眠
・慢性化した下痢、胃下垂
・めまい、立ちくらみや頭痛
・排尿困難、勃起障害(ED)、男性不妊

気力回復の観点から補助する目的でつかわれます。食欲がない場合「食べたくない」というより「食事がおいしくない」という訴えが強いです。長期服用になることがある一方、食欲不振などは2,3日で効果が出ることもあります。

長期服用の場合は甘草の副作用への注意が必要です。

5-4独蔘湯(どくじんとう)・紅蔘(こうじん)

高麗人参は、加工法の違いにより白蔘と紅蔘に分けられますが、紅蔘の方です。
紅蔘単味の煎じを独蔘湯と呼びます。総合力から、一番のおすすめです。

5-4-1勃起力の改善に

【勃起のメカニズム】をご覧いただいて分かるように、勃起には交感神経と副交感神経のブレーキとアクセルのような絶妙なバランスとタイミングで成り立っています。
紅参は、この自律神経の働きを整えるのを得意としています。

5-4-2男性の孤立しがちな心を救う

紅参は世界最高の補気薬と言われています。
動物は孤立すると、無目的で強迫的な攻撃性を持つことで知られています。コロナ禍でのSNSでのバッシングを見ても分かる通りです。また、男性は意外と孤独とストレスに弱いことも知られています。攻撃性を持ったままでは、副交感神経の働きは落ちてしまいますから勃起力にも問題が生じます。心を鎮め、やすらぎを与える漢方です。
【男性不妊症】孤独なオス「性」を救う漢方

5-4-3精子数、精子の運動量改善にも

紅参は、間接的に補腎にはたらき、それは精子数や運動量の改善ばかりか、治療のための冷凍貯蔵精子の保存や、がん治療後の男性不妊の改善にも役立っています。
【男性不妊症】男性力改善で不妊に効く漢方

5-4-4糖尿病の改善に

糖尿病は動脈硬化の病気と言われます。【勃起のメカニズム】にもお示しした通り、動脈硬化があるとスムースな勃起にはつながりませんが、紅参は無理のない血糖降下作用で動脈硬化の改善に導くことが知られています。

5-4-5循環器の改善に

かつて、紅蔘の研究会「日本薬用人参研究会」の牽引者の一人が、元国立循環器病センター尾前照雄先生であったように、紅参は循環器の改善に効果的です。
高い血圧は下げ、低い血圧は上げるバランスを取る作用を持つので、ED治療剤にあるような併用禁忌薬がありません。

症状や体質には個人差があります。これらの漢方薬は一例であり、今の状態に合う漢方薬を選ぶことが大切です。

6.今日からできるツボ押しケア


薬や生活習慣改善だけでなく、自分で何か試してみたい、そんな方におすすめなのがツボ押しです。手や足裏などの対応する部分を押すことで、いつでも手軽にセルフケアができます。

経絡のはたらき

経絡(けいらく)は気や血の通り道と考えられており、鍼灸(しんきゅう)や指圧で出てきます。わたしたちの体には重要な経絡が12本とそれ以外にいくつかの経絡が走っています。皮膚に鍼(はり)を刺したのに内側のケアができるのは、この経絡が体内とつながっているからです。

勃起障害(ED)に関係する経絡は厥陰肝経(けっちんかんけい)です。この経絡は肝と生殖器をめぐっています。ここに邪気が侵入して気血の流れが悪くなると肝の働きが悪くなるとともに、勃起障害(ED)などの生殖器のトラブルが起こると考えられています。

7.症状や体質に応じて適切な対応を

勃起障害(ED)の原因や合う対策はさまざまです。今のご自身に合う方法を見つけるには、客観的な視点が必要となります。妊活にかけられる時間には限りがあります。当店ではオンライン相談も承っておりますので、自己流で遠回りする前に、まずはお気軽にご相談ください。

【参考文献】
・令和3年度 不妊治療を受けやすい休暇制度等環境整備事業(厚労省パンフレット)
・標準生理学 第9版
・図解 漢方処方のトリセツ
・The GINSENG REVIEW各巻
・薬用人参‘81~’2000
・Fazio, L., & Brock, G. (2004). Erectile dysfunction: management update. CMAJ : Canadian Medical Association Journal, 170(9), 1429. https://doi.org/10.1503/CMAJ.1020049

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

笠原友子
専門家

笠原友子(薬剤師)

笠原健招堂薬局(有限会社笠原)

漢方の選薬用質問と血液検査結果から微量栄養素の不足や日常の生活習慣をチェックし、微量栄養素補給と漢方薬の選薬だけでなく生活指導で糖尿病をはじめとする生活習慣病に対応し、特定保健指導までできるのが強み。

笠原友子プロは北陸放送が厳正なる審査をした登録専門家です

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

栄養と漢方で糖尿病を健康に導くプロ

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ石川
  3. 石川の医療・病院
  4. 石川の漢方・薬膳
  5. 笠原友子
  6. コラム一覧
  7. 不妊治療は産婦人科だけとは限らない|男性不妊「勃起障害(ED)」に対する治療と漢方ケア

笠原友子プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼