使い過ぎ症候群で膝が痛い!~疲労から起こる痛みを効果的に取る方法~

中田和宏

中田和宏

テーマ:健康とはり


◆はじめに


「運動不足にならないように」と頑張って体を動かしている方の中には、気づかないうちに“使い過ぎ”で痛みを起こしてしまうケースがあります。
今回は、長年テニスを続けてきた70代男性のひざ痛の症例を通して、「使い過ぎ症候群(オーバーユース症候群)」と、鍼灸でできる疲労回復のサポートについてお話しします。

◆症例紹介


患者:76歳・男性(無職)
主訴:両ひざの痛み(特に内側)

約10年前から、テニスのあとにひざの痛みを感じるようになったとのことでした。
テニス歴は20年以上。現在も週1回ほどのペースで続けておられますが、今年の夏は暑さのために2~3か月間休んでいたそうです。
再び運動を再開したところ、歩行時や運動後に痛みが出るようになり、紹介で当院を受診されました。

◆これまでの経過


整形外科では「変形性膝関節症(グレード4)」と診断され、月1回のヒアルロン酸注射を受けていたそうです。
また、ひざ関節クリニックで「自家血液培養注射」(自己血清を関節に注入する再生医療)も2月に受けましたが、大きな変化は感じられなかったとのことです。
安静時の痛みはほとんどなく、夜間に少し痛む程度。
歩行や運動のあとに痛みが出ることが多いという点が特徴でした。
また、両下肢の軽いしびれ感や「血管年齢84歳」と言われたこともあり、「血流が悪いのではないか」という不安をお持ちでした。

◆初診時の状態


ひざの見た目には軽度の屈曲変形(O脚)と、伸展制限があり伸ばし切るときに少し制限が見られました。
動作痛は軽度ですが、ひざ内側の関節部と鵞足部に圧痛がありました。
また、腹部全体に緊張があり、自律神経の高ぶりや血行不良の傾向が見られました。
これは、痛みの慢性化によく見られる体の反応です。

◆東洋医学的な見立て


東洋医学では、長年の疲労や加齢により「腎(じん)」の力が弱くなると、骨や関節がもろくなりやすく、回復力も落ちると考えます。
また、筋肉のこわばりや血流の滞り(瘀血=おけつ)も、痛みを長引かせる原因です。
この方の場合、「長年のスポーツによる筋肉の使い過ぎ」、「年齢的な血流の低下」、「交感神経の緊張(リラックスできない状態)」が重なり、ひざ関節に炎症が起こりやすくなっていると考えられました。

◆初回の鍼灸治療


初回は、ひざの内側(鵞足部)周囲の筋肉 ― 大腿四頭筋、縫工筋、半腱様筋 ― の緊張をやわらげるために置鍼を行いました。
さらに、腹部(中脘・天枢・大巨)と背中のツボ(肺兪・膈兪・肝兪・脾兪・腎兪)に鍼をして、自律神経のバランスと血流の改善を図りました。
治療後は「正座がしやすくなった」「曲げたときの痛みが軽くなった」との変化がありました。

◆その後の経過


施術を続ける中で、テニスやマシントレーニングの後に再び痛みが出ることがありました。
患者さんご自身は「筋トレを強めにすれば、筋肉がついて早く良くなるのでは」と考えておられたのですが、ひざ内側関節部に軽度の腫れと熱感が見られたため、炎症が残っている段階ではトレーニングを控えるよう指導しました。
現在は「スポーツ中は痛みがないが、帰宅後から痛み出す」という状態を繰り返しており、オーバーユースによる炎症反応が疑われています。

◆考察①:オーバーユース症候群とは?



オーバーユース症候群(使い過ぎ症候群)とは、同じ動作を繰り返し行うことで、筋肉や腱、関節などに小さな損傷や炎症が生じ、痛みを引き起こす状態をいいます。

代表的なものに、
テニス肘
ランナー膝(腸脛靭帯炎)
アキレス腱炎
鵞足炎(膝の内側の炎症)
などがあります。

特に高齢者では、筋肉や腱の柔軟性が低下し、回復も遅いため、「頑張りすぎ」がかえって治りを遅くすることがあります。

◆考察②:「筋トレすれば治る」と思い込みすぎないために



「筋肉を鍛えれば痛みは取れる」というのは半分正解で、半分は間違いです。
確かに、適度な筋トレは関節の負担を軽減しますが、炎症が残っている時期に無理に負荷をかけると、かえって悪化することがあります。

ひざの痛みを改善するためには、

まず炎症を鎮め、筋肉の緊張を取る

そのあとで、軽い筋トレやストレッチで支える力をつける
という“順番”がとても大切です。

焦らずに「治すための休息」もトレーニングの一部だと考えるようにしましょう。

鍼灸治療では、血流を良くして筋肉の回復を早めることができるため、トレーニングと休養のバランスを整えるサポートになります。

ひざ関節内部は病院の治療でよくなっているはずですが、関節の外側に炎症があって運動することで炎症がひかない、ひどくなるを繰り返していると考えられます。

◆考察③:変形性膝関節症とは?



この方が整形外科で診断された「変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)」は、ひざ関節の軟骨がすり減って変形し、痛みや腫れを引き起こす病気です。

初期は立ち上がりや歩き始めの痛み、中期以降は階段や長時間歩行での痛みが増え、進行すると正座やしゃがみ込みが難しくなります。

医学的な背景

50歳以降の女性に多いが、男性にも見られる

肥満や加齢、筋力低下、長年のスポーツ歴が関係

関節内では「炎症性サイトカイン」という物質が増え、痛みや腫れを起こす

一般的な治療

消炎鎮痛薬や湿布

ヒアルロン酸注射

筋トレ・リハビリ

重度の場合は手術(人工関節置換術)

しかし、薬や注射では筋肉や血流の状態までは改善しにくいため、慢性的な痛みが残るケースもあります。

◆考察④:鍼灸治療の有用性



鍼灸治療は、痛みのある関節そのものだけでなく、まわりの筋肉や血流、自律神経の働きにアプローチできるのが特徴です。
とくに変形性膝関節症のように「痛み+筋肉のこわばり+血流の悪化」が重なっている状態では、

筋肉の緊張をやわらげる
血行を促進し、関節液の循環を整える
痛みを伝える神経の興奮を鎮める

ことで、炎症の悪循環を断ち切ることができます。
また、高齢の方でも体に負担をかけずに行える治療法であり、「薬や注射に頼りすぎたくない」という方にも安心して受けていただけるのが魅力です。

当院を受診する多くの方は、病院やいろんな施術所に行ったがよくならないといいます。悪くはなっていないので一定の効果があったと考えられますが、満足していない。そういったあせりが痛みの感受性を強くしていて改善を妨げています。

◆まとめ:疲労をためない“やさしい体の使い方”を


今回の患者さんは、テニスを長年続けてこられた「スポーツ愛好家」でもあります。
そのような方ほど、「動かさないと筋肉が落ちる」と焦ってトレーニングを頑張りすぎてしまう傾向があります。
しかし、体は“使えば使うほど強くなる”わけではなく、回復の時間を与えることで強くなるものです。
鍼灸治療は、筋肉や関節の疲労回復を助ける「メンテナンス」の役割を担います。
高齢者でも、無理なく体を整えながら、趣味のスポーツや日常生活を楽しむことは十分可能です。
痛みを我慢せず、早めのケアで「動ける体」を守りましょう。
鍼灸で“治す”だけでなく、“疲れを取る”という選択を。
それが、長く健康にスポーツを楽しむための第一歩です。

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中田和宏
専門家

中田和宏(鍼灸師)

トキの森鍼灸院

初診時のカウンセリングでどんな状態か明確にし、できることを説明します。施術計画を立てて最適な施術を提供します鍼灸治療にたずさわって約40年のベテラン鍼灸師が優しく対応しますお困りならまずご相談を!

中田和宏プロは北陸放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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