ぎっくり腰の原因は冷え⁈-原因と対策-
目次
はじめに
コロナ以降、帯状疱疹が増加しているように感じています。痛みを訴えて当院に受診される方の中に帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛がよく見受けられます。
また、テレビで帯状疱疹のワクチン接種を知らせるCMが流れています。コロナ前はそんなCMなかったように感じています。
帯状疱疹の疑いがあれば皮膚科や内科に紹介しています。そちらでの治療が終わってもなお痛みが残る場合に鍼灸治療をお勧めしています。
30年前は帯状疱疹が出てているときに鍼灸治療をしていました。その方が帯状疱疹後神経痛に移行する確率が低いとされていました(真偽のほどは確かではありません)。しかし抗ウイルス剤の進歩や社会通念上、疱疹の治療は病院に任せた方がよいと考え、神経痛の治療に特化することにしました。
ヘルペス(帯状疱疹)について
ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス(HSV)や水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)によって引き起こされる感染症です。水痘は子供のころにかかったか予防接種を受けているはずです。帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルスが原因で、初感染後、ウイルスは神経節に潜伏し、免疫力の低下などをきっかけに再活性化して発症します。
神経節は脊髄から出た神経がつくる神経のこぶです。顔の場合は脳から出た神経の中継点のこぶが神経節です。
からだに帯状疱疹が出ると肋間神経に、足に出ると坐骨神経にという具合に神経を伝ってウイルスが水ぶくれや赤い発疹を作ります。
帯状疱疹は通常、体の片側に痛みを伴う発疹が現れるのが特徴です(以降、水痘帯状疱疹をヘルペスと称します)。
ヘルペスは50歳以上の高齢者や免疫力が低下している方に多く見られます。日本では年間に約50万人が発症するとされています。特に高齢者では、加齢に伴う免疫力の低下がリスク要因となります。また、ストレスや過労、慢性疾患のある方も発症リスクが高いとされています。
治療には抗ウイルス薬が中心で、早期に治療を開始することで症状の軽減や合併症の予防が期待されます。通常は、発症から72時間以内に抗ウイルス薬を服用することで、ウイルスの増殖を抑え、痛みや発疹の持続期間を短縮することができます。また、鎮痛薬を併用して症状を緩和することもあります。
それでもなお痛みが続く場合があります。
ヘルペス後神経痛について
ヘルペス後神経痛(PHN)は、帯状疱疹が治癒した後も神経の損傷が残り、痛みが持続する状態です。この痛みは数カ月から数年にわたり続くことがあり、生活の質を大きく損ないます。痛みの性質は、焼けるような痛み、刺すような痛み、または鈍痛として感じられることが多いです。ビリビリ、チクチク、ヒリヒリなどと患者さんは訴えます。日常生活では衣服が皮膚に触れるだけで強い痛みを感じることもあり、非常に辛い症状です。
高齢者ほどPHNのリスクが高く、帯状疱疹患者の約10–30%が発症するとされています。また、発症部位が顔面や上半身の場合、下肢に比べてPHNのリスクが高いとされています。特に免疫力が低下している場合や、帯状疱疹の発症時に痛みが強い場合には、神経損傷が残りやすいとされています。
治療法としては、鎮痛薬や神経調整薬、局所麻酔薬などの薬物療法が一般的です。しかし、効果が限定的な場合もあり、他の補完療法を併用することが推奨されています。また、神経ブロック注射やリハビリテーションも行われることがありますが、完全な治癒には時間がかかることが多いです。
鍼灸治療とヘルペス後神経痛、日常生活に復帰できるまで
鍼灸治療は、ヘルペス後神経痛の痛みを和らげ、神経の回復を促進する効果が期待できます。鍼灸による鎮痛作用は、神経の炎症を抑え、エンドルフィンなどの内因性鎮痛物質の分泌を促進することで実現します。また、血流を改善することで神経の修復を助け、痛みの慢性化を防ぎます。
さらに、鍼灸は副交感神経を刺激し、自律神経のバランスを整えることで、免疫力を向上させる働きもあります。このため、痛みの緩和だけでなく、全身の健康状態を改善し、体力を回復させる効果も期待できます。
個人差はありますが、鍼灸治療を受けることで症状が緩和され、日常生活に復帰できるまでの期間は3カ月から6カ月程度が一般的です。早期に鍼灸治療を開始することで、痛みの慢性化を予防し、より短期間での回復が期待できます。また、定期的な治療を受けることで、再発のリスクを軽減することも可能です。
ヘルペス後神経痛のツボ(経穴)
からだに出た場合と足に出た場合によく使われるツボを紹介します。
体幹部の有効なツボ
1. 中脘(ちゅうかん)—胃腸の働きを整え、免疫力を高めます。胸や背中の痛みに効果的です。
2. 膈兪(かくゆ)—血流を促進し、神経痛を緩和します。背中の緊張をほぐす効果もあります。
3. 大椎(だいつい)—全身の気血を巡らせ、痛みを和らげます。肩こりや頭痛にも有効です。
4. 章門(しょうもん)—脇腹や腰周りの痛みに効果的です。肝機能をサポートする効果もあります。
5. 腎兪(じんゆ)—腎のエネルギーを高め、神経の再生を促します。腰痛にも有効です。
下肢の有効なツボ
1. 足三里(あしさんり)—免疫力を向上させ、全身の調子を整えます。膝やふくらはぎの痛みにも有効です。
2. 陽陵泉(ようりょうせん)—筋肉や神経の緊張をほぐします。下肢の痛みに特に効果的です。
3. 陰陵泉(いんりょうせん)—炎症を抑え、痛みを軽減します。冷え性の改善にも役立ちます。
4. 承山(しょうざん)—下肢の血流を改善し、痛みを和らげます。特にふくらはぎの痛みに有効です。
5. 太渓(たいけい)—腎の機能を高め、神経の修復をサポートします。足首の痛みにも効果があります。
自宅でできる痛みを緩和するツボとその方法
1. 合谷(ごうこく)—手の親指と人差し指の間にあるツボです。ここを3–5分程度、優しく押すことで全身の痛みを和らげます。
2. 足三里(あしさんり)—膝のお皿の下、外側にあるツボです。指で軽く揉むように刺激しましょう。胃腸の調子を整える効果もあります。
3. 内関(ないかん)—手首の内側、2本の腱の間にあるツボです。痛みやストレスを軽減します。乗り物酔いにも効果的です。
4. 神門(しんもん)—手首の小指側にあるツボで、不安感や痛みを和らげます。夜間の痛みで眠れないときに役立ちます。
5. 湧泉(ゆうせん)—足裏の中央にあるツボです。全身の疲労回復や痛みの緩和に効果があります。
これらのツボを毎日5分ずつマッサージすると、痛みの緩和に役立ちます。特に、入浴後やリラックスしているときに行うと効果が高まります。
自宅でできる疼痛軽減に効果的な生活習慣
痛みが強いとなかなかやる気が起こらないとは思いますが、治療で痛みが減ったときに考えたらよいでしょう。
1. 適度な運動—ウォーキングやストレッチで血流を改善し、神経の修復を促します。過度な運動は避け、体に負担をかけない範囲で行いましょう。
2. 十分な睡眠—神経の回復には良質な睡眠が必要です。規則正しい生活を心がけ、寝る前にスマートフォンやテレビの使用を控えましょう。
3. バランスの取れた食事—ビタミンB群や亜鉛を多く含む食品を摂取することで、神経の健康をサポートします。例えば、玄米、ナッツ、魚類、緑黄色野菜などを積極的に取り入れましょう。
4. ストレス管理—瞑想や深呼吸でストレスを軽減し、免疫力を高めます。趣味やリラックスできる時間を大切にすることも重要です。
5. 温熱療法—入浴や温湿布で患部を温めることで、血流を改善し痛みを緩和します。特に、38–40℃程度のぬるめのお湯での入浴が効果的です。
6. 禁煙と節酒—タバコや過剰なアルコール摂取は神経の健康に悪影響を及ぼします。禁煙や節酒を心がけましょう。
まとめ
ヘルペス後神経痛は生活の質を著しく損なう疾患ですが、適切な治療とケアによって症状の軽減が可能です。鍼灸治療は、自然治癒力を引き出し、痛みの改善に役立つ安全で効果的な方法です。また、自宅でのセルフケアや生活習慣の見直しを併用することで、より効果的な回復が期待できます。
ヘルペス後神経痛に対する鍼灸治療の症例報告
症例1
状況と背景:
50代女性、帯状疱疹治癒後も持続する左胸部の痛みを主訴に来院。発症後3カ月が経過し、日常生活に支障を来すレベルの疼痛が続いていました。薬物療法(抗ウイルス薬、鎮痛薬)を受けるも効果が限定的で、鍼灸治療を希望されました。
初診時の状態:
患者さんは胸部左側の皮膚過敏感、刺すような痛み、および鈍い持続痛を訴えていました。痛みの強さはNRSで7/10。睡眠障害や食欲不振も併発しており、精神的な負担も大きい状態でした。
※NRS(Numerical Rating Scale)は、患者が感じる痛みの強さを0~10の11段階で評価する指標です。0が全く痛くない状態、10が自分で想像できる最大の痛みとされており、医療機関や救護室などで使用されています。特別な医学知識がなくても評価でき、個々の患者さんの痛みを共通して認識することができます。
病態の把握:
患者の舌診で淡白舌、苔薄白を認め、脈診では細脈が確認されました。これらの所見から、患者は「気血両虚」および「肝気鬱結」が併存する状態であると判断しました。
治療方針:
本症例では、東洋医学的に以下の治療方針を設定しました。
1.気血を補い、痛みを緩和すること:体力の回復を促進し、神経修復を助ける。
2.肝気の調和:精神的ストレスを軽減し、痛みの感受性を低下させる。
3.局所の血流促進:患部の血流を改善し、神経炎症の軽減を目指す。
治療内容:
1回の施術は40分間で、週に2回のペースで実施。以下の経穴を中心に鍼治療を行いました。
使ったツボは以下の通りです。
全身調整のための経穴
足三里(あしさんり):免疫力を高め、全身の気血の流れを整える。
三陰交(さんいんこう):内臓機能を調整し、痛みの緩和をサポート。
太渓(たいけい):腎の機能を高め、神経再生を促進。
局所治療のための経穴
大包(だいほう):胸部の痛みを和らげる。
膻中(だんちゅう):胸部の気の巡りを整え、緊張を解消。
期門(きもん):肝気の巡りを改善し、ストレスを軽減。
補助治療として
温灸:患部および背部に温灸を行い、血流促進とリラックス効果を高めました。
経過:
初回の治療後、患者は痛みの強度がNRSで7/10から5/10に軽減しまた。また、3回目の施術後には夜間の痛みが減少し、睡眠の質が向上しました。5回目の治療時点でNRSは3/10まで低下し、日常生活への支障が大幅に軽減しました。
最終的に10回の施術を経て、患者はほぼ完全に症状が寛解しました。治療終了後、患者は定期的なセルフケア(足三里と膻中の自己指圧)を続けています。
考察:
ヘルペス後神経痛は、神経の損傷と炎症が主な原因であり、慢性化することが多い疾患です。本症例では、鍼灸治療によって局所の血流改善やエンドルフィン分泌の促進が図られ、痛みの軽減が得られました。また、全身の気血の巡りを整えることで、患者の免疫力と自己治癒力が高まったと考えられます。
東洋医学的には、「気血両虚」の状態で適切な補益法を用い、「肝気鬱結」の解消を図ることで、心身のバランスが回復したことが症状寛解の一因と考えられます。
結論:
本症例は、鍼灸治療がヘルペス後神経痛に有効であることを示唆しています。特に、早期からの介入と患者自身によるセルフケアの実践が、良好な治療結果をもたらしました。同様の症状でお悩みの方には、鍼灸治療が有力な選択肢となることを提案します。
症例2
状況と背景:
令和5年2月に発症。これまでA成外科、B内科クリニック、C病院ペインクリニックに転院しながら通院中。疱疹は治癒したものの、ヘルペス後神経痛が残存し、前頭部、上額部、頬部、上唇に持続的な痛みを訴える。また、鼻汁が常に出ており、視力低下もみられる。
現在、C央病院で月に2回、三叉神経ブロックを受けているが効果はみられていない。
現症:
髪に触れるとピリピリとした不快感を覚える
右側の鼻から鼻汁が常に出る
趣味で畑仕事を行っている
これまでの治療歴:
三叉神経ブロック注射
顔面部への電気治療
既往歴:
65歳で肺がん
糖尿病(HbA1c:6.1%)
高血圧
中性脂肪高値
服用中の薬剤:
便を柔らかくする薬を服用
カロナール500mg(1日5錠)
タリージェ
その他生活習慣病治療薬
生活背景:
管理職退職後現在は役員職
基本データ:
身長:163cm
体重:60kg
血圧:140/71mmHg
脈拍:64回/分(整)
生活状況:
食欲:3食しっかり摂取
睡眠:21:30~6:00(就寝前にカロナール服用)
深夜2時ごろに痛みで目覚めるが、カロナールを服用すると再度眠れる
排便:2日に1回
東洋医学的所見:
脉:弦脉
東洋医学的診断:
心・心包・脾経の虚証、小腹部の冷え(腎虚証)
病態の把握:
心虚および腎虚による自律神経の乱れが痛みの一因と考えられる
治療方針・治療内容:
鍼灸治療を中心に鎮痛を目的とした施術を実施
右合谷-手三里に低周波鍼通電療法を施行(周波数:5-50Hz、間歇モード、施術時間:10分)
経過:
鍼灸治療10回の施術後、カロナールの服用量が1日5錠から2錠へ減少、鎮痛効果がみられた。
考察:
本症例は、ヘルペス後神経痛(PHN)に伴う慢性痛が主訴であり、これに東洋医学的介入を加えることで、薬剤使用量の軽減を達成した事例である。以下に具体的な考察を述べる。
1. ヘルペス後神経痛(PHN)の特徴と課題
PHNは帯状疱疹後に生じる最も頻度の高い合併症であり、高齢者に多くみられる。特に三叉神経領域に帯状疱疹が生じた場合、顔面の痛みや感覚異常が長期にわたり持続し、生活の質(QOL)を著しく低下させる。本症例では、髪や顔面への触覚刺激にピリピリ感があり、日常生活において苦痛が大きい状況であった。さらに、鼻汁の持続や視力低下といった症状が併発しており、自律神経の関与が示唆される。
2. 西洋医学的治療の限界
本症例では、三叉神経ブロックや鎮痛薬(カロナール、タリージェ)を中心とした治療が行われたが、症状の改善は限定的であった。PHNは慢性痛として神経障害性疼痛の特徴を有しており、西洋医学的治療だけでは十分な効果が得られないことが多い。このような場合、痛みの軽減や患者のQOL向上を目的とした補完代替医療の必要性が高まる。
3. 東洋医学的アプローチの意義
東洋医学的診断では、心・心包・脾経の虚証と腎虚証が認められた。本症例では、以下のような治療戦略が採用されている:
・心虚と自律神経への影響
心虚による自律神経の不調が疼痛を増悪させる要因と考えられる。これに対し、手三里や合谷といった全身調整作用のある経穴を用い、低周波鍼通電療法を行った点は、自律神経バランスの改善を図る上で有効と考えられる。
・腎虚と慢性痛の関連性
腎虚による冷えやエネルギー不足は慢性痛の一因とされる。本症例では小腹部の冷えが認められたため、腎を補う目的で全身の調整も含めた治療が行われた可能性が高い。
4. 治療効果の評価
本症例における鍼灸治療の導入により、以下の改善がみられた:
カロナールの服用量が5錠/日から2錠/日に減少
患者自身が趣味である畑仕事を継続できる状態を維持
これらの結果は、鍼灸治療が慢性痛の軽減だけでなく、生活の質(QOL)の向上にも寄与したことを示している。
5. 今後の課題と展望
本症例では一定の効果が得られたものの、完全な症状の解消には至らなかった
長期的な治療計画の構築
鍼灸治療の継続的な実施により、さらなる鎮痛効果や自律神経の改善が期待される。
補完療法の活用
例えば、温灸療法や薬膳など、腎虚の改善を目的とした追加アプローチを検討する価値がある。
患者教育
PHNに対するセルフケア方法や生活習慣の見直しを提案することで、患者の主体的な健康管理を促すことが重要である。
本症例は、慢性痛に対する東洋医学的アプローチの有効性を示す好例であり、特に薬剤使用量の軽減に成功した点は、薬物依存や副作用リスクの軽減に繋がる点で意義深い。今後、さらなる研究や症例の積み重ねが期待される。
おわりに
すべてにおいて良好な結果が得られるとは限りませんが、鍼灸治療やセルフケアを併用することで痛みを軽減させることができることをお伝えしました。