筋膜理論で見る全身のつながり-ぎっくり腰改善に役立つ頭部鍼治療とは?-
はじめに
昨今、ひざ関節や股関節の手術が普及しその恩恵を受ける人が増えています。一昔前は関節の手術といえば大ごとでしたが、現在では病状によりますが内視鏡を使うことで回復が大幅に短縮されていますし、人工関節置換術でも退院までの期間が短くなっています。
しかし、高齢者は一様に手術を嫌がります。歩行困難でにっちもさっちもいかなくなれば別ですが、けっこうひどくなるまで頑張って手術を回避します。
今回はそんなひざの手術と鍼灸治療についてのお話です。
ひざの痛みを訴える高齢者が手術を避けて鍼灸治療を選択する理由
手術への不安や抵抗感
高齢者の多くは、手術そのものや術後の回復に対する不安を抱いています。入院や長期のリハビリが必要になること、また手術に伴うリスク(感染症や合併症など)を懸念して、手術を避けたいと考える人が多いです。
体に優しい治療を求める傾向
鍼灸は、非侵襲的で自然療法に基づく治療法として、体への負担が少ないと考えられています。高齢者は、体力の低下や慢性的な病気を抱えていることが多く、できるだけ穏やかで安全な治療を選ぶ傾向があります。
長年の馴染み
鍼灸は歴史的に、特に高齢者の間で受け入れられてきた伝統的な治療法です。多くの高齢者は、若い頃や家族の経験を通じて鍼や灸に対する信頼感を持っており、そのため、手術よりも馴染みのある鍼灸治療を選ぶことがあります。
手術後の生活の変化を避けたい
手術を受けることで、生活の質が一時的に低下する可能性があります。日常生活における動作制限や、リハビリ期間の長さを懸念して、現状の痛みを軽減するための治療として鍼灸を選ぶことがあります。
家族や友人のすすめ
高齢者は周囲の影響を受けやすく、家族や友人が鍼灸治療で症状が改善したという体験談を聞いて、手術の代わりに鍼灸を試してみることを決断する場合もあります。逆に手術で悪くなったなどの悪評もあるので(手術のせいではないかもしれないがそう受け止められている)したがらないと聞きます。
これらの理由から、高齢者は手術のリスクを回避し、鍼灸による穏やかな治療で痛みを管理し、日常生活の質を向上させる道を選ぶことが多いのです。
症例報告
今回のケースは後期高齢者の女性の方。病院で手術を勧められたひざ痛ですが鍼灸治療で楽になるも最終的には手術に至ったものです。
1. 患者情報
年齢・性別: 75歳女性
主訴: 膝の痛みと左肩の痛み
既往歴: 長年の膝痛に対し、ヒアルロン酸注射を受けていたが効果が見られず、整形外科医から手術を勧められていた。手術を避けたいとの希望あり。
2. 初診時の症状と背景
患者は、最初に左肩の痛みを主訴として来院。左肩痛は草むしりの際、中腰で作業を続けたことによる負担が原因と考えられました。また、膝痛は20年以上前からの慢性症状であり、O脚が原因で膝の変形が進行。これにより、膝の可動域が制限され、歩行時や作業中の痛みが持続していました。
3. 治療方針と施術内容
治療方針
膝および肩の痛みを緩和し、日常生活における機能改善を目指す。具体的には、以下のアプローチを行いました。
左肩の治療
肩の痛みは、上腕二頭筋や棘下筋などに過負荷がかかったことによる筋緊張と判断。該当筋群のトリガーポイントや筋肉のコリに対して鍼治療を施し、筋肉の緊張を緩和しました。
膝の治療
O脚による膝関節への負荷を軽減するため、膝を支える大腿四頭筋やハムストリングス、腓腹筋などの筋肉を強化。筋肉の柔軟性と弾力性を高め、膝関節への圧力を緩和することを目標としました。また、鍼灸治療を通じて、膝周辺の痛みの緩和を図りました。
生活指導
膝の痛みを軽減するため、体重管理が重要と説明したものの、患者の年齢や生活習慣を考慮し、減量は現実的な目標として掲げませんでした。その代わり、膝の負荷を軽減するために杖の使用を提案。高齢者が杖に抵抗感を抱くことが多いため、手術のリスクや歩行時の負担軽減の重要性を説明し、最終的に杖を使用していただけるよう説得しました。
4. 治療経過
肩の痛み
数回の治療で左肩の痛みは消失。草むしりや日常生活において痛みが再発することなく、快適に過ごせるようになりました。
膝の痛み
膝痛は一進一退の経過を辿り、完治には至らなかったものの、治療を続けるうちに徐々に痛みが軽減。歩行時の痛みも軽くなり、来院頻度も週2回から徐々に減少し、最終的には月1回の通院で対応できるまでに改善しました。
5. その後の経過
患者が当院の治療を終了してから数年後、再会した際、膝の手術を受けたことが判明しました。友人との旅行や日常生活を楽しんでいた中で、膝の痛みと腫れが急激に悪化し、手術を決断。術後の経過は良好で、引き続き元気に生活を送られているとのことでした。
6. 考察
この症例の治療目標は、膝および肩の痛みを軽減し、患者が日常生活を快適に過ごせるようサポートすることでした。鍼灸治療により、痛みの軽減は一定の成果を上げましたが、高齢者特有の構造的な変性が進行していたため、鍼灸治療のみでの根本的な解決には限界がありました。
高齢者の場合、鍼灸治療は主に痛みの管理や日常生活の質を向上させる手段として有効です。しかし、患者の求めることと、治療者が提供できる結果にはギャップが生じることもあり、その都度患者と話し合い、現実的な治療目標を共有し、二人三脚で進めることが重要です。
7. 結論
高齢者の膝痛に対する鍼灸治療は、手術を回避または遅らせるための有効な手段となり得ます。患者の心理的抵抗を考慮しながら、生活習慣に合った指導を行うことが、治療効果を高める鍵となります。
さいごに
老化現象できたした構造的な変形は鍼灸治療でどうにもなりません。鍼灸治療がお役に立てるのは痛みを軽減し筋肉のコリをとって生活しやすくすること。また、体調をよくして睡眠食欲便通を健やかにしてあげることです。
手術は最終手段と患者さんは言います。根本治療だとお医者さんは言います。できるだけ若いうち、体力があるうちに手術をした方がいいとも言います。しかし高齢者は若ければ若いほどこのままでいたいと手術を嫌がります。あきらめがつかない気持ちは十分承知しています。
もし、このままでいたい少しでも楽になりたいと思うのであれば、鍼灸治療に加えて患者さんにしてもらうこと(筋トレやストレッチ、生活上の注意など)をしてもらいます。
決めるのは患者さん本人。人生の終盤を迎えて、これからをどう過ごすかを考えましょう。