免疫力を高める 乾布摩擦、実は鍼だった!?
心が変われば行動が変わる
行動が変われば習慣が変わる
習慣が変われば人格が変わる
人格が変われば運命が変わる
松井秀喜選手が山下星稜高校野球部元監督から贈られたことばで座右の銘だそうです。有名ですよね。もともとウィリアム・ジェイムズ(心理学者、哲学者)の言葉です。(注1)
痛みとこころの問題は昨今では当たり前に語られるようになってきました。「病は気から」と昔から言われている通り、痛みや病気はこころのありようと関係があります。(注2)
さて、腰痛とこころの問題を、鍼治療を介して紹介した論文をご紹介します。
「慢性腰痛患者における心理社会的要因と4週間後の鍼治療効果との関係(第2報)-反復測定データの解析とともに-」
筑波技術大学大学院技術科学研究科の松田えりか先生ほか5名の原著論文です。
全日本鍼灸学会雑誌,2021年第71巻2号,95-106に掲載されています。
研究の目的は、慢性腰痛患者に鍼をするとき心の問題があると治りにくいということを証明する、そんな研究です(ざっくりとですが)。
対象者は鍼治療を受けている53人。調査方法は心理尺度を図るアンケート数種類と痛みを測定するスケールで行いました。
鍼治療の方法は低周波鍼通電療法など腰部に鍼をしました。電気ばりなどと呼ばれています。一見怖そうな治療法ですが受けてみるとすごく気持ちがよくて、寝てしまう方もいらっしゃいます。
筋肉に刺入した針2本の間に弱い電流を一定の間隔(1ヘルツ~5ヘルツ)を流し、筋肉をぴくぴく収縮させます。筋肉が収縮と弛緩を繰り返すので緊張が取れポンプ作用で血流がよくなり、痛みに対する閾値が上がります。また脳内オピオイドのエンドルフィンなどが出ることが知られていて、痛みに対する麻酔効果があります。
結果は鍼治療で痛みがよくなった群「効果あり群」24人と「効果なし群」29人で比べました。
この研究は第2報です。第1報があります。それは治療直後の心理社会的要因と治療効果を調べたもので、治療直後に効果があると長期間の治療継続自体を可能にするモチベーションになりうるという結論でした。それを受けての第2報は4週間治療を続けたらどうなのという調査です。
4週間の間の治療回数や鍼の本数、治療内容、鍼灸師の年齢・経験年数などについては効果あり群と効果なし群の間に差はありませんでした。
患者の年齢が高くなればなるほど治療効果が出にくいことが示唆されました。
そして一番気になるこころの問題。「破局的思考」を調べています。なんだか恐ろしい思考ですね。
論文を引用すると、「破局的思考とは、疼痛を持続・増悪させる要因として注目され、疼痛に注意がとらわれること(反芻)や疼痛によって強い無力感を感じること(無力感)、疼痛の脅威を過大評価すること(拡大視)等に特徴づけられる。」とあります。
痛いと人は不安を感じます。その不安と向き合う人と逃げる人、2つのパターンがあります。破局的思考が強い場合、治療や運動をしても恐怖心があるためうまくいきません。今回の研究でも効果なし群はこの破局的思考の数値が高く出ました。
一生懸命鍼をしても、こころが変わらないと効果が出ないのです。
つぼなかぢの感想
患者さんは一人一人違います。慢性腰痛という悩みは同じですが、生まれも育ちも、年齢も性別も違います。慢性と言っても期間や程度が違います。
2023年現在、痛みなんて客観的に測定できてません。患者さんの訴えたことでしか評価できないのです。この論文で使われている評価方法はVAS(Visual Analogue Scale)やNRS(Numerical Rating Scale)ですが、患者さんの思っていることに左右される評価法です。(注3)
こころのありようで痛みの強さが決まることはよく体験することです。
ある患者さん。ずいぶん昔の話ですが、ハワイ旅行中は持病の慢性腰痛がまったく痛くなかった。それはもう楽しくて夢のような日々だったそう。小松空港に着いた途端、痛くなってきたと。
また別の方は、お友達とランチしてお茶してワイワイお話しして女子会を楽しんでいる間、腰は一つも痛くなかった。家に帰ってご主人の顔を見た途端痛くなった。
楽しいと痛みを忘れます。どうせ大したことのない腰痛なんだろうと言わないでください。痛いんです。ご本人にとっては大変な苦痛です。お台所でご飯を作っているとき、仕事で荷物を運ぶ時、長距離を営業車で移動するとき。痛みを感じるときは人それぞれです。一生懸命すべきことをしているときに腰が痛くて集中できません。
破局的思考について紹介しましたが、患者さんの破局的思考、つまりマインドセットが変わらなければ腰痛は楽になってくれないのです。
マインドセットとは先天的な性質やこれまでの経験や教育、思い込みなどによって作られる思考パターンのことで、個々が持つ固定化された考え方のことです。(注4)
マインドセットはコーチングや企業戦略で使われることの多い言葉です。慢性腰痛はその人の人生を表現していると言っても過言ではありません。マインドセットが慢性腰痛を作り、慢性腰痛をひどくしています。
そういったときに鍼を利用することでよくなる場合が多くあります。
「お医者様は話を聞いてくれないけど、鍼灸さんは話を聞いてくれる」、「話すことで楽になる」など患者さんからよく言われます。ただ聞いているわけではありません。患者さんの思っていることを聞いているのです。それはマインドセットがどうなっているのか患者さんの解釈モデル(注5)を聞いているのです。
鍼灸院は実はすごいことをしているのです。
大事なことは痛みに着目するのではなくどう考えるか。鍼を併用し思考を変えて行動(治癒)に結びつけませんか。
注1:レファレンス共同データベース
注2:健康情報 第一薬品工業株式会社
注3:一般社団法人日本ペインクリニック学会
注4:マインドセットとは
注5:解釈モデル