雪すかしと腰痛、その予防と対策
目次
はじめに
下痢や腹痛、ガスによるおなかのはりを繰り返す過敏性腸症候群は、生活の質を低下させ、大変つらいものです。社会人だけでなく中高生にも多く見られます。年齢とともに有病率は低下していきますが、若い人に多いといわれています。男女比では平均8.6と14.0で女性のほうが1.6倍多いと報告されています。
原因の一つに感染性胃腸炎があります。ノロウイルスなどのウイルス性胃腸炎にかかった後に過敏性腸症候群(以下、IBSと略します)になるケースが報告されています。
ほかのリスク因子として、女性、若年、ストレスや心理的問題の関与、胃腸炎の程度が強い場合などが指摘されています。
ストレスについてはストレスを感じた時に症状が悪くなることが証明されています。そして若いときにストレスで心に傷を負うとIBSのリスクを高めるそうです。
これは、学校でのいじめや、家庭環境などが子供にとって大きなストレスとなりIBSを引き起こすようです。ストレスは腸の中の免疫応答を強めることで危険因子となります。
腸の中はどうなってるの?
下痢や便秘、おなかのはりやガスなどでお困りのIBS患者さんのおなかは、健康な人と何が違っているのでしょうか。
- 腸内細菌が健康な人のと種類が違っている
- 粘膜透過性が亢進しており、腸内細菌が腸の外に出ていったり便として排出するものが再吸収されたりしている可能性がある
- 粘膜に微小な炎症が起こっていてその原因として腸内細菌、グルテン、食物アレルギーが関係している
だとすれば、これらの問題点を解決していけばIBSに苦しまずとも良くなるということです。
IBSでお悩みの方々のお話
- 食事をするとすぐにトイレに行きたくなる
- ガスがたまっておなかが苦しい
- ガスのにおいがすごく気になる
- 通勤中の車や電車で急におなかが痛くなる
- 通学中に急におなかが痛くなる
- 試験や会議などの緊張する場面が近づくとおなかが痛くなる
- 外出中や旅行中におなかが痛くなりトイレに駆け込む
- 運動がいいと聞くけど運動するとトイレに行きたくなる
- お薬があまり効いていない
- お医者さんがこの病気をあまりご存じではなく冷たくあしらわれた
- 学生の頃からずっと下痢や腹痛で悩んでいるが病院へ入っていない
- 冷え性でおなかの調子が悪くなる
- 生理になるとおなかの調子が悪くなる
- 食事するとトイレに行きたくなるので食事したくなくなる
- 良くないとわかっているけど、ストレスがたまるとお菓子をよく食べる
当院に訪れる患者さんのお話をお聞きすると、さまざまなお悩みを訴えています。すでに病院でIBSの診断を受けています。そのうえでお薬の治療を続けていますがはかばかしくないとおっしゃいます。そこでネットを調べて鍼灸治療に行き当たったのです。
過敏性腸症候群に影響を及ぼすもの
これまでのお話をまとめると次のような原因が考えられます。
- ストレス
- 腸の炎症
- 腸内細菌
- 自律神経
- 食物の種類
- アレルギー
- 生活リズム
- 冷え
当院では、これらの中で鍼灸で改善できることと、ご自身が生活を見直すことで改善できることを整理します。そして施術計画を立てて施術を始めていきます。
では、具体的にどうやって鍼灸を進めていくかご紹介します。
カウンセリング
まず、どんな症状なのかをお聞きします。痛み、ガス、下痢、便秘、不快感、においなどを訴える方が多くいらっしゃいます。
次にいつからそれが始まったのか、またきっかけは何かあったのかなど起こった時のことをお聞きします。
それから現在までの経過をお話してもらっています。どんな病院に行ってどんなお薬を服用して経過はどうだったのか、また鍼や整体などを受けたことがあるかどうか(別の症状でも結構です)。
どんな時に症状が出るのかをお聞きします。常に痛みがある場合や、食後、就寝前、ストレスを感じた時など人それぞれです。
次に腹痛や不快感の様子をお聞きします。その症状がどのくらい続くのか、どうしたら楽になるのかなどもお聞きします。午前中ずっと続く場合や、夕方からなど。また排便で軽減する、入浴で軽減するかなどです。
診察
東洋医学の立場からお体を拝見します。お顔の色や腕の皮膚の状態、脈診ではどの臓器が弱っているかや、元気のあるなしなどを見ていきます。次におなかをさわって固さや虚弱な状態を調べていきます。押さえられて痛みがあるときは言ってもらいます。そして首や腕、足などのツボの状態を調べて、体質的な問題点、どんな施術をするかを決めていきます。はりがいいのか、お灸を使うのか。また、刺激の強さなどを勘案します。
東洋医学の診察は医師の診察と違います。東洋医学ではからだの偏りを臓器の名前を使って表現します。例えば「肺に弱りがある」と判断されてもそれは現在一般的に言われている「肺」というわけではありません。東洋医学での「肺」は空気から「氣」を集めて体に送る臓気です。「氣」自体が現代の医学にはない言葉です。「氣」は元気の源です。「氣」が弱ると体力がなくなり、消化吸収力が弱くなり、免疫力も落ちます。結果ストレスに弱い体になりいろいろな病気にかかりやすくなります。
説明
診察の結果、あなたのお体がどんな状態かを詳しくお伝えいたします。そして元気になるために必要な施術手段をご説明します。ご納得がいただければ施術に移ります。
IBSの場合、腎の弱りがベースにあって脾や肺などが弱っている場合と肝が強まっている場合が多く見受けられます。体質を判断したり施術に使うツボを選ぶ際に必要な情報です。
現代医学とは違うとご理解ください。できるだけわかりやすく説明いたしますが、わからないときはお尋ねください。
施術
基本的にはりとお灸を使います。施術するツボは診察で得られた所見から目的に合ったものをいくつか選んで使います。痛みやコリの施術の場合は訴えのある場所、例えば腰なら腰周辺の筋肉のコリを探して、それを緩めるように施術していきます。
IBSの場合、自律神経のバランスをとることを考え、全鍼師会に施術していきます。腸は交感神経が主にコントロールしています。交感神経を鎮めるようにしていきます。
はりが痛かったり、お灸の熱さに耐えられないようなら、すぐに言ってください。一旦中断します。はりは本来痛くありませんが、痛点に当たると痛みを出します。お灸は熱いものですので我慢できる範囲ですることにしています。ある程度の刺激は必要と思ってください。
施術の終わりに
施術が終わると、からだの変化を確認するため診察する場合があります。IBSは慢性に経過している場合が多いので、一度や二度の施術では大きく変化はしません。
施術後の状態を確認して、これからの通院計画をご提案します。どのくらいの期間、回数で改善が見込まれるかのおおよそのお話をします。あくまで目安とお考え下さい。より早く良くなる場合もあれば、もっと期間が延びる場合もあります。しかしある程度の目安があれば安心なのではないでしょうか。私の長年の経験と勉強で得た知識でお話いたします。
次回のご予約をいただいて、お会計を済ませてもらいお帰り頂きます。
2回目以降について
1回目の後何か変化があったかどうかをお聞きします。特に変わりがなければそのようにお伝えください。検査と施術は同様に行います。そして生活習慣、特に食事についてお伺いしたうえでご自宅でできることをご提案いたします。IBSを誘発しやすい食品を控えること、冷え性対策としての温活、運動療法、睡眠の改善、プロバイオティクスなどについてお話します。必ずすべての提案を実行する必要はありません。生活や仕事に応じてできることをしていくようにしましょう。
補完代替医療とIBS
IBSの治療として応用されているものとして
- 瞑想・催眠、ヨガなど
- ハーブや自然食品
- プレバイオティクス、プロバイオティクス
- 鍼灸
- 漢方薬
IBS患者さんの30~50%がこれらの何かを利用していてその中の50%以上の方が3種類以上を重複して利用しているといわれています。
特にハーブの中のペパーミントオイルがIBSの症状の緩和に良いとされています。ネットで調べるとペパーミントオイルのサプリメントが販売されています。多くがアメリカの製品で、使用した方のお話では錠剤が大きくて飲みずらいのと一粒の量が多いせいかあまり良くなかったのことでした。半分に切って使用するなどの工夫が必要かもしれません。
鍼灸治療の有効性
鍼治療はIBSに有効であると研究で示されています。とくに病院で行う標準治療法または抗うつ薬にうまく反応しなかった場合に鍼治療が提案されています。
灸治療についても全般的IBS症状改善、腹部膨満及び排便頻度の改善に効果がると示されています。
古来から消化器疾患をその治療対象としてきた鍼灸治療は、現在では新薬の進歩により出番が少なくなりました。出番が少なくなったといっても効果はあるわけですから、うまく使えばIBSでお困りの方のお役に立てるのです。
漢方薬
IBSに桂枝加芍薬湯の有効性が確認されています。漢方薬についてはしっかりと見立てて薬を選ぶ必要があります。当院ではご希望の方に漢方専門医を紹介しています。
さいごに
小学生のころから下痢や腹痛で困っている慢性に経過するものから、ウイルス性胃腸炎のあとからIBSになってしまった方まで、多くの方が鍼灸治療に訪れます。
3カ月以上続くお悩みの場合は、改善するまでにある程度の期間がかかります。1年、2年と続いている場合はしっかり覚悟を決めてあたる必要があります。
今回紹介したように病院でのお薬の治療に鍼灸治療をすることで効果があるとはいえ、食習慣や生活習慣、運動やヨガなどを取り入れ、トータルであなたのお悩みを解決していきます。
参考:日本消化器病学会「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020ー過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版)」