はりってホントに効くの？プラセボじゃない？いえ、違います、ホントに効きます！！

はじめに

　去る、令和4年2月27日（日）に（公社）石川県鍼灸マッサージ師会主催の令和3年度第3回中央学術研修会が、金沢歌劇座第9会議室とzoomオンラインで開催されました。
　「プラセボ効果を正しく理解しよう」と題し、森ノ宮医療大学大学院教授、山下仁先生にスライドを交えてお話をしていただきました。
　（公社）石川県鍼灸マッサージ師会は石川県の鍼灸やあん摩指圧マッサージを業とする人たちで作る団体です。鍼灸マッサージの普及や療養費での施術を推進しています。
　毎年、鍼灸マッサージの資質向上として2回、県民への普及を目的に1回の研修会・講演会を行っています。今回の講演会は専門家向けではありましたが、一般の方の参加も可能にして、医学常識を知ってもらおうと企画しました。
　山下先生は私の卒業した明治鍼灸大学（現、明治国際医療大学）の1期生で同級生です。
　山下先生はこれまで、鍼灸治療の有害事象、つまり鍼灸の副作用についての研究や、鍼灸治療のエビデンスについての研究などを行っており、著書も多く出されています。
　現職の森ノ宮医療大学大学院では研究のほかに学生教育にたずさわれ、鍼灸学会などでもご活躍です。
　今回の講演は昨年上梓された『マンガとエビデンスでわかるプラセボ効果』MCメディカ出版を記念して金沢に来ていただきました。

どんな医療行為にもプラセボ効果はある

　鍼灸に限らず、プラセボ効果はついて回ります。一般にプラセボ効果というと悪いイメージが浸透しているようです。
　いわく、ニセの効果、思い込み、だまされたような、などなど。プラセボは本来の効果を検証するために与える効果のないもののことです。お薬の研究で用いられる比較検証するための物質。偽薬が一般的ですが、研究や実験に限らず、医療行為につきものです。
　効果の有無を研究するためには二重盲検比較試験が行われます。ランダムに振り分けられた2つのグループに、本当のお薬とニセのお薬（プラセボ）を投与しますが、する医師もどちらなのかわからないようになっています。
　本当のお薬が効果を出すことは理解できますが、ニセのお薬でも一定の効果が表れます。これを引き算して本当の効果を出す必要があります。
　医療において、効果のないものでも効果が出ることはよくありますし、病院の大きさ、医師の自信のある態度、ゴッドハンドと呼ばれる（誰が呼んだ？）先生、芸能人や政治家を治療したことのある有名な先生などの権威性や、新しいお薬の投与による期待、受付から診察、治療までの流れの儀式性など、プラセボとなりうる事柄は数え上げればきりがありません。
　最近ではそういったことを宣伝材料として集客に利用しているところがあります。健康産業だけでなく、いろいろな事業でプラセボは利用されていますが、医療関係に限ってお話を進めます。医学・医療ではない分野ではプラセボと言わないのでしょう。

鍼灸院でのプラセボ

　山下先生が最も力説していたことは、「知ってて仕事をしているのと知らずに仕事をしているのでは仕事の質が違ってくる」ということでした。この場合の仕事というのは施術行為とそれに伴うもろもろのこと、治療院と施術全部を指します。
　私たちが鍼灸施術して「おかげさまで楽になりました」と言ってもらったとき、鍼灸だけの効果でよくなったのでしょうか。
　昔こんな患者さんがいました。
患者さん「おかげさまでよくなりました」
わたし「鍼灸が効いたんですね」
患者さん「春になってあったかくなったからね」
わたし「・・・」

　体に直接触る行為には、お薬の治療に比べて強いプラセボ効果がつきまといます。それをしっかり理解したうえで効果の証明されたはり治療をする必要があります。プラセボ効果を否定するものではありませんが、目的を見失わないようにプラセボ効果をしっかり理解しておく必要があります。

鍼灸の研究ではプラセボはどうするの

　お薬の研究でしたらプラセボは本当のお薬と同じ形状、色、味などにして薬効だけ取り除けばいいでしょうが、はりの研究では、被検者と検者が刺したのか刺されたのかわからないようにしなければ比較試験にはなりません。刺したか刺してないかなんてすぐに分かるでしょう。そこで特殊なはりがプラセボとして開発されました。プラセボ用のはりのことをシャム鍼と言います。
　おもちゃのナイフをご存じですか。「ぶすっ」と刺すとナイフの刃が柄に引っ込むやつです。それをあの細いはりで作りました。これだと刺さりませんが、実験中のはりの操作は本当のはりと同じになります。

　そうして研究を重ねた結果、はりはプラセボを大きく上回る効果があることがわかりました。

プラセボ反応とは

　鍼灸を施術して患者さんが楽になるということの中には

1. 鍼灸の本当の効果
2. 自然軽快
3. 平均回帰
4. ホーソン効果
5. プラセボ効果

とこれだけの要因が含まれています。前述の天気でよくなった患者さんは2の自然軽快の割合が多かったのではないでしょうか。
　平均回帰というのは血圧測定でよく見られます。一回目の測定は高値ですが続けて2回目3回目と測定すると下がってきて平均値に近づくということです。鍼灸の論文で「鍼灸治療によって高い値は下がり、低い値は上がって恒常性が維持された」と結論付けるものがありますが、平均回帰を考慮して考察しなければ間違った結論となってしまいます。

　ホーソン効果はレコーディング・ダイエットがいい例です。食事内容や体重を毎日記載することで減量効果が現れます。意識することで結果が変わってくることをいいます。

　このようにプラセボ効果以外にも何らかの効果が働いていることを知っていなければなりません。ではプラセボ効果とはどんな効果なんでしょうか。1～5をひっくるめた場合は「プラセボ反応」と言います。

プラセボ効果とは

　「プラセボによって生じる非特異的・心理的・精神生理学的治療効果」、「患者が儀式、象徴、および交流を伴う治療的行為に参加することによって生じる症状の改善」、「物質としては効果のない介入がもたらす主観的不快感や病気の改善あるいは変化」などがプラセボ効果の定義です。チョー難しいw

1. 効果がなくても効いてしまう
2. ニセモノ、プラセボと分かっていても効いてしまう
3. プラセボに反応しやすい性格がある
4. 権威や儀式によってプラセボは効果を増大する
5. 期待する、事前に学習するとプラセボは効果を増大する

など、かんたんにいうとこんな感じです。信頼性の高いプラセボ効果に関する実験がもとになっています。
　4の権威や儀式というのが最初に説明した「集客・宣伝材料」としてのプラセボ効果にあたります。
施術者は、患者さんはどうしたらいいのでしょうか
　プラセボ効果とプラセボ反応、実際には区別がつきません。我々は「自分の能力や経験を過信しないで、プラセボ効果をはじめとする様々な要因（プラセボ反応）が症状・所見の改善にかかわっていることを肝に銘じておく必要があります」と、山下先生はお話してくださいました。
　そして「これらの要因をよく理解し、臨床において上手に、倫理的に扱ってください」ともおっしゃっていました。
　そういう現象が医療行為には必ずあること。知ったうえでいつも通りの施術をしてください。
プラセボ反応を「うまく利用しよう」とか考えないようにとも言ってました。症状が改善しても病状は悪化する場合があるからです。プラセボ反応は商売の道具ではありません。
患者さんは本当の効果とプラセボ反応を区別するようなことはしない方が、病気の改善に役立つと思います。いろいろ含まれたトータルとしての治療です。その中に本当の効果も混ざっているわけですから。考えすぎると脳は疑いだし、本当の効果を打ち消すほどのノセボ効果が現れてしまうかもしれません。良い効果をプラセボと言い、悪い効果をノセボと言います。

おわりに

　プラセボについて詳しく知りたい方は山下先生の書いた『マンガとエビデンスでわかるプラセボ効果』MCメディカ出版を参考として紹介いたします。
　鍼灸治療が多くのやめる人の力添えになるために、医療として広く普及するために。