冬の不摂生が春に爆発!その理由とは?春の不調の傾向と対策
腰はどれだけ曲がるのでしょうか
多くの患者さんがご自宅で体操をしています。健康管理のための体操。スクワットやテレビ体操が一般的ですがそれに加えて自己流ストレッチをしています。どの筋肉をストレッチしているのかよくわからないストレッチをしています。腰を伸ばすストレッチと言いながらうつぶせで上半身を持ち上げてエビぞりになります。それ、腰が縮んでますよと、優しくお話しします。別の方は両手を腰に添えて天井を見るように反っています。「あ~、こしがのびるぅ~」。腰は縮んでますよと優しくお話しします。確かに気持ちはいいんですが、のびているのはおなかです。
可動域
関節には動く方向と範囲があります。ぐるぐる回せる肩関節、前後しか動かない膝関節。関節の役割の違いでできる動きが変わってきます。簡単に言うと前後左右、右回転、左回転です。ほかにもありますがざっというとこの4つの動きをする関節が多いです。
腰の関節は腰椎という5つの腰骨の連結でできています。それぞれひとつづつの関節のつながりは椎骨の両脇にある椎間関節でできています。この関節のひとつづつの動きはすごく小さいです。5つが集まって腰の可動域が出ます。
椎間板が上下の腰椎の間にありますがこれは関節ではありません。
腰の可動域の測定は仙骨後面を基準にします。仙骨より前に曲がることを前屈、後ろに曲がることを後屈と言います。
ですから皆さんが腰がこーんなに曲がるんだよ、指が床につくんだよと言って見せてくれているのは実は腰だけではなく股関節の屈曲が混ざっているのです(股関節の可動域は125度です)。
つまり腰を曲げるという動作は軽く会釈した程度の動きということです。会釈の状態からもっと腰を曲げるとなると股関節の動きが関係してきます。ただし、会釈も股関節だけで行えますから、骨盤と股関節を固定しての会釈が腰の動きということです(下の写真は股関節だけ曲げた会釈で腰椎は曲がっていません)。
腰椎の可動域は
- 前屈:45度
- 後屈:30度
- 側屈:50度(左右各々)
- 回旋:40度(左右各々)
腰を動かす筋肉
関節を動かすときに筋肉が働きます。筋肉が縮むとそちらに曲がります。例えば肘を曲げると上腕二頭筋(力こぶ)が縮みます。この筋肉が作用して肘が曲がります。裏側に上腕三頭筋があります。肘を伸ばす筋肉です。肘を曲げると上腕三頭筋は伸びます。逆に肘を伸ばすときには上腕二頭筋は緩んでいます。
腰、腰椎を支えている筋肉にも同じことが言えます。背中側の筋肉が働くと腰が反ります。その際おなか側の筋肉、腹筋などが緩んでいます。
腰をそらしたときに痛いという場合、縮めたから痛いのか、伸ばされたから痛いのかを考えないといけません。
腰をそらしたとき(後屈)に縮む筋肉
〇脊柱起立筋:背骨の両脇にあります。仙骨から頸椎までの長い筋肉のひとかたまりです。腸肋筋、最長筋、棘筋という3つの筋肉でできています。姿勢を保持(気を付け!の直立不動)し、背中から腰を後ろにそらす筋肉です。棘筋は頸椎と胸椎だけにあります。
〇腰方形筋:後屈と側屈で頑張る筋肉です。腸骨(ベルトがかかる腰骨)から腰椎や肋骨につながっています。
腰をそらしたときに伸びる筋肉
〇腹直筋:通称腹筋です。おなかの表面にある薄い筋肉です。
〇腸腰筋:大腰筋と腸骨筋が合わさってできた大きな筋肉で、インナーマッスル(深層筋)と呼ばれています。牛肉でいうとヒレ肉にあたります。
腰がそった時に痛む原因
これらの筋肉のうちどこかにコリができると腰をそらしたときに腰痛が起こります。筋・筋膜疼痛症候群がどこに起こるかを考えてみましょう。その際、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、椎間関節障害などの脊椎や神経に原因のある病気、反り腰と言われる姿勢不良は除きます。
コリができる原因
コリ、つまりトリガーポイントができるのは筋肉に無理な力がかかった時です。一瞬で負荷がかかるケガなどの場合と、繰り返しの動作で無理がかかってできる場合、同じ姿勢をし続けてできる場合があります。
〇最長筋:急な過負荷や外傷、繰り返される筋肉の収縮、からだを早く曲げたりねじったりする動作、飛行機の座席に座るなどの長時間動かないでいることなどが原因です。この筋肉にコリができると痛みのため脊柱の動きが制限されます。椅子から立ち上がる、階段を上がることが困難になります。
〇腸肋筋:この筋肉にコリができる原因と症状は最長筋と同じです。
〇腰方形筋:転ぶ、交通事故、重いものを持ち上げたなど、強い力が急にかかった場合にコリができます。症状は腰の前屈後屈で痛みが出る、側屈でも痛い、階段を上がりにくいなどです。
〇腹直筋:悪い姿勢、腹部への急性・慢性の過負荷、けが、感情的ストレスなどです。腹部への急性の過負荷とは盲腸などの急性腹症、慢性の過負荷は過敏性腸症候群などの慢性の痛みが続いた場合です。症状は腹部の圧痛、張った感じ、胸やけ、嘔吐です。
〇腸腰筋:周辺の筋肉のコリ、長時間の座位(つぼなかぢは先日5時間座ってコンサートを聞いていて悪くしました)、胎児のように体を折り曲げて眠る、激しく起き上がる、大腿直筋(太ももの前の筋肉)の緊張が原因となります。症状は縦に走る腰の痛み、椅子から立ち上がる時に強く痛む、太ももの前の痛みなどです。
痛みで腰をそらすことが出来ないケース
農作業の後に腰痛を起こす方は多くいます。田植えも稲刈りも期間が決まっています。ですから腰が痛くても無理を押して作業します。作業がひと段落した翌朝目が覚めたら腰が動かないなんてことがあります。
70歳代、男性、農業。右腰痛を訴えて当院を受診しました。
1か月前、町内のどぶ掃除で泥を運び腰が痛くなりました。筋肉痛のような痛みで過去にもなったことがあり放っておいたら治っていたので今回も放置していました。ところが3週間前に農作業で悪化してしまいました。立ち座りなど動作を行う際の痛みが強く、体をまっすぐにしたり反らすと激痛が走ります。横になっていてもじわじわと痛みがあります。夜間、あお向けて寝ていると痛みが出ます。横になるとしばらくは痛みはありませんが徐々に痛くなってくるので、反対向けになる、それを繰り返しているため十分休めません。
近所の整形外科を受診しレントゲン検査、MRI検査をしましたが脊椎や神経の異常は見つからず、痛み止めとシップをもらいました。しかし楽にならないので当院を受診しました。
お話を伺い、からだを見せてもらいました。一年前より2㎏太ったとのこと。血圧は170/90mmHg。(内科で診てもらうようお話ししました)体の前後屈をしてもらうと後屈は痛くてできないが前屈はできました。右を上にして寝ると痛みが出るといいます。右側屈痛があります。
もう少し詳しく体を動かしてもらって検査をし、悪い場所を探しました。
その結果、主犯は右腰方形筋、共犯は腸腰筋と推定しました。おそらく腸内のどぶ掃除で泥をすくってみぞからあげての動作をたくさん繰り返したため右腰方形筋にコリができたのでしょう。そのあとの農作業では腰の痛みをかばって作業したため腸腰筋にコリができたと思われます。
安静時痛や夜間痛があるので炎症が強そうです。うつぶせで痛みのある部位周辺に散鍼をしました。散鍼というのはツボを決めずに触って熱のあるエリアにちょんちょんと鍼を当てていくやり方です。刺激を受けた皮膚の毛細血管が一時的に収縮して熱が引き、張った感じが緩みます。その後の施術がしやすくなるのです。
右上になって寝てもらいました。痛みが強くなるので股の間にタオルを入れて右足を外転位にしてあげました。すると腰は楽になりました。
右上の体位で圧痛点を探しました。腰方形筋の起始部近くに強い圧痛点がありましたのでそこに置鍼15分しました。
抜鍼後、第4/5腰椎棘突起間の腰陽関穴にお灸をすえました。
一度立ってもらい体の動作をしてもらったところ後屈痛はなくなりました。右側屈痛は残っていたので翌日治療をすることにしました。
結果、初診から3回の治療で側屈痛もきれいになくなり治療終了としました。
腰痛には前屈で痛みが出るもの後屈で痛みが出るもの側屈や回旋でいろいろな動作で痛みが出るものがあります。複合したものも多くあります。
筋肉の作用を知って障害される動作が何かを分析して鍼をするポイントを決めれば楽になっていきます。
筋肉の作用から考えて施術する現代的なやり方と、体質や体力、からだの元気のバランスを考えて施術する昔のやり方をハイブリッドで提供できるのが鍼灸のいいところです。
自宅での注意点
立ち上がったり反らすと痛い場合、どうしたらいいでしょうか。
- なるべく早く専門病院で調べてもらって腰椎や脊髄・神経に異常がないか確認してください。
- 病院での検査に異常がなく思ったほど改善が得られなかった場合、筋・筋膜疼痛症候群の可能性がありますので鍼灸院に相談してください。
- 痛くなってすぐに当院を受診してくださった場合は、お話を伺い検査をして病院受診が必要かどうか判断します。問題ないようでしたら施術を開始します。もしレッドフラグが見つかったら専門医への紹介状を渡します。状態がはっきりしましたら鍼灸施術を開始します。
- シップの使い方ですが、消炎鎮痛剤の入ったものは炎症には効果が高いですが筋・筋膜疼痛症候群には逆効果のことがあります。痛い場所を触って熱があるようならシップを貼ってください。
- 痛みが3カ月以上続くようであれば当院に相談してください。
自宅でできる改善方法
反らすと痛い腰痛は休んでいてもよくありません。とはいっても強い運動もよくありません。痛みがひどくならない程度の運動(個人差があります)がよいとされています。
- ウオーキング:20分をめどにゆっくり歩いてください。
- ストレッチ:腸腰筋や腰方形筋、脊柱起立筋のストレッチをしましょう。
- お灸:自宅でできる簡易なお灸が販売されています。すえる場所は押さえて痛みのあるところです。熱さを我慢せずに途中で取り除いてもかまいません。わからなければツボとやり方を教えます。
おわりに
腰痛を起こす原因はいろいろあります。「腰はからだのかなめ」、「腰はからだの土処(どしょ)」と言います。土処とは古代五行説でいうところの中心という意味です。大事な場所を痛めたら何もできなくなってしまいます。日ごろからのメンテナンスが大事です。そして慢性になるともっと厄介です。早めの対処が肝心です。
参考・引用文献:『トリガーポイントマニュアル筋膜痛と機能障害』『筋骨格系の触診マニュアル』