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まばたきでも

坂部智子

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テーマ:エピソード集

介護が必要な人が日常生活を送るのに、
福祉用具の位置や高さなど、ほんのわずかなちがいで
使い勝手や心地よさが大きく変わる・・・・ということは、
ホントに重要なことで、いつも意識しておかないとイケナイコト。

ほんのわずかな・・・というときに、いつも思い出すのが、Aさんのこと。
(亡くなられて、もう20年以上たつ・・・)
三田の病院で入院中に出会った。
筋萎縮性側索硬化症が進行し、自由に動かせるのは、もう瞼だけだった。
他はまったく動かせないので、Aさんの気に入る、安楽な姿勢を保持するというのは
相当のコミュニケーションを必要とする。

まばたきの回数で、「ハイ」と「イイエ」を区別する。
(ハイは1回、イイエは2回だった)
どこをどうしてほしいのか、経験からだいたいの“あたり”を奥さんがつけるけど
はずれた時は、文字盤を駆使して、Aさんの意向を拾う。
首なのか、肩なのか、腰なのか、
右に向くのか、左か、
どう向けてほしいのか、角度は・・・
ほんとに数ミリの角度でも、Aさんが納得するまで、このやりとりが続く。

同じ病気のBさんのご家族が、「どうやっても気にいるようにはできへんから~」と
あっさり済ませるその横で、Aさんは、奥さんとえんえんやりとりを続けている。
「どうやっても気にいることは無い」ことは、なかった。
長い時間かかって、少しずつ、Aさんの想いが形になって、
ある時、「そう これでいい」という状態に奥さんがぴたりと整える。
その瞬間に、Aさんが、1回まばたきをする。
目の玉に、笑顔が浮かぶ・・・というのか、
ほんとに、他はどこも動かないので、笑顔にはなれないのに、
瞳だけで、笑顔が伝わるのだ。
その笑顔をみたくて、やっていると奥さんは、言ってた。

「心地いい」ということの重さを、Aさんご夫婦から教えてもらっている。
数センチのコトで、役に立てた・・・なんて思っているようでは
“まだまだ”すぎる・・・ノダ!

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