パルモア病院小児科診療部長三宅理先生にお聞きしました!~でこぼこ発達の子どもたちの子育てと勉強について~
発達障害児を育てる親にとって一番不安なのが子どもの将来。この先勉強できるようになるのか、これから友達とうまくやっていけるのか、将来独り立ちできるのかなど、心配で不安でしかたがないという方も多いと思います。今日は私が今まで見てきた発達障害の子どもたちがどういう風に成長していったのか、どんなときにどんな大変な子育てがあったのかをお伝えできればと思います。(医学的な根拠は確認できていないため、私の経験に基づく主観的な話になります)あらかじめ知っておくことで心配が減ることもあります。ぜひ参考にしていただければと思います。
定型発達児(健常児)の平均的な成長曲線、そしてそれにともなう子育て曲線があるように発達障害の子どもたちも平均的な成長曲線、子育て曲線があるように思います。もちろん発達特性は子どもによって違うのですが、発達障害児の成長がその曲線からそれほど大きくはずれることはむしろ少なく、私たちもある程度予測しながら支援に当たることができています。
【発達障害児の子育て曲線アウトライン】
1.7歳頃までがとにかく辛い
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2.小学1年生~2年生は落ち着く
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3.小学3年生頃からまたしんどくなる
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4.小学6年生限定で学校生活が安定する
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5.中学1年生の4月と5月を乗り越えられるかがその後のターニングポイント
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6.中学2年生頃までに訪れてほしい自己理解
1.7歳頃までがとにかく辛い
7歳頃までの発達障害児の育児はとにかく大変です。定型発達児であれば3歳、4歳ごろに身辺自立が進み、会話ができるようになりますので子育ての辛さが和らぐ傾向にありますが、発達障害児の場合はむしろ3歳ぐらいまでが楽に感じられることもあり、赤ちゃんの時は育てやすかったとおっしゃるお母さんもいます。ところが、幼稚園に入園するあたりから特性が目立ちやすくなり、特に集団生活でトラブルが起きるようになります。幼稚園の先生の話が聞けない、教室を飛び出す、友達とのトラブルが多い、母子分離不安などで親が疲弊し相談にお見えになるケースが増えてきます。
2.小学1年生~2年生は落ち着く
小学1年生になると一旦様相が落ち着きます。1年生~2年生頃は「あれ?本当に発達障害?」「誤診だった?」「消えてなくなったのか?」と感じるぐらい周囲になじみ、安定した生活が送れることもあります。これは、この頃の定型発達児と発達障害児の成長にあまり差がなく、集団生活での凸凹が少ない(逆に言うと全員凸凹している)ためだと私は考えています。しかし実際には発達障害のある子どもは困りごとを抱えていることが多く、できないことがたくさんある中でなんとかしのいで過ごしています。この時期の子どもの困り感、SOSに気づけるかが3年生、4年生での不登校を回避する鍵となります。
3.小学3年生頃からまたしんどくなる
小学3年生になると勉強と友達関係に悩むことが増えてきます。先生の話がわからない、友達とうまく遊べないなど学校生活への負担感も大きくなります。友達の何気ない一言や自分ができないことへの劣等感から自尊心が傷つけられ、自己肯定感も下がっていきやすい時期です。子どもが何に困っているのかをよく観察し、子どもに傷つき体験が起きた時は見ないふりや様子見をせずに腹を割って子どもと対峙することが重要です。勉強については抽象概念、あいまな表現が増え、勉強に遅れが出だすケースが増えるため、心理、教育に詳しい専門家のもとで学習支援を受けられることをお勧めします。この時期から学習支援に入ると中学生になってから自律学習の芽が出てくることが期待できます。
4.小学6年生限定で学校生活が安定する
6年生になると上級生の抑圧が減るからなのか、発達からなのか、私には明確な理由がわからないのですが、学校生活が比較的安定します。学習の遅れがあっても教科学習以外で活躍できることもあり希望の見える1年となります。4年生ぐらいから不登校になっているケースでは選択式登校(好きな授業や行事だけ登校する)ができる子どももいます。6年生で全く学校に通えない場合は、様子見ではなく専門家に相談されることをお勧めします。
5.中学1年生の4月と5月を乗り越えられるかがその後のターニングポイント
中学校の入学式、GW明けに順調に学校に通えるかどうかがその後の中学校生活を大きく左右します。小学校からしんどさを抱えている子どもたちは4月に頑張って登校できてもGW明けにエネルギーがなくなり、不登校になることも珍しくありません。逆にその時期を乗り越えられれば友達とも良い関係を築きながら中学校生活を送れることを期待し、学習の底力を上げていく方向に注力しやすくなります。
6.中学2年生頃に訪れてほしい自己理解の考え
発達障害のある子ども(大人も同様に)にとって難所の一つが自己理解です。自分はどういう人間で、どういう特性があって、どういう得手不得手があって、社会でどう困っているのか、もしくは、自分はどう人の役に立てるのか、中学生後半はこういったことに気づき始めることを期待したい時期です。定型発達の早い子どもで小学4年生頃からその時期が来ますが、発達障害児においてはだいたい数年遅れてその時期が来るように感じます。これは社会との関わりに関係していると私は考えているのですが、社会から自分を見る、つまり想像力と自分を俯瞰的に見る能力に不得手があるのでどうしても自己理解の時期が遅れてしまうのだと思います。発達障害児、発達障害者においては自己理解、自己受容こそが難題の一つです。これができればもうサポートはいらなくなるというぐらいのゴールですから、自尊心を損なうことなく、本人が等身大を受け止められるよう周囲の丁寧なサポートがあるといいでしょう。ここで求められるのが親の観察眼です。子どもと正面から向き合い、思春期だからこんなもの、話をしてくれないからわからない、と逃げ腰にならずに子どものささいな言動、表情、言葉のトーンに注意を払いながら日々接してもらえたらと思います。
青年期以降、残念ながら支援実績や関わりが少ないため成長曲線がわからないのですが、今後は就労まで、もしくは就労移行の動向を知りたいというニーズも多いことから、何らかの形で支援に関わり、情報を発信していきたいと考えています。