今、ネパールが熱い(1)
外食産業で、外国人材をめぐる状況が大きく変わり始めている。
政府が今年4月、特定技能1号「外食」について、海外からの新規受け入れを停止したためだ。
ここで注意したいのは、「特定技能の外国人が外食産業で働けなくなった」わけではないということだ。すでに日本国内で特定技能「外食」の在留資格を持って働いている外国人は、これまで通り在留期間を更新でき、同じ外食分野であれば転職することもできる。
つまり、海外から新しい人材を採用する入口は閉じられた一方で、国内にいる人材は動くことができる。
その結果、何が起きているのか。
国内にいる外国人材の「争奪戦」である。
毎日新聞の報道によると、外国人採用を支援するマイナビグローバルが扱う特定技能「外食」の求人数は、政府が新規受け入れ停止を発表した3月27日から7月16日までの間に、2.6倍に増えたという。
海外から採用できないのであれば、すでに日本にいる人を採用するしかない。企業が一斉に国内人材へ目を向ければ、当然、限られた人材を奪い合うことになる。
そして、この競争で大きな問題となるのが、都市部と地方の採用力の差だ。
給与、生活の利便性、交通、住宅、転職先の多さ、同じ国の人々とのコミュニティー。外国人本人の立場から考えれば、より条件の良い都市部へ移ることには十分な合理性がある。
実際、この記事では地方の外食企業から「外国人スタッフが引き抜かれて首都圏に出て行ってしまった」という声が紹介されている。また、マイナビグローバルも首都圏で求人の増加が顕著だとしている。
これは単なる「外国人採用難」ではない。
外国人材の都市集中が加速する問題として考える必要がある。
これまで地方企業は、国内で人材を確保できなくても、海外から直接採用するという選択肢を持つことができた。
しかし、その供給ルートが止まれば状況は一変する。
東京をはじめとする大都市圏の企業と地方企業が、同じ国内人材を奪い合うことになる。資金力があり、より高い給与や充実した福利厚生を提示できる大手企業もそこに加わる。
地方企業にとっては極めて厳しい競争だ。
さらに深刻なのは、一人が地方から都市部へ転職すると、地方企業はその欠員を海外から補充できないという点である。
例えば、地方の飲食店で5人の特定技能外国人が働いていたとする。そのうち2人が、より良い条件を求めて首都圏の企業へ転職した。
以前なら、新たに海外から2人を採用することで補うことができたかもしれない。しかし、新規受け入れが止まっていれば、それができない。
残された選択肢は、国内にいる外国人をさらに探すか、日本人を採用するか、少ない人数で店舗を運営するかである。
だが、そもそも日本人を十分に採用できないからこそ、外国人材を必要としてきた企業も少なくない。
そう考えると、
海外からの新規供給停止
→ 国内人材の争奪戦
→ 条件の良い都市部への人材移動
→ 地方企業のさらなる人手不足
という連鎖が見えてくる。
政府は、外食業全体の雇用者約400万人に対して特定技能外国人は1%程度であり、受け入れ停止によって直ちに業界全体の経営が立ちゆかなくなる状況ではないとの認識を示しているという。
確かに、日本全国を一つの数字として見れば「1%」なのかもしれない。
しかし、人手不足は全国均等に起きているわけではない。
首都圏と地方では採用環境が違う。大手外食チェーンと地方の飲食企業でも、人材を集める力は違う。
全国平均では小さな数字でも、特定技能外国人への依存度が高い地域や企業にとっては、その数人が店舗を維持できるかどうかを左右することもある。
そして今回の問題で問われているのは、外国人労働者の「人数」だけではない。
人材がどこに配置されるのか、という問題である。
日本は人口減少社会に入り、地方ほど働き手の確保が難しくなっている。
その中で外国人材は、地方の産業やサービスを維持する重要な担い手になりつつある。
ところが海外からの入口を急に狭めれば、国内にいる限られた外国人材の市場価値は上がる。
市場価値が上がれば、より良い待遇を提示できる企業へ人が動く。そして人が動けば、より多くの仕事、より高い給与、より便利な生活環境を提供できる都市部へ集中しやすくなる。
これは、日本人の若者が地方から東京をはじめとする都市部へ流出してきた構造ともよく似ている。
外国人だから地方にとどまってくれるわけではない。
外国人材にも当然、職業選択があり、人生設計があり、より良い環境で働きたいという希望がある。
だからこそ、私は外国人材の受け入れについて、「日本全体で何人」という全国一律の上限だけで考えるのではなく、地域ごとの人手不足の実情を反映した仕組みを検討してもよいのではないかと考えている。
同じ外食産業であっても、東京と北海道、東北、四国、九州などでは、人材確保の難しさも人口減少のスピードも異なる。
首都圏では国内在住の外国人材を採用できても、地方では募集を出しても人が集まらない。そのうえ、地方で経験を積んだ外国人材が、より高い給与や便利な生活環境を求めて都市部へ転職することもある。
それにもかかわらず、受け入れ人数を全国一つの枠だけで考えれば、こうした地域差を十分に反映できないのではないだろうか。
例えば、全国の受け入れ上限とは別に、深刻な人手不足が確認される地域について一定の受け入れ枠を設ける。
あるいは、地域ごとの求人倍率、人口減少率、産業別の人手不足など、客観的な指標をもとに、海外から新たに受け入れられる人数を調整する。
そうした「地域別の受け入れ枠」という発想も検討に値するのではないか。
もちろん、これは外国人本人の転職や居住の自由を制限し、「一度地方で就職したら、そこで働き続けなければならない」という制度にするという意味ではない。
むしろ重要なのは、外国人材の移動を制限することではなく、海外からの「入口」の設計を地域の実情に合わせることだ。
そして、地方に受け入れ枠を設けるだけでも十分ではない。
外国人材に地方で働いてもらいたいのであれば、その地域で働き続けたいと思える環境を同時につくらなければならない。
適正な給与、住宅、日本語教育、キャリアアップ、資格取得、生活支援、地域社会との交流。
「地方だから人が足りない。だから外国人に来てもらう」というだけでは、長期的な定着にはつながらない。
企業だけにその責任を負わせることにも限界があるだろう。
自治体、企業、教育機関、登録支援機関などが連携し、「採用」だけでなく、「育成」「生活」「キャリア」「定着」までを地域全体で支える仕組みが必要になってくる。
外国人材政策を考えるとき、どうしても議論は「何人受け入れるのか」という総数に集中しがちだ。
しかし、日本全体で人口減少が進む中、その影響は地域によって大きく異なる。
だから、これから問うべきなのは、
「日本は外国人を何人受け入れるのか」だけではない。
「どの地域で、どの産業に、どれだけの人材が必要なのか。そして、その人たちにどうすれば長く地域で活躍してもらえるのか」
ということではないだろうか。
海外からの新規受け入れを止めれば、外国人材をめぐる問題が解決するわけではない。
むしろ今回の外食分野で見え始めているのは、限られた外国人材を国内で奪い合い、その結果として人材が都市部へ集中し、地方の人手不足がさらに深刻になるという新たな課題である。
人口減少も、人手不足も、地域によって事情は違う。
それならば外国人材政策も、「全国一律」から「地域の実情を見る政策」へ。
そうした発想の転換を検討する時期に来ているのではないだろうか。


