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ベトナム人技能実習生の「失踪」問題をどう考えるか  ―制度改革と育成就労への期待と課題

平山裕康

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テーマ:グローバル人材が日本を救う

近年、日本に在留するベトナム人技能実習生の約25人に1人が「失踪」しているという統計が公表されています。
技能実習生の失踪者数の推移 出入国在留管理庁資料
この数字だけを切り取れば、ベトナム人技能実習生の特性や素行に起因する問題と短絡的に受け止められかねません。しかし、実際には彼ら個人の資質に責任を帰すべきではなく、制度の構造的欠陥および不正な仲介業者の存在にこそ、真の原因を見出すべきです。



制度上の限界と矛盾

技能実習制度は、国際貢献の理念のもとに導入されました。しかし現実には、労働力不足を補う手段としての性格が強くなり、制度の本来目的と運用実態との乖離が顕在化しています。その結果として、
・日本人労働者に比べて不利な労働条件
・契約上の実習内容と乖離した単純労働への従事
・相談・救済制度の不十分さ
などが重なり、実習生が失踪という選択をせざるを得ない状況に追い込まれているのです。

悪質ブローカーの介在

さらに深刻な問題は、送り出し国での悪質ブローカーの存在です。来日前に多額の手数料や借金を負わされ、渡航後に期待との落差に直面する実習生は少なくありません。こうしたブローカーの介在は、制度の不透明さと監督体制の不十分さがもたらした副産物です。失踪問題を本質的に解決するためには、まずこの仲介構造を排除し、透明性と公正性を担保する仕組みが不可欠です。

「育成就労制度」への移行

政府は、技能実習制度を廃止し、新たに「育成就労制度」へと移行する方針を打ち出しています。この制度は、単なる労働力供給ではなく、人材育成を基盤とした仕組みを目指す点に特徴があります。

期待される効果

・実習生自身のキャリア形成の促進
・適正な労働条件の確保
・企業にとっての安定的な人材育成の実現
などが挙げられます。制度の趣旨通りに運用されれば、外国人材と日本社会の双方にとって有益な枠組みとなる可能性があります。

懸念される課題

一方で、制度名を変更するだけでは現場の実態は変わらないという懸念も存在します。
・悪質ブローカーを本当に排除できるのか
・「育成」という建前の下、依然として労働力確保が優先されるのではないか
・受け入れ企業や社会が「人材育成」という視点を本気で持てるのか
これらの課題を克服しなければ、育成就労制度もまた技能実習制度と同様の問題を抱えることになりかねません。


「25人に1人が失踪する」という数字は衝撃的です。しかし、それをベトナム人技能実習生の民族性や特性に起因するものとするのは誤りです。本質は、制度の歪みと悪質な仲介業者の存在にあります。
制度改革を徹底し、透明性の高い仕組みを整えることができれば、ベトナム人を含む外国人材は日本社会において大きな力を発揮し得る存在です。技能実習から育成就労への移行は、その転換点となる重要な機会であり、私たちはこの改革を単なる名称変更に終わらせることなく、実効性のある制度へと育て上げなければなりません。

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