『ご冗談でしょう、ファインマンさん』より

辻村豊

辻村豊

テーマ:研究開発のヒント

皆様方、お世話になっております。日々雑感を綴っております。

読んだ本の内容を話すのが好きだった

先のコラム『何もかもが揃わないとダメなのか?』の続編です。
https://mbp-japan.com/hyogo/banyohkagaku/column/5187510/

父親は読んだ本の内容を話すのが好きな人でした。私が大学生だった頃でしょうか?『ご冗談でしょう、ファインマンさん』という本を読んで、いつものごとく、特に印象に残った部分を話して来ました。
(ご冗談でしょう、ファインマンさん(上))
https://www.iwanami.co.jp/book/b656079.html

今回はその部分を書きだすことに致します。

研究結果はどのようにして生まれるものであるか?

父親が指摘した箇所には『研究結果はどのようにして生まれるものであるか?』、『そもそも研究とは何か?』、80年以上前の出来事でありながら、今でも色あせることなく、非常に重要な提言であると考えます。そこで、今回はそのまま書き出すだけとして、皆様方でそれぞれお感じいただければ幸いに存じます。
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MITでは、僕の学生時代すでに新しいサイクロトロン(イオン加速器)が作られていたが、これが実に立派なものだった。一つの部屋にサイクロトロンだけがでんと据えられ、次の部屋がコントロール室だ。技術的に何とも見事なできばえである。コントロール室からの電線は床の導管を通ってサイクロトロンにつながっており、ボタンや計器類のずらりと並んだコンソールが備わっていた。まさに「金ピカサイクロトロン」とでも呼びたくなるような豪華さだ。
その頃僕はサイクロトロンを使った実験報告をずいぶん読んだが、MITからのものはあまりないところをみると、まだまだ駆け出しの段階だったのかもしれないと思っていた。これに比べ、コーネルとかバークレー、特にプリンストンとかいったところからは、どしどし研究報告が出ている。だから僕はどうしてもこの名だたる「プリンストンのサイクロトロン」を見たくて、むずむずしていたのだ。きっと僕をあっと言わせるものに違いない!
だから月曜になるが早いか僕はさっそく物理学科も出かけていって、「サイクロトロンはどこです?どのビルディングですか?」と尋ねた。
「階下だよ。地下室の廊下の一番奥だ」
地下室だって?こんな古ぼけたぼろビルの地下室なんかにサイクロトロンが入るような場所があるもんか!と思いながら、僕は廊下の一番奥まで歩いて行き、ドアを開けて中に一歩踏みこんだ。その瞬間ほんの10秒くらいの間に、僕はプリンストンこそ僕の勉強にふさわしいところだ、と悟ったのだ。部屋いっぱいに電線が張りめぐらされ、その電算からスイッチがぶらさがっている。冷却用の水はポタポタとバルブからもれているし、部屋中ところせましと物がはみ出している。おまけにそこいら中のテーブルに道具が山のようにつかれているというすさまじさだ。この部屋一つにサイクロトロン全部が押しこんであるのだから、その混雑ぶりはまさに想像を絶するものがあった。
この有様を見て、僕は幼いころのわが実験室を思い出した。MITではわが家の実験室を思い出させてくれるようなものには一度もおめにかかったことがない。僕はこのときはっとした。なぜプリンストンの実験室から、どんどん報告が出ているのかに思い当たったからだ。彼らは実際に自分たちの手で造りあげた装置で研究しているのだ。だからこそどこに何があり、何がどう動いているかが、ちゃんとわかっているのだ。多分自らサイクロトロンを使っての研究に没頭している技師はいても、いわゆるただの技師など一人も使われていないに違いない。このサイクロトロンはMITのよりずっと小さいし、「金ピカ」どころか何もかもMITのとは正反対だ。真空装置を修理しようと思えばグリプタル(熱硬化性樹脂)をたらす。だからグリプタルがいっぱい床にこぼれている、というありさまだ。僕は嬉しくなった。彼らは別の部屋に座っておごそかにボタンを押したりしておらず、文字通り自分たちの手でこのサイクロトロンを操作して研究しているのだ。(話はそれるが、あまりの乱雑さの上に、電線が錯綜したりしているので、とうとうこの部屋から火事が出て、サイクロトロンはだめになってしまった。だから今これをいってはちょっとまずい!)
(僕はコーネル大学でもサイクロトロンを見てきたが、このサイクロトロンは全体の直径がたったの1メートルぐらいで、とても一部屋とるほどの大きさではなかった。この世界最小のサイクロトロンではあったが、すばらしい研究結果が次々と出ていた。こここではありとあらゆるテクニックが使われていて、たとえば「D」~粒子が回るD型の半円~何かを変えたいと思えば、ねじ回しを使ってDを外し、これを調節してまたもとに戻す、という作業を手で直接やっている。プリンストンですら、そう簡単には行かなかったし、MITに至っては、天井にとりつけてあっるクレーンを動かしたあげく、鉤を下ろさなくてはならないという厄介さだった。)

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辻村豊(技術コンサルタント)

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