経営者は「節税」より先に、合法的な“資金移動”を設計せよ──法人と個人を最適化する方法

吉井徹

吉井徹

テーマ:税金・節税

中小企業の経営者からよくいただく相談に、

「法人には利益が残るのに、個人にはお金が残らない」

というものがあります。

売上が伸び、利益が増え、内部留保が積み上がる。
これは一見良いことに見えます。しかし、法人に資金を貯めるだけでは、経営者個人の生活や老後資金に直結しません。

税金対策だけでは不十分です。
経営者が本当に設計すべきは、

合法的で、効率的で、リスクのない法人から個人への資金移動ルート
です。


なぜ資金移動を考える必要があるのか




中小企業経営者の場合、老後の資金源は次のようなものになります。

・公的年金
・退職金
・個人資産
・法人からの資金移動

しかし現実には、

・役員報酬が低く設定されている
・法人で支払いが多く、個人に資金が移らない
・老後資金形成の視点が不足している

といった状況が多く見られます。

法人に資金を残すだけでは十分ではありません。
税率の低いタイミングを活用し、非課税制度を利用し、社会保険負担を考慮しながら、個人へ資金を移すこと。
これが「節税」という言葉にとどまらない、本質的な財務設計です。


やってはいけない資金移動



まず避けるべき資金移動を確認します。

・個人利用の経費を会社名義で計上する
・架空の出張や接待での支出
・社外に資金を回して還流させる
・売上除外による利益操作
・不自然な役員貸付

これらは税務調査のリスクが高く、重加算税の対象にもなり得ます。
近年はクレジットカード履歴やキャッシュレス決済データが追跡されるため、グレーゾーンへの依存は危険です。


合法的で実務的に有利な資金移動ルート


ポイント・マイルを賢く使う


では、合法かつ現実的に有効な手段とは何でしょうか。
代表的なものとして、次の5つが挙げられます。


1 退職金(退職所得課税で有利)



退職金は、退職所得控除を利用できるうえ、他の所得と分離課税であり、課税対象額が1/2になる優遇があります。

例えば勤続年数が長い場合、数千万円の退職金でも所得税・住民税が非常に低く抑えられる可能性があります。
これは中小企業経営者にとって最も強力な制度の一つです。



2 旅費規程・日当(非課税支給)



国税庁通達に基づき、適正な旅費規程を整備すれば、日当や宿泊費は一定額まで非課税で支給できます。

重要なポイントは以下です。

・規程を整備している
・職務遂行上必要な出張である
・社会通念上妥当な範囲である

出張が多い企業にとっては、レシート精算が減るだけでなく、個人側に非課税で資金が移る重要な制度となります。



3 法人カードとポイント・マイル



法人カードで経費を支払うことにより、個人側にポイントやマイルが蓄積されます。

国税庁は原則として、ポイントの付与自体を課税対象とはしていません。
そのため、航空券や宿泊費などをポイントで手配することで、個人の現金支出を抑える効果があります。

これは法人から個人へ資産を賢く移転するための実務戦略と言えます。



4 役員貸付金の返済



個人が立て替えた支出を、役員貸付金として計上している場合、法人から個人へ返済することは可能です。
この返済そのものには課税関係が発生しません(利息の取扱いには注意が必要です)。

役員報酬を上げずに資金移動を行う選択肢として有効です。



5 福利厚生制度の活用



制度設計によっては、

・人間ドック
・健康診断
・研修費
・旅費
・社員旅行

など、会社負担で個人にメリットのある支出を行うことができます。
制度化されている限り、税務リスクも低くなります。


資金移動の判断基準



どの手段が最適かは、税率だけではなく、

・法人税
・所得税
・住民税
・社会保険料

これらを総合的に考える必要があります。

例えば以下のとおりです。


手段法人損金個人課税社会保険
役員報酬可能総合課税負担あり
配当不可申告分離(約20%)負担なし
退職金可能退職所得課税(1/2)負担なし
日当・旅費可能非課税負担なし
ポイント可能原則非課税 負担なし

注)配当の課税方法は、配当の種類や個人の所得状況により「申告不要・申告分離・総合課税(配当控除)」のいずれかを選択できます。
また、法人カード等で獲得したポイントは原則として値引き扱いとなりますが、法人に帰属すべきポイントを役員・個人が私的に利用した場合は、役員給与等として課税される可能性があるため注意が必要です。

これを見ると、退職金と旅費日当、法人カードとポイントは特に優位性が高いことがわかります。


役員報酬を増やさずに資金を移す方法



例えば、次の状況を想定します。

・役員報酬は低めに設定
・旅費規程を導入
・法人カードで経費支払い
・退職金制度を活用予定

この場合、

1 日当による非課税移動
2 ポイントにより現金維持
3 退職金による老後の大口移動

といった流れが成立します。

これは節税ではなく、生涯を通じた個人資産最大化のための設計です。


節税よりも、資金移動の設計が重要


賢く資産移転で明るい未来の経営者


税金を減らすこと自体が目的ではありません。

本来の目的は、

・法人と個人のバランスを整える
・老後資金を確保する
・キャッシュフローを安定させる

ことにあります。

法人に資金を残すだけでは不十分であり、個人への資金移動を戦略的に考える必要があります。


無料相談



法人に資金が貯まっているが個人に残らない。
役員報酬を上げたくないが老後資金が不安である。
退職金・旅費・ポイントをどう組み合わせれば良いかわからない。

このようなお悩みをお持ちの場合は、法人と個人の両方から最適な資金移動ルートをご提案いたします。

合法で安心な資金移動は、経営者の将来に大きな差を生みます。

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吉井徹
専門家

吉井徹(ファイナンシャルプランナー)

株式会社グッドウェル

会社財務と経営者の個人資産を両輪で考え、企業の発展と理想の人生をかなえるお金の仕組みづくりをサポートする「法人顧問FPサービス」を提供。中小企業オーナー経営者のお金の悩みに寄り添い、解消へと導きます。

吉井徹プロは中国新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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