「問題解決モデル」と「関わり成長モデル」について
最近、あるテレビ番組でプロのスポーツ選手のメンタルをサポートするのに、AIのカウンセリングがあればいいというコメントを聞いた。AIで自分の悩みを聞いてもらう、慰めてもらう、助言をもらうと良いと考えての発言だろうか?
カウンセリングは「2人の人が出会って成立するもの」だと考えている私にとって、寅子ではないけれど「はて?」と立ち止まる言葉であった。
カウンセリングは、日常と少し離れて自分のことを語る場を提供する。カウンセラーは、それがあなたにとってどのような体験なのか、あなたがどう考えているのか、どうしたいのか、ということをはっきりと理解していくために、充分な時間を準備して話し合う。
私の相談室では、完全予約制で50分で8000円としている。そのために必要な時間と場所、カウンセラー自身を提供するためにかかる金額である。相談に来られる方にとっては、困難の多い日常から少し離れて、ひと息ついてホッとして、ふと出てくるイメージや気持ちを大切にしながら、他では話さない(話せない)ことを言葉にしつつ考える・・・そのような時間の流れの中で、カウンセラーとの間で新しい関わりの経験ができるように、お会いしたいと考えている。多くの場合カウンセリングは必要な期間継続していくが、カウンセリングで会っている時間はもちろんだが、離れている時間も、どこかで静かにお互いが影響しあっている。ここまで書いてみて、2人の人がひとりひとりの個人として出会うということを強調したくて「2人の人が出会って成立する」ということを私は言いたいのだなあとわかる。
ここで思い出すのは、エレンバーグの「The Intimate Edge」という著書である。エレンバーグは女性で対人関係学派の精神分析家でありながら(私の印象では固い人が多いというイメージです)とてもチャーミングでお洒落で、直感力に優れた人である。私は彼女に憧れて、その英語の本に取り組んだ。Intimate Edgeというのは、分析家と被分析家とが出会う親密な接線(接点の集まりが線になる)のことである。彼女が広島に来られたとき、それは、丁度波打ち際のラインのように、2人の間で常に動いているものだと、教わった。
私自身まだ充分には理解しきれてはいないのであるが、今私が考えるカウンセリングとは、2人で時間を共有し、何かを感じ考えながら互いが影響を与えつつ、ある方向に進んで行くということである。
これがAIによるカウンセラーだったら、どうなるのだろう?場所は?時間は?AIはどのように1人の相談者と会うための準備をするのだろう?互いの間にある親密さというのはどう考えればいいのか?