コトバにすること、話すこと
初めてエーリッヒ・フロムの名前を知ったのは、高校の倫理社会の教科書であった。『自由からの逃走』の著者であり、うっすらと残る印象では社会学者として紹介されていたように思う。30代で大学院に入学して、精神分析の流れも先人の教えもよく知らないまま、3図書館でその『自由からの逃走」を手にとった。当時教授だった鑪先生に、「どんな本を読んでいますか?」と聞かれて「自由からの逃走です」と答えた。フロムが、鑪先生が学ばれたニューヨークホワイト精神分析研究所の創設メンバーの1人であり、精神分析家であるということを知ったのは、それからしばらく後のことであった。
フロムの多くの著作が、日本語に訳されて出版されている。「愛するということ」は良く知られていると思う。元の英語は、The art of loving "Art"というのは、身につける技であり、同じ技でもテクニックとは異なる。そこに生きている身体をもつ人間が中心にあるということが大きな違いだと思う。
最近、フロムの遺作である「聴くということ」The art of listening を読んでいる。フロムが晩年を過ごしたスイスで行ったセミナーの講義録であり、遺稿である。フロムのことばのひとつひとつが、今の時代を日本で生きている私のこころに、語りかけ、問いかけてくる。