最近の空き家売却実例から1
不安を煽る広告に、実務の立場から冷静に答える
最近、ポータルサイトやニュースサイトの広告欄で
「専任媒介はやめたほうがいい」「専任媒介は危険」
といった刺激的な見出しを目にする機会が増えています。
一見すると、売主の味方のように見えるこれらの情報ですが、
実務の立場から見ると、極めて一面的で、誤解を招く表現が多い
というのが率直な感想です。
本記事では
- 宅建業法
- 国交省の制度設計
- 実際の売却現場
を踏まえ「専任媒介は本当に危険なのか?」を冷静に整理します。
1.専任媒介契約は「危険な制度」なのか?
まず大前提として押さえておきたいのは、
専任媒介契約は、国が制度として定めた正規の媒介契約であるという事実です。
専任媒介は
- 国土交通省が定める「標準媒介契約約款」に明確に位置づけられ
- レインズ(指定流通機構)への登録義務
- 売主への定期的な業務報告義務
など、売主保護を意識したルールが課されています。
制度そのものを「危険」「損をする契約」と断定することは、制度設計の趣旨と整合しません。
2.「専任媒介=囲い込み」は成立しない
広告でよく見かける主張が、
専任媒介にすると囲い込みされて売れなくなる
というものです。
しかしこれは、因果関係が成立していません。
囲い込みが起こる原因は何か?
囲い込みの原因は、
- 両手仲介を優先する姿勢
- 情報開示を怠る体質
- 売主への説明責任を果たさない運用
といった業者側の姿勢の問題です。
実際には、
- 一般媒介でも囲い込みは起こります
- 専任媒介でも、適切に運用されていれば起こりません
問題は媒介契約の種類ではなく、業者の姿勢と管理体制です。
3.広告が触れない「一般媒介の現実的リスク」
一方で、広告ではほとんど語られないのが
一般媒介契約の実務上の弱点です。
実務でよくある一般媒介の課題
- 各社が「他社がやるだろう」と本腰を入れない
- 販売戦略が統一されず、価格調整が遅れる
- 売主への報告義務がなく、状況が見えにくい
- 情報が錯綜し、買主側が不信感を抱く
特に、
- 地方エリア
- 条件に癖のある物件
- 価格調整が不可避な案件
では、一般媒介=実質的な放置状態になるケースも珍しくありません。
4.なぜ「専任媒介は危険」という広告が増えるのか
理由は明確です。
これらの広告の多くは、
- 売主の不安を煽る
- 不動産会社への不信感を高める
- 「中立」を装って査定サイトへ誘導する
ことを目的としています。
最終的なゴールは、
売主情報を集め、不動産会社へ紹介(販売)することです。
皮肉なことに、
不動産会社は信用できない
専任媒介は危険
と煽る広告自体が、
売主にとって最も注意すべき情報源になっているケースもあります。
5.実務の結論:専任媒介は「危険」ではない
実務の立場からの結論は明確です。
専任媒介が危険なのではありません。
危険なのは、
- 説明しない
- 報告しない
- 責任を取らない
不動産会社です。
専任媒介は、
- 販売戦略を一本化できる
- 交渉の窓口が明確になる
- 売主が状況を把握しやすい
という点で、正しく使えば非常に合理的な契約形態です。
6.売主が本当に見るべきポイント
媒介契約を選ぶ際に重要なのは、
• 専任か一般かではなく
- どのように説明されているか
- どのように報告されるか
- どこまで責任を持つのか
という点です。
この視点を持つだけで、広告に振り回されることはなくなります。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
まとめ
「専任媒介は危険」という言葉は、
分かりやすいが、正確ではありません。
本当に問われるべきなのは、
「その不動産会社は、専任媒介を誠実に運用できる会社か?」
という一点です。
不動産売却は、契約形態よりも「人」と「運用」が結果を左右します。



