不祥事を国土交通省へ報告していないマンション管理会社は存在する ~行政処分を一度も受けた事がないというアピールポイントは信じるべきか~
「時効」という言葉は、テレビ等で見たり聞いたりした方は多いのではないでしょうか。
時効とは、ある出来事から一定の期間が経過したことを主な法律要件として、現在の事実状態が法律上の根拠を有するものか否かを問わず、その事実状態に適合する権利または法律関係が存在すると扱う制度、あるいはそのように権利または法律関係が変動したと扱う制度のことです。
時効には、民事法における時効と刑事法における時効があります。多くの方は、ある一定期間逮捕されなければ、罪は問われないという刑事法における時効について馴染みがあるのではないでしょうか。ここでは、民事法における時効について述べます。
時効には、取得時効と消滅時効があります。取得時効とは、ある事実状態が一定期間継続した後、その者に権利を与える制度です。具体例として、20年間、所有の意思をもって平穏かつ公然に他人の物を占有した場合、所有権を取得できる(民法 第162条)というものです。消滅時効は、一定期間権利を行使しない場合、その権利を消滅させる制度です。代表例が、金銭債権に基づく請求権の消滅時効で、債権の種類によって時効期間が決まっています。
本タイトルにある管理費等の請求権は、何年で消滅するのでしょうか。
「管理費等は、管理規約の規定に基づいて、区分所有者に対して発生するものであり、その具体的な額は総会の決議によって確定し、月ごとに所定の方法で支払われるものである。管理費等の債権は、基本権たる定期金債権から派生する支分権として、民法第169条所定の債権に当たるものというべきである。」とした平成16年4月23日の最高裁の判例があります。つまり、管理費等は、定期給付債権の消滅時効に該当し時効期間は5年となっております。
管理費等の滞納者対策については、時効を完成させないようにすることを考慮しなければなりません。時効が完成してしまうと、請求できなくなるため管理組合の財政は大きな損害となります。
時効を完成させない為には、時効を中断させなければなりません。時効を中断させるには、裁判上(訴訟、支払い督促、調停等)の請求(民法149条~153条)、滞納者の債務の承認(民法156条)、差押え・仮差押え・仮処分(民法154条、155条)の3種類があります。時効が中断すれば、それまでの期間がリセットされる為、また、0からのスタートとなります。
また、時効の完成は、滞納者が時効の援用をしない限り成立しません。援用とは、自己の利益の為に主張することで、滞納者が「時効により支払いません。」ということなのです。だから、時効の援用をされない為にも時効の制度について管理組合は滞納者に対し伝えないことです。この場合、時効の制度について管理組合は滞納者に対し伝える義務はありません。滞納者が時効期間を過ぎて滞納管理費等を支払いした場合、滞納者は、時効の利益を放棄したこととなります。
以下、時効について正確に理解していない為の失敗例を上げます。
失敗例①
滞納者の滞納管理費等の滞納期間が5年超えた場合の以下のやり取り
管理組合役員、又は管理会社社員:「○○さん。滞納管理費は、時効期間の5年過ぎた為請求できなくなりましたね。」
滞納者○○さん:「滞納管理費は、5年で時効になるのですね。じゃ、払わなくていいのですね。」
このケースは、滞納者に対し時効の利益を与えているのです。時効の利益を滞納者に対し伝えることは、決して親切なことではありません。
失敗例②
滞納者の滞納管理費等の滞納期間が4年10ヶ月となり、管理組合役員、管理会社社員が、督促状を内容証明郵便で送付。その後、滞納期間が5年5ヶ月となったあとのやり取り
滞納者○○さん:「滞納管理費等について、時効を援用します。」
管理組合役員、又は管理会社社員:「7ヶ月前に、督促状を内容証明郵便で送付し、請求しましたから、時効は中断し たのですよ。」
滞納者○○さん:「確かに7ヶ月前、督促状で請求を受けましたが、この請求方法では、時効は6ヶ月間停止しますが、 6ヶ月を過ぎると6ヶ月前に遡って再び時効は進行します。よって、時効は中断していないので、時効は 完成したのです。」
このケースは時効の中断理由を正確に把握していない為に、滞納者に時効を援用されたのです。督促状を送付した後、6ヶ月間時効は停止しますが、この6ヶ月以内に裁判上の請求を行わないと、時効は中断しません。
時効の中断について正しく理解していた為に、時効を中断させた成功例
管理組合役員、又は管理会社社員:「○○さん、滞納管理費等の一部でいいから支払っていただけませんか。」
滞納者○○さん:「本当に一部でいいのですか。それでは、滞納管理費等の一部
の○○円支払います。」
管理組合役員、又は管理会社社員:「○○さん、領収証です。但書には、5年前の管理費等の一部としておきました。」
支払いは、時効中断事由の「債務の承認」に該当します。