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清野隆(せいのたかし) / マンション管理士

マンション管理トータルサポート

コラム

大規模修繕の進め方 ~コーディネーターの活用~

2017年9月28日 公開 / 2017年9月29日更新

コラムカテゴリ:住宅・建物

マンション管理において、「大規模修繕」については、必ずと言っていいほど我々マンション管理士に相談が寄せられます。相談の主な内容は以下の通りです。
①大規模修繕は、どのように進めていけばよいのか。
②大規模修繕は、どのような工事を行うのか。
③大規模修繕は、どのくらいの費用を要するものなのか。
④大規模修繕は、築後何年くらい、又は前回の大規模修繕完了後、何年で行うのが適切なのか。
上記の相談は、1回目の大規模修繕であっても2回目以降でもほぼ同じ内容です。しかし、2回目以降の大規模修繕の相談には、以下の内容が加わることも多いです。
①1回目の大規模修繕では、あらゆる状況において失敗があったため、今回は失敗のないように行いたい。
②2回目の大規模修繕と1回目の大規模修繕では、工事内容が異なるのか。
大規模修繕実施にあたっては、どの管理組合も準備を始めると思います。まず、「修繕委員会」を立ち上げる管理組合が多いのではないでしょうか。そして、とりあず、改修業者から見積書を取得するのではないでしょうか。
マンション管理に詳しい組合員、管理会社を含めた管理のプロがいない場合は、「手探り」の状態で修繕委員会は進んでいくと思われます。
         
大規模修繕における失敗例
大規模修繕において失敗例を以下にまとめてみました。
①入札方式
工事業者一斉に見積書を提出させ、一番金額の安い業者に決定する方法ですが、単純に金額だけで決めるのは後々のトラブルとなります。工事の仕様など工事内容の吟味の上で入念に協議した結果、業者を決めるべきです。
②共通仕様での見積り→業者決定
診断業者に建物診断を依頼し、その診断結果を基に補修箇所等の数量を算出します。その算出された数量を基に複数の業者に見積りを依頼し、金額の一番安い業者に発注する方法ですが、診断業者の診断の正確さに問題がないかを検討するべきです。実際に起こった話ですが、診断業者が算出した補修箇所等の数量を基に施工を開始したところ、実際は、その数量以上に補修必要箇所があり、見積金額では採算が合わないと管理組合に追加費用の申出を行ったところ、管理組合と診断業者の間でトラブルとなった事例です。因みにその診断業者は、大手エレベーターメンテナンス会社で、その診断料は100万円だったそうです。診断レポートは、かなり立派なものだったようですが、内容は診断ミスとも思えるような結果なのです。また、このエレベーターメンテナンス会社は他のマンションの診断においても、「屋上防水工事は、現段階では必要なし」と判定していました。この診断結果を受け、そのマンションは数ヶ月後に大規模修繕工事に着工し屋上防水工事は施工しませんでした。工事完了後2年も経過しないうちに最上階の居室で雨漏りが発生しました。「調査時は屋上防水に問題はなかった。当社の診断に調査ミスはない。」というエレベーターメンテナンス会社の回答でしたが、管理組合には不幸な結末となりました。
②実費精算方式
見積りの段階では、概算のような金額で受注し、施工完了後、実際施工した数量で請求する方法です。この方法では、悪質な業者は、かなり安い金額でとりあえず工事を受注し、施工完了後にかなり高い金額を請求します。「見積り以上に不具合箇所が多く見受けられましたので補修しました。」と請求根拠を示され、さらに受注条件が「実費精算」であると請求の正当性を主張してきます。当然、管理組合としては請求を拒むことはできません。当然、管理組合としては、不愉快
な気持ちになるだけでした。何だか、騙されたような感じでした。
③第三者施工管理方式
建築士事務所等に診断調査、数量積算、施工管理を依頼する方法です。この方法でよく耳にするトラブルは、数量の間違いから工事期間が延びたりする他、施工管理者が施工業者に強く指導できない場合があるということです。なぜなら、建築士事務所は、建設会社から仕事を頂いているケースが多く、管理組合とは無関係の場面で建築士事務所と建設会社の主従関係が築かれていることがあるのです。もし、上記の主従関係が築かれていた場合、建築士事務所は管理組合の立場に立って施工業者に異議を申立てるのか疑義があります。

                         私が行った大規模修繕コーディネート
私が大規模修繕コーディネート契約を頂いた管理組合では以下のような手法で大規模修繕を行いました。先に結論を申せば、組合員全員に不満、不平もでることなく大規模修繕を終えることができました。
①修繕委員会発足
修繕委員会発足にあたり、修繕委員会の目的、大規模修繕工事の概略、修繕委員会のスケジュール、工事金額の予算を協議しました。
②建物現状の把握、見積り、診断業者の選定
建物の原状を把握するために、見積り、診断業者の選定を行いました。見積りと診断業者は分離しないようにし、業者は修繕が必要な箇所は全て計上して頂くようにし、提案工事がある場合は、その旨を別の見積書を提出して頂くようにしました。
また、全組合員を対象に専有部分、共用部分の不具合箇所お尋ねアンケートを実施しました。
業者の募集にあたっては、全組合員に働きかけて見積りと診断をして頂く業者を集めました。
③見積り業者への指示
業者には、見積り金額は実費精算とならず、施工時、見積り数量より多くなったとしても業者がその責任を負う事を説明し、図面貸出期間、現地調査の日程をお知らせしました。さらに、組合員から提出されている専有部分、共用部分の不具合アンケートを渡し、不具合個所把握して頂くようにしました。
組合員より「数量は実際に施工してみないとわからないのではないか。」という意見がありましたが、「業者の実績による経験値から調査数量と施工数量を乖離しないように見積りできるのではないでしょうか。業者の腕の見せところではないでしょうか。」と説明したところ納得して頂きました。業者は、数量を多めにすれば見積り金額は高くなりますし、少なめにすると見積り金額は安くなりますが、採算の取れない仕事になる可能性があります。このような事情から、業者は調査と見積りにかなり真剣に取り組みます。
④見積り業者による全組合員に対するプレゼンテーション
全組合員を対象に見積り業者によるプレゼンテーションを行います。これは、全組合員にどんな業者が見積りをしたのか、現在、建物はどんな状態なのか、どんな工事をするのか、どのくらいの金額となるのかを理解して頂く機会なのです。
業者の説明時間が長すぎると、組合員の集中力が維持できないこともあるので、1業者30分くらいと時間制限を設けるようにしました。また、プレゼンテーション開催にあたり、参加できる業者は3社くらいに絞り、その選定に当たっては、全業者の見積書の提出が完了した時点で修繕委員会において協議、決定します。
業者には、以下の内容でプレゼンテーションを行って頂きました。
・会社概要、沿革
・建物の現在の状態
・改修工事の手順、工法
・工事実績の紹介
・施工保証、会社消滅時(倒産等)の保証(保険に加入しているかどうか)
プレゼンテーション終了後、全組合員に発注予定業者決定のためのアンケートを実施します。アンケート結果に基づき発注予定業者を決定しました。
⑤発注予定業者との協議
修繕委員会において、発注予定業者と見積項目の精査と協議を行いました。協議内容は、以下の通りです。
・項目毎の工事の必要性
・追加工事項目と削除する工事項目
・修繕委員会発足当初に計上した予算とのすり合わせ、及び価格交渉
すべての協議が終了し、工事内容、工事金額を決定しました。
⑥工事説明会
修繕委員会で協議し決定した、工事内容、工事金額の報告を行い、発注予定業者による工事説明会を実施します。工事説明会は、2回以上行い全組合員に周知徹底するようにし、工事着工後「聞いていない」というトラブルをなくすようにしました。
工事説明会終了後、全組合員に「大規模修繕工事に関する覚書(合意書)」に署名捺印を頂き、80%以上の組合員の合意が得られた段階で工事を発注し着工しました。
⑦タイル部分打診検査、中間検査
施工業者には、着工前にタイル部分打診検査、中間検査を実施する旨を予め伝えました。施工業者から、検査可能な状況との連絡を頂いた後、修繕委員、施工業者、コーディネーターである私で中間検査を行いました。尚、タイル部分打診検査については、コーディネーターである私、一人で行いました。
⑧竣工検査
前項目⑦と同様です。
⑨工事完了報告会
全組合員を対象とした工事完了報告会を行いました。
以上、大規模修繕の進め方、及びコーディネーターの関わりについて述べましたが、大きなポイントは、常に「合意形成」を意識する事です。たとえ面倒な事であっても省略はしないことです。コーディネーターは、あくまでも管理組合の補助者であり、主役は管理組合なのです。
コーディネーターの主な役割は、大規模修繕を円滑に進め、全組合員の納得が得られるようにするための準備と提案を行うことなのです。最終的には、全組合員の方に快適なマンションライフを謳歌し続けて頂くことなのです。

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